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第189話 前進

何故彼女が死ななければならなかったのか。



何故私はいつも肝心な時に仲間の側に居ないのか……



「なんで、アイリスが死なないといけないのよ……」



岩にもたれ掛かり何故か幸せそうな顔のアイリス……死んでいるのが不思議な程に幸せそうな表情だった。



彼女は此処で1人、何を思って死んだのだろうか……失ってしまった今、それを考えても無駄だった。



「根城を見て来たが雑魚吸血鬼達が干からびて死んでたよ、恐らく主人が死んだからだろうな……良くやったよ、一人で」



励ましの言葉であろうオーフェンの言葉が余計に辛く感じる、私はアイリスに何もしてあげれなかった……なんの為の力なのか分からなかった。



「先に……街へ戻っていて」



シャリエルの言葉に隼人達は何も言わず背を向けた、サレシュを除き。



「二人きりになって……しまいましたね」



サレシュの声は震えていた、涙を必死に堪えては居るが今にも泣き出しそうな酷い顔だった。



「えぇ……そうね」



だが、それは私も同じだった。



「ただ……冒険者なら死の覚悟は出来ていた筈です、私達に出来るのは悲しむことでは無く……前へと進む事だけです」



冷たく聞こえるかも知れないサレシュの言葉……だが彼女の言う通りだった。



冒険者はいつでも死が隣にある、私も死ぬのは覚悟している……それはアーネストやアイリスもそうだった。



私に出来る事、それはアイリスの意思を引き継ぎこの大陸での冒険を成功させ、グレーウルフの功績を国に持ち帰る事……悲しんでは居られなかった。



「ありがとうサレシュ……」



「いえ、私は何も……」



そう言い軽く微笑む、アイリスの身体を持ち上げるとゆっくり街へと向かった。



軽い……こんな身体であのハルバードを振り回していたのだからアイリスは凄いものだった。



強化魔法を重ね掛けして筋力アップの装備をしているとは言え並の人間では耐えられない……ずっと私達をその力で支えてくれていたと考えると再び涙が溢れてきた。



「ありがとう……ありがとうアイリス……」



隣で顔をぐしゃぐしゃにして涙を流すシャリエル、もう泣かないと決めたのに……彼女が泣くと我慢が出来なかった。



「向こうでは……もっと笑って下さいねアイリスさん」



静かな草原に少女二人の泣き声がただ響き渡り続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アイリスが死んだか」



宿屋の椅子を蹴り壊しオーフェンが呟く、アイリス……彼女との関わりは浅い、シャリエルの仲間程度しか思って居なかった……だがそれでも悲しい、シャリエル達の悲しみは計り知れなかった。



「しかし、少し不自然とは思いませんか?」



吸血鬼の王を倒したと言う言葉を聞いてからずっと難しそうな表情をして居たアルラがようやく口を開いた。



「何がおかしいんだ?」



「吸血鬼の王を倒したって事がです、吸血鬼と言えば有名な種族、そんな種族の王をアイリスが倒せたって言う違和感がどうしても消えないんです」



確かに違和感はある、だがそれを此処で言うのは流石に空気が読めて居なかった。



「その言葉、アイリスを愚弄したとも取れるぞ?」



予想通りオーフェンがアルラの言葉に引っ掛かる、こればかりはアルラが全面的に悪かった。



「別にそう言うつもりはありません、ただ不自然で……」



「そんなに気になるならお前が見に行けよ、死体」



ヒートアップするかと思いきや、オーフェンの方が大人の様だった。



冷静になり死体を見にいく様に促す、確かにそれが1番の解決方法だった、気になる事は見て納得させる。



「しかし……どうするかな」



「どうしたっす?」



長椅子に寝転がり頭を膝に乗せてユーリが顔を出す、能天気なのは獣人族故なのか此奴の性格なのか……いつでも楽しそうな奴だった。



「遺跡だよ、出発しようにもシャリエル達はそれどころじゃ無いだろうし……」



「私達なら問題ないわよ」



扉が開くと同時にシャリエルの声がする、目が赤く泣いて居たのは明らかだった。



「アイリスは大陸に戻る時までこの街の教会で預かってもらう事にしたわ、吸血鬼に支配されて居たから信仰もあったみたいで助かったわ」



「そうか」



それだけしか言えなかった、彼女に掛ける言葉が見つからない……アーネストの時と同じだった、シャリエルの様子を除いて。



「早く出発しましょ、元々遺跡に行く予定だったんだし」



そう言い出発を催促する、何故急ぐのか真意は分からない、ただアルラを呼び戻さない限り出発は出来なかった。



「アルラを呼んでくるから準備しておいてくれ」



そう言い転移の杖を使いアルラの元に転移する、古城の闘技場に無数の死体……圧巻の光景だった。



「隼人さん?何故此処に?」



突然現れた隼人に少し驚いた様子を見せた。



「シャリエルが早く出発しろってうるさいんでな」



「立ち直った……とは違う様子ですね」



アルラの言葉通り、恐らくあれはから元気に近い物だろう……だがそれでもアーネストの時よりはマシで安心はした。



「それより何か気になる事見つけたか?」



「いえ、アイリスは本当に倒して居た様です……人間に謝るのは癪ですが仕方ないですね」



そう言いため息を吐く、隼人以外にも素直だと良いのだが……それもアルラ次第、俺がとやかく言う事でも無かった。



「じゃあ転移するから掴まれ」



「はい」



そう言い服の袖を掴む、もっと他に掴むところがあるのだが……まぁ可愛いから良しだ。



アルラが掴んだのを確認すると隼人は杖を突き転移する、光に包まれる二人、光が消えた頃には二人の姿も古城の闘技場から姿を消して居た。



「吸血鬼の王……ですか」



転がって居たカインの頭部を蹴り飛ばし一人の男が呟く。



「この程度で死ぬ者に王は少しばかり荷が重かったですね……まだ退くには早いですか」



そう言い男は羽織って居たマントを靡かせその場から姿を消した。

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