第183話 救出完了
一先ず回想は終わりです
氷塊が迫る音が聞こえる、見上げる天井の氷は月明かりに照らされ幻想的だった。
こんな光景を見ながら死ぬのも悪くは無い……一瞬死への恐怖を忘れかけて居た時、空から何か降ってくるのが見えた。
人では無い……刀だった。
刀は凄まじい勢いで隼人の前に迫って居た氷塊ごと貫き地面に刺さる、間一髪だった。
だが助かったと言う事よりも何故空から刀がと言う疑問の方が大きかった。
ふとマリの方を見るが彼女も困惑した様子だった。
彼女の想定して居ない事態という事だった。
ゆっくり刀に手を伸ばす、真っ白な柄に加えて透き通る様な青の珍しい色をした刀身の刀……手にすると少し冷たかった。
それと同時に懐かしく……温かくも感じた。
『隼人さん、私の力を使ってください』
リカの声がした。
辺りを見回すが姿は無い、あるのは刀のみだった。
『隼人さん刀の方です、私です、リカです』
脳内に直接リカの声が聞こえた。
「刀が……リカ?」
リカが刀になった……意味が分からない、どう言う経緯でそうなったのか、常識的に考えると有り得ないのだがこの世界はそれを可能にする……一先ずアルラ達が何かしたのだろう。
『今は目の前の敵に集中してください、私を持っている間は魔力を共有出来るはずです』
「魔力の共有……」
その言葉で初めて気がついた、力が溢れる様な感覚、明らかに魔力量が増えていた。
アルセリスには到底及ばずにしろ、リカの魔力……これがあればある程度戦える筈だった。
「本当に助かったリカ……此処からは反撃の時間だマリ」
「忌まわしい、武器化して私の呪いを無効化する……想定できるはずもない……忌まわしい、忌まわしい!!」
隼人の声は彼女に届いて居なかった。
想定外の事態に腹を立てているのか、爪を血が出るまで噛み、その場で足踏みをして居た。
「今が……チャンスか?」
マリは此方の方を気にかけず、それどころでは無い様子、攻撃を仕掛けるなら今しか無かった。
一瞬で距離を詰めるため足に魔力を集中させる、そして刀に炎の属性を付与すると全身の力を抜いた。
まだマリは苛立っている……今しかない。
「せめて……一太刀でも!!」
一気に魔力を解き放つ、マリまでの距離は10mも無い、1秒と掛からず到達出来る……ほんの一瞬、風の抵抗もあり瞬きをすると目の前に氷壁が現れて居た。
咄嗟に反応して氷壁を砕くがマリの姿は無かった。
『隼人さん!上です!!』
リカの声に頭上に目線を移す、視界に入るのは氷塊、街の空を覆う程の大きさだった。
「あのお方から実力を確かめて来いと言われて調べに来ただけだった……でも予定変更、こんな雑魚は会わすだけ無駄、ここで皆殺しよ」
そう言いマリは掲げでいた手をゆっくりとおろした。
その瞬間に降り注ぐ氷塊、とてつもない魔力、この魔法を防ぐ術……見つからない。
『流石の私にもこの魔法を打ち消す魔力は無いですね』
リカも諦めて居た。
何とかリカのお陰で一時は危機を脱したが一難去ってまた一難……今度こそ終わりだった。
『すみません……私のせいで、私を助ける為に……』
姿は見えずとも、その声は罪悪感で押し潰されそうな掠れた声だった。
「馬鹿言うな、俺は助けたくて助けに来た、リカの忠告を無視してな、それに仲間だろ?」
『ですが……』
「それに、終わって無いみたいだぜ」
リカの言葉を遮り見えてるかどうかは分からないが巨大な氷塊に向かって行く1人の影を指さした。
『まったく、何のために武器になったんですか?隼人さんをしっかり守っていてくださいよ』
通信魔法で頭に直接アルラの声が聞こえる、その言葉にリカは何も返さなかったが泣き声だけが聞こえて居た。
「はぁ……この大きさは正直分からないですね」
迫る氷塊に刀を鞘から抜く、一刀両断ではユーリ達が恐らく潰される……全員助けるのなら木っ端微塵に切り刻むのみ、だが落下するまでに間に合うか……微妙だった。
思考している間に氷塊は目の前まで迫る、やるしか無かった。
「最近良いところ無かったですし……良いチャンスですね」
刀を握り力を強める、自身に掛けれるだけの強化魔法を付与し最後に刀に炎を纏わせる、そして刀に魔力を込めた。
迫る氷塊を右から左へ、上から下へ、あらゆる方向から斬撃を浴びせる、凄まじい魔力……気を抜けば吹き飛ばされそうだった。
何十回、何百回と刀を振る、そして気が付けば足が地面について居た。
「……綺麗な雪だな」
隣から隼人さんの声がする、空に目線を向けると斬り刻んだ氷塊が雪となって降り注いでいた。
「ちっ……あの娘は少し警戒が必要ね……次は無いわよ、アルセリス」
その言葉を残してマリは姿を消す、魔力は完全に消え去り、彼女によって残された氷漬けの街だけが残って居た。
「どうやら……終わったみたいだな……」
ようやく一休み出来る、もう身体はボロボロ、意識を保っているので精一杯だった。
「大丈夫ですか隼人さん?」
よろよろとその場に座り込む隼人を見て心配そうに駆け寄る、酷い怪我にアルラは少し表情を歪めて居た。
「大丈夫……と言いたい所だが流石に無理があるな」
「大丈夫です、リカも助けられましたし……少し休みましょう」
その言葉に隼人は頷くとゆっくりと目を閉じた。