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第179話 束の間の安心

アルラの暴走から一夜、アイルツェラトを離れ草原を抜ける為北へと向かっていた。



左目の視力を失った事は大きい……だがその事をまだ誰にも言えて居なかった。



「隼人さん、何かあったんですか?」



浮かない表情をしている隼人にユリーシャが尋ねる、天才と呼ばれた魔道士……彼女なら何か知っているかも知れなかった。



「ユリーシャが使える治癒魔法はどの程度治せる?」



突然の質問に少し困惑した表情を見せるもそれ程時間も掛からず答えた。



「そうですね、私が使える魔法では腕をくっ付けるとか裂傷の傷を完全に防ぐとか、その程度ですね、ただ腕をくっ付けたとしても機能までは、神経までは回復させられないです、飽く迄も細胞の再生能力を強化して治癒を速めているだけなので」



「そうか、突然悪いな」



少し落胆、その時ユリーシャは付け足す様に言った。



「これは祖父の友である冒険者だった方が言っていた話なのですが、天使族はありとあらゆる治癒魔法を使う種族らしいです、天使ならもしかしたら機能の回復も出来るかも知れないですね」



「天使族……か」



心当たりはある、リリィ……彼女は回復魔法のスペシャリストだった。



拷問好きと言う癖がある性格をしているが回復能力はトップクラス、死に掛けた拷問相手を回復させまた拷問を繰り返すと言う事をしていた……彼女なら目を回復させる位訳ないはずだった。



だが問題は彼女がウルス側に着いたと言う事……一筋縄では行かなそうだった。



だが希望は見えた。



代償は気にせず使える……それが分かっただけでも大きかった。



「ありがとうなユリーシャ!」



突然礼を言われた事に困惑するユリーシャ、だが満更でもない表情だった。



「お役に立てたなら幸いです」



そう言い微笑むユリーシャ、その時隼人達から300m程前方を離れて歩いて居たオーフェンが何かを見つける声を上げた。



「おい、誰か倒れてるぞ」



その言葉にオーフェンの元へと駆けていく、すると恐怖からなのか、震えた男性がオーフェンに起こされ座っていた。



「何かあったのか?」



咄嗟に尋ねるが混乱しているのか男はある言葉を除いて何も喋らなかった。



寒い、男はその言葉しか言わなかった。



「寒いか……ユリーシャ、炎の魔法を頼めるか?」



言葉に頷き炎の魔法で男を暖めるユリーシャ、すると少し落ち着いたのか、男は口を開いた。



「た、助かった……あんた達も冒険者か?」



身なりを見て察したのだろうか、その言葉に頷いた。



「悪い事は言わない……リーデベルクへは行くな、あの街は……もう無い」



「もう無いってどう言う事?」



いつに無く真剣な面持ちでアルテナが尋ねる、声色が違うせいで一瞬誰か分からなかった。



「俺にも分からない、あまりにも一瞬だった……突然街を氷が覆ったんだ」



「街を氷が覆った……」



その言葉にリカが脳裏を過ぎる、だが彼女が無意味に人を襲うなんて信じられなかった。



恐らく別の人物……そう思った時、男の言葉に固まった。



「見慣れない白い服に身を包んだ刀を持つ少女だった……無表情に見える表情からは凍えるほどの恐怖を感じた……彼女の目的は分からないがリーデベルクに居た冒険者達100名以上は一瞬にして殺された……街の人も、恐らく生き残りは居ない」



「まじかよ……なぁ隼人」



オーフェンの言葉を手で静止する、リカが冒険者を殺す……目的がわからなかった。



彼女は呪いを掛けた魔女を殺す為にこの大陸へ来たはず、何故冒険者を殺す必要があるのか……理解不能だった。



「なぁアルラ」



アルラに意見を聞こうと彼女の方向を見る、だがアルラは珍しくボケーっとして話を聞いて居ない様子だった。



「アルラ?」



「は、はい!なんでしょうか?」



2度目の問い掛けでやっと我に帰る、何を考えて居たのか……だが今はそれどころでは無かった。



「リカが街を襲ったかも知れないんだ、何か心当たりあるか?」



その言葉に少し考える素振りを見せるも首を横に振った。



「申し訳ありません、リカからは魔女を殺す目的しか聞いてませんね」



「そうか……」



信じたくは無い……だが証拠が揃っている以上、リカがやったと思うしか無かった。



「それは何日前の話だ?」



「つい昨日だ……もしかしたらまだ居るかも知れない」



まだ居る……その言葉に隼人は立ち上がった。



「まさか行くのか?悪い事は言わない、言っても死ぬだけだぞ」



男の静止も今の隼人には届くわけが無かった。



「仲間かも知れないんだ……もしあいつなら、仲間の俺達が止めなくちゃ行けない」



その言葉に男は『そうか』とだけ呟いた。



「ありがとうな旅の冒険者の人達、俺なら何とか歩けそうだ」



よろよろとした足取りだが立ち上がる男、そして心配無いと言い歩き始めた。



「あんたらは命の恩人だ、だから死なないでくれよ……生きてたらアイルツェラトに来てくれ、礼がしたい」



「あぁ、あんたも気を付けてな」



男の見送りを背にリーデベルクへと向かう、先程までの緩やかな空気は一変、皆ピリついて居た。



「皆んな……」



リカと戦う……その事を話そうと後ろを振り返るがオーフェンが言葉を遮った。



「分かってる、それより隼人お前は大丈夫なのか?」



お前は大丈夫なのか、その言葉の意味が分からなかった。



足手纏いにならないのかと言う意味なのか、仲間だからちゃんと戦えるのかと言う意味なのか……もしくはそのどちらもなのか……だが何故だろうか、思って居たよりも頭は冷静だった。



「俺は大丈夫だ、リカは仲間……だからこそちゃんと止めてやるよ」



「そうか……」



その言葉にオーフェンは頷く、だが少し悲しそうな表情が引っかかった。



「それじゃあ……行くか」



そう言い、隼人達はリーデベルクへと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アルラ、少し良いか」



先頭を歩く隼人から少し距離を取り、オーフェンがアルラに話し掛ける、場の状況から見て隼人には内密な話の様子だった。



「隼人は理解してない様子だがお前は分かってるよな」



「ええ、理解してますよ」



リカが街を襲った、恐れて居た事が起きた証拠だった。



リカから万が一にと話を聞いて居た。



『魔女に心を取り込まれれば私はただの人形になってしまう、その時は殺してくれ』と。



オーフェンも何となく勘付いて居た様子だった。



「リカは仲間だがお前は殺す覚悟があるか?」



少し心配そうなオーフェン、そんな表情をしなくとも私は大丈夫だった。



「無論、私は鬼ですから」



そう呟くアルラの表情は何処か冷たかった。

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