第194話 不死の屍
なんと200話目です
話数と合ってないですが200話目です
振る雨が冷たい、2度目の対峙……だが今回は前回の様にこちらが圧倒すると行った展開は無さそうだった。
「前の節はどーも、お陰でオーフェンと言う呪いから解放されたよ」
「呪いって……お前なぁ」
だが彼女もセルナルドが行った実験の被害者……本来の人格を取り戻せたのならそれで良かった。
「世間話をしに来たんじゃねーんだろ?」
その言葉にレクラの表情が豹変した。
「そう、ウルス様の為に……死んでもらうよオーフェン」
そう言い剣を抜く、凄まじい殺気と圧力……とても少女の出すものでは無かった。
まるで歴戦の戦士さながらの佇まい、一瞬でも気が抜けない戦闘になりそうだった。
「それじゃあこっちも……最初から前回で行くぜ」
大剣を構え強化魔法を掛ける、そしてこちらから仕掛けようと一歩足を踏み出したその時、眼前に剣が迫って居た。
瞬きすらして居ない、見逃すはずが無いタイミングでの攻撃、咄嗟に交わすが微かに頬を掠める、剣に気を取られレクラがいた場所に視線を戻すが既に彼女はその場から消えて居た。
「後ろだよ」
背後から声がする、どのタイミングでいつ背後に回ったのか……背後に鋭い痛みが走った。
「クソっ……」
大剣で背後を薙ぎ払う、レクラは後ろに飛び距離を取ると華麗に着地した。
それ程傷は深く無いが攻撃手段が分からなかった……気が付けば背後に、眼前に攻撃が迫って居る、速いとかのレベルでは無かった。
「オーフェンが幾ら英雄でも……私には勝てないよ」
レクラが喋り終わったと同時にまた眼前に剣が迫って居る、話しにほんの一瞬意識を持って行ったせいで反応が遅れる、剣は左の眼球を斬りつけた。
だが痛みに藻搔いて居る暇は無い、大剣を握る手は緩めず残った右目でレクラの姿を捉える、意味がわからない。
何のモーションも無くその場から消える……いや、消えると言う表現が正しいのかすら分からない。
瞬きすらして居ない、気が付けば目の前で攻撃が発生している、時間でも止めたとしか思えない攻撃だった。
また来る。
眼前に剣が出現、これで3度目……だが意識さえして居れば避けられない攻撃では無かった。
最初の一撃を躱せたのは正直奇跡に近い……だがその奇跡のお陰で3度目の攻撃は無傷で避けれた、だが幾ら避けようとも攻撃を出来なければ勝ち目は無かった。
まずは分析……幸いにもレクラはまだ本気で殺しに来ては居ない様子、本気なら剣一本での攻撃など不自然だった。
眼前にまた迫る剣、やはりレクラの姿は無い。
魔法の発動をする素振りもない……何故剣を一本しか出さないのか、弾いたり避けた剣は地面に残って居る……微かに魔力を感じる所から一回一回召喚して攻撃して居る様子だった。
「いくら悩んでも無駄だよ、予想して居る通り私の使ってる魔法は時を止める……種明かしした所で対策のしようなんて無いけどね」
「時を止める魔法……か」
あたりまえの様に禁忌の魔法を使う……時を止める、反則過ぎる魔法だ。
だが本来冒険者とはこう言う物の筈だった。
理不尽な敵とは何度も戦って来た筈、その度に勝って……アダマスト級冒険者となった筈、アルラとの戦いで一度心を折られたがもう心は折れない。
「俺の底力……見せてやるよ」
「へぇ、絶望しない……流石オーフェンだね」
何処から来るか分からない攻撃、気を抜けば死ぬ……懐かしい、昔はこんな戦闘ばっかりして居た。
共に冒険して居た者が死ぬのなんて当たり前、次は自分かも知れないと言う恐怖を感じればそこで終わりの世界……そんな戦いが好きだった。
そして今……また死が隣り合わせのこの状況で笑って居た。
ふと地面に落ちている剣が視界に入る、相手は人間サイズ、大剣である必要はない。
迫って居た剣を大剣で上空に弾くと地面に突き刺し剣を拾い上げる、魔法で剣を出しているのなら何処かに隙がある筈だった。
時を止める、そして剣を召喚して攻撃、時を動かす……恐らくこの順番なのだろうが剣が一本しか来ないのを考えると一本生成する程度の時間しか止められないと言う事、そして時が止まっている間に俺への直接攻撃は出来ないと言う制限があるのだろう。
慣れた手つきで召喚された剣を弾く、レクラの姿は見えない……そして攻撃から10秒後、再び剣が飛んで来た。
攻撃の間隔は10秒、情報は揃って来た……だがまだ攻撃を仕掛けるには足りない。
何度も、何度も迫る剣を弾く、だがアダマスト級冒険者とは言え人間……体力がキツかった。
徐々に剣を弾くのが間に合わなくなり擦り始めて来た。
「そろそろ終わりが近いね」
「あぁ……近いな」
レクラの言葉に笑みを浮かべた。
オーフェンの不敵な笑みに少しの違和感を覚えながらもレクラが姿を消した。
「あんたに恨みは無いが……ウルス様の為、許してくれ」
地面に落ちた大量の剣が浮かび上がり刀身がオーフェンの方へと向く、そしてポケットに突っ込んだままの手に握られて居た時計のボタンを押し、時を動かした。
「終わりだよ……オーフェン」
背を向けレクラが呟く、だが次の瞬間、背中に無数の鋭い痛みを感じた。
「何勝った気で居るんだよレクラ!!」
オーフェンの声、レクラの思考は混乱して居た。
あの無数の剣をどうやって切り抜け攻撃したのか……背中に刺さる無数の剣から感じる魔力は自分の物、私が召喚した剣だった。
「何を……した?」
レクラは少しふらついて居た。
「反転魔法を仕掛けたんだよ、時間はたっぷりあったからな」
そう言い足元を指差す、血で描かれた魔法陣がそこにはあった。
「なるほど……流石アダマスト級だね」
そう言いレクラは笑った。
剣を召喚するだけして使い捨てる、その行為に少しだけ違和感を抱いて居た。
普通武器を召喚し、攻撃すると自動的に別空間へと消える、だが剣を消さず残って居たと言うことはレクラが意図的に残していると言うことになった。
まぁ……ウェポンマスターであるユーリの戦闘を見て居なければ分からなかった事なのだが、それに気付きバレない様に出血した血を使い地面に魔法陣を足で描いた、そして案の定一斉攻撃……それを反転魔法で跳ね返したという訳だった。
「あはははっ!!最高だよ……時を止める魔法を破るだけで無く私にこれ程の傷……久し振りに本気が出せそうだよ」
そう言いゆっくりと此方を向くレクラ、何か様子がおかしかった。
体から黒い煙の様な物が出ている、そして徐々に顔が剥がれて行った。
「なんだよ……それ」
レクラの華奢な身体からは想像も出来ない、3メートルはある骸骨が姿を表す、大きな身体に纏われた闇……間違いない、スケルトンキングだった。
『この姿を見せるのはお前が初めてだオーフェン』
禍々しい魔力、悍ましい外見……スケルトンキングなんて初めて見た。
スケルトン自体は雑魚だがスケルトンキングは他のキング種とレベルが違った。
ゴブリンキング、オーガキングなど様々なキングが居るがそれはゴブリンなどの種族の中で変異しただけに過ぎない、だがスケルトンは違う。
スケルトンの元となっているのは人間、元となる人間が強ければ強いほどスケルトンのレベルも上がる。
だがどれ程の偉人が死してもスケルトンキングが生まれたと言う症例は無かった……一体誰の死体なのか、セルナルド王国の実験には脱帽だった。
『不死の屍……この姿になったお前に勝ち目は無い』
「ははっ……反則だろ」
此れにはもうどうしようも無かった。
突き刺した大剣を抜く力も残って居ない……だが諦めて死ぬのはアダマスト級冒険者に相応しく無かった。
「来いよ化け物……」
剣を構え笑みを浮かべる、そしてスケルトンキングの骨で生成された剣がオーフェン目掛け振り下ろされた。




