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第197話 諦めない

最近は更新頻度高いですね

体が軽い。



いつも以上に魔法が身体に馴染む……これが本来の魔力で使用した雷魔法、威力も何もかもが段違いだった。



「これで20%……恐ろしいわね」



100%解放できた時の力が気になる……だが今はそれよりも目の前の少女を倒す事に集中しなければならなかった。



なのに……



『ちげーよ、今のは重心を残しつつ右に避けて懐に潜り込むんだよ』



「うるさいわよ!集中出来ない!!」



アクトールの戦闘における指示が鬱陶しかった。



だが言っている事は的確、最適に近いのがまたムカつく……そもそも神と言っていたがアクトールは神らしく無かった。



何というか……おっさんに近かった。



『小娘、前!!』



アクトールが突然叫ぶ、眼前に拳が迫っていた。



距離は取っていた筈……だが考えて居ても意味は無かった。



迫る拳を下から殴り上げる、だが威力は落ちずにシャリエルの腹部に直撃した。



込み上げる吐き気を我慢しながら距離を取ろうとする、だがまたアクトールの声が響いた。



『距離を詰めろ!!』



その言葉に踏み止まる、彼の言葉はさっきから正しい……今回は素直に聞いて置いた方が良さそうだった。



微かに後ろへと行きかけて居た重心を思いっきり前に傾ける、そして勢い良く地面を蹴るとマリスとの距離を一気に縮めた。



「おっ……」



彼女の右腕が何故か無い、チャンスだった。



右の蹴りを左の腕で受け止められる、だがすぐさま逆足で顔面目掛け蹴りをお見舞いする、地面に手をつき体勢を立て直すと蹴りでよろけて居るマリスの足をに追加で蹴りを入れて倒れさせると馬乗りになった。



「おっ……」



自分とあまり歳も変わらなさそうな少女を殴るのは気が引けるが……そうも言って居られなかった。



「ごめんなさい……」



雷を纏い拳を振り下ろす、マリスは何の抵抗もしなかった。



「くっ……」



無抵抗の人を殴り続けるのはこんなにも苦しいとは思わなかった、私が殴られている訳でも無いのに痛い……吐き気がする、気分が悪かった。



『この感じ……まずい、殴るのをやめろ小娘!』



「あ……え?」



アクトールが止めた頃にはもう遅かった。



吐き気は殴っているからでは無かった、視界が歪む……辺りに見えない何かが漂っている様だった。



「私があんたに殴られる程弱くない」



殴り倒して居た筈のマリスは黒いモヤとなり消え、モヤの中からマリスが姿を表した。



だがまずい……視界が安定しない、足もふらつく、力が入らなかった。



『こりゃ……まずいな』



アクトールの声は深刻そうだった。



「シャリエル!!」



サレシュが駆け寄って来ようとするが手で制止した。



『良い判断だ小娘、瘴気……吸い込んだ者の魔力に異常を発生させ、吐き気やめまい、呼吸困難など様々な現象を引き起こす……呪いに近い物だな』



冷静に情報をくれるアクトール、ありがたい……サレシュに助けを求めなかったのは何となく危ない気がしただけなのだが理由が分からないと分かるでは全然違う。



だがどう言う事なのか、殴って居たマリスは確かに実物だった……だが突然瘴気となり消えた……分からない事だらけだった。



だが今はそれよりも、瘴気の影響がヤバかった。



「立って……居られない」



軽い瘴気には幾度か当てられたことがあるがこれ程の瘴気は初めて……自力で治すのは不可能だった。



『ったく……力を与えてやったのに何つー体たらくだよ、ちと器と決めるには早計だったか?』



そう言いアクトールの気配が消える、見限られたのか。



せっかく力を貰ったのに無力なままだった。



無力、そう思ったのは何度目だ。



そしてそう思う度に助けを求め、諦めかけて来た……そう言えばいつも、近くに誰かいた様な気がした。



アーネストやライノルド、アイリスも……もう一人誰かいた様な気もするが……皆んなに助けられて来た。



そしてまた、サレシュやユリーシャ、アルテナ達に助けられるのだろうか。



何度も、何度も、ピンチになる度に仲間に頼る気なのだろうか……アーネストを、ライノルドを、アイリスを……助けられなかったのは私の力が足りなかったのもある、だが本当に足りなかったのは自分を信じる事だった。



「本当に……情け無いわ!!」



「立つなんて情報は無かったな」



立ち上がるシャリエルに無表情ながらも驚いた様子だった。



本当は立てない、立ちたくない、気持ち悪いし頭も痛い、目眩もする……鼻血も出て来た。



『流石俺の見込んだ器だな』



アクトールの気配が戻って来た。



「アンタには負けない……仲間に傷は付けさせない!」



拳を構える、本来の私は聡明の筈……マリスを観察し、考える……それも一つの戦い方だ。



先程距離を空けたのに飛んできた拳を見る限り取り外しが可能なのだろう、人間では無いのを見たところ不思議では無い。



そして瘴気で出来た複製体……あれが分からなかった。



目の前に居る奴も罠じゃ無いとは限らない……そもそもどんな魔法を使って居るのか、それを解明しない事には勝ち目は無かった。



「アクトールは何か分かる?」



『俺をなんだと思ってんだよ……ったく、見たところあれは人間では無い』



「それは聞いた」



『まぁ口を挟むな、どう言う原理なのか、身体の中心に埋め込まれたコアが原動力となり動いている様子だな……ただ、何故記憶や人格があるのかは分からん、ただ彼女の魔力が尽きる事は無い』



魔力が尽きることが無い……少し前の私なら信じられ無かっただろう。



「けどどう言う原理で魔力が尽きないの?」



『この世界は無限に近い魔力に満ち溢れている、魔力は大地から木々から、ありとあらゆる生命から生み出され、消費されている……この少女の魔力は言わばこの世界そのもの、使った側から回復してるんだよ』



「そんなの……反則じゃ無い」



尽きる事のない魔力、正真正銘の化け物だ。



『悲観する事はない、幸いにもコイツ自体の魔力はそれ程大きくない、尽きない魔力を持って居ても発動できる魔法の大きさにはリミットがある、先程から大きな魔法をぶっ放して来ないのが良い証拠だ』



アクトールのその言葉に思い出す、確かに彼女自体は殴りや瘴気などそれ程魔力を消費しない攻撃ばかりだった。



アクトールの言葉には信憑性があった。



『ただ気を付けろよ、派手な魔法を使用出来ないってだけである程度の魔法なら使える筈だ、強敵であり、神から見ても化け物なのは変わりない』



神からの化け物宣言付き……だが戦うと、守ると決めた以上、やるしか無かった。



「来なさい……生憎、化け物とやるのは慣れているのよ」



「化け物……ね」



そう言いマリスはポケットからボタンの様なものを取り出し、押そうと指を近づけた。



本能的にやばいと感じた。



だが距離を取ったせいで間に合わない、何か嫌な事が起こる……そう思った時、アルラの姿が見えた。



「それはしては行けませんマリス」



ボタンを押す寸前でアルラがマリスを制止する、そして術式を首元で発動させるとマリスがその場に倒れ込んだ。



「時間稼ぎ感謝しますよ、これで洗脳は解けた筈ですから」



そう言い倒れたマリスを持ち上げ、レクラに手渡した。



「リリィ、彼女を回復させてあげて下さい」



「了解」



見慣れない人が増えて居た。



桃色の少女や白髪の女性、どれも不気味な魔力の持ち主だった。



「フェンディルの姿が見えませんね」



アルラは辺りを見回しフェンディルの姿を探す、様々な魔力残滓が漂っているが微かにフェンディルの物も感じる……ここに居たのは確かだった。



「あのサイクロプスなら『主人の存在を感じる』とか言って何処かへ行ったわよ」



「主人の……存在」



その言葉にアルラの表情は険しくなった。



この場合の主人はどっちを指すのか……隼人さんなのかウルスなのか……だがどちらの気配も感じなかった。



「一体フェンディルは何を……」



その時街を少し外れた場所にある森から膨大な魔力の柱が天へと上がった。



「何……あれ」



かなり離れているのに呼吸が苦しい……とんでもない魔力濃度だった。



「とうとうお出ましだな」



「その様だねレクラ」



リリィとレクラが顔を見合わせる、そしてアルラの方に視線を向けるが既にアルラはそこに居なかった。



「この魔力……何故隼人さんがウルスと……」



恐らく他の守護者はウルスの魔力が大き過ぎて気が付かないだろう……だが私は、私だけは隼人さんの魔力を感じた。



だが何故ウルスと居るのか、魔力の形も少し変化している様に思える……色々と分からない事だらけだった。



街を抜け森へと入る、私でも少し頭痛を感じる程の魔力濃度、中心にいる隼人さんへの影響は計り知れなかった。



どんどんと濃度は強くなる、やがて……アルラは中心に辿り着いた。



「隼人……さん?」



一瞬誰か理解出来なかった。



つい1時間前に別れたばかりなのに髪の毛は伸び、肉体も鍛え上げられ、魔力もあり得ないほどに洗練されている……まるで一人だけ数年……いや、数十年後の姿の様だった。



「アルラ……」



隼人はアルラの姿を確認するとゆっくりと近づく、そしてそっと抱きしめた。



「は、隼人さん?」



突然の出来事にテンパる、嬉しいのだがウルスが気になって素直に喜べなかった。



「アルラ……ウルスは俺に任せてくれ」



その言葉に耳を疑った。



だが主人を疑うのは従者失格……それに今の隼人さんなら大丈夫な気がした。



「はい……隼人さんの仰せのままに」



そう言い膝をついた。



「それじゃあウルス……決着を付けようか」

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