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第176話 暴走

煙突から上がる黒煙、鼻が曲がる様なオイルの匂い、絶え間なく聞こえる機械の稼働音、完全なる工場都市だった。



そして淀んだ空気……だが何故か懐かしかった。



この世界……アダマスト大陸は特に空気が良かった、富士山なんて比べ物にならない程に澄んだ空気だった……東京の空気はここ程では無いにしろ淀んでいた……だから、懐かしい感じがした。



「それにしても発展してるなこの国は」



「アイルツェラトは元々文明が進んでた国だけど敗北からより一層機械技術に磨きを掛けて他を寄せ付けない軍事力を手に入れた国なんだよねー」



横を歩くアルテナが簡単に説明してくれる、だが何故ウルスはこの国を攻撃したのか……機械技術が後々脅威になる……?



いや、それならば完全に滅ぼす筈、見た限り街は殆ど復興している様子、半年で此処まで持ち直せるとするのならば半壊程度の被害の筈だった。



「半壊で止める理由……」



ボソッと呟く、何かを探し求め、この国には無いと分かり去った……この理由なら半壊の訳も合点が行くが問題は何を探して居たのか……全く分からなかった。



今思えば、ウルスの過去や成り立ち、あいつ自身の事……何も知らなかった。



過去を知っているメンバーと言えばアルラやレクラ位だった。



「こんなだから皆んな離れて行ったのか……」



俺はこの世界に来て正直心躍った、だがそれと同時に元いた世界では無いという理由で適当になって居た部分もある……それが人間関係、NPCと思って居たとは言えあまりにも自分から関わらなさ過ぎた。



今更そんな事に気付くなんて思わなかった。



「どうしましたか隼人さん?」



アルラが心配そうに覗き込む、彼女には数え切れないほど救われた。



何故此処まで俺自身に忠誠を誓ってくれるのかは分からない、正直恐怖を感じる時もある……だが、アルラのお陰で俺は此処まで来れていた。



「お前は……優しいな」



そう言い頭に手を置く、その時若干アルラが頬を赤らめているのが視界に入った。



「まーた見せつけやがって、そんな事ばっかしてっと俺は目的放棄して美女探し行っちまうぞー」



笑いながら茶化すオーフェン、特に意味もなく置いたのだが……何故か急に恥ずかしくなった。



「そんなのじゃねぇよ」



そう言い咄嗟にアルラの頭から手を退ける、少し残念そうな表情を浮かべたがそれと同時に満足そうでもあった。



「楽しい所水を差す様で申し訳無いのですが……此処は何処でしょうか?」



ユリーシャの言葉に辺りを見回す、先程までの工場都市とは一変、少し建物が所狭しと並ぶ所為で薄暗い路地に入って居た。



「此処は私も来た事は無いなー」



そう言いアルテナはキョロキョロと辺りを見回す、特段怪しくも無ければごくごく普通の裏路地と行った所、だが一つ、ずっと気になる事があった。



「なぁ、アイルツェラトに入ってから人を見たか?」



「そう言えば……見てねーな」



機械の稼働音は聞こえる、だが人間の姿が何処にもなかった。



「一応居るには居るみたいですね」



そう言いアルラが民家の二階に視線を移す、すると窓が閉まる音がした。



「異国の人間を警戒してる……って所っすね」



「この国では情報は得られなさそうだな」



そう言いアルテナに帰り道を聞こうとした時、ユリーシャが誰かを見つける声が聞こえた。



「すみません……あれは人でしょうか?」



そう言い指を指す、その方向に視線を向けると信じ難い者がそこに立って居た。



「アルセリス……?」



自分だった、いや……厳密にはアルセリスと名乗って居た時の黒い鎧、それを見に纏った謎の騎士が立って居た。



「どう言う……事だ?」



本物では無い筈……いや、本物とは何なのか……隼人の思考は完全に混乱して居た。



あれは本物のアルセリスなのでは無いのか、そんな考えが頭を過ぎる、その時黒い騎士は剣を抜き此方に向かって走ってきて居た。



「私が片付けます」



そう言いアルラは誰よりも早く刀を抜いた。



「その姿を私に見せたからには覚悟して下さい」



アルラの言葉は少し怒りに満ちて居た。



黒騎士は言葉に反応は見せなかった。



そして剣が交わる、微かに機械音が聞こえる住宅街に大きな剣劇の声が響き渡った。



「意外と……力が強いですね」



一発で剣を吹き飛ばせなかった事に少し驚きを見せる、だが直ぐに力で圧倒すると黒騎士の剣を遥か上空に吹き飛ばした。



「さて……タチの悪い冗談をする人の顔を拝みましょうか」



そう言い刀を鎧の隙間から突きつけながら兜を外そうとする、だが黒騎士は全く怯む事なく拳をアルラの顔面にたたき込んだ。



「大丈夫かアルラ!?」



隼人の声に手だけを挙げる、そして刀を突き刺すが直ぐ様抜き鎧を地面に叩きつけた。



何度も何度も、鎧が粉々になるまで。



余程あの姿を思い出したくなかったのか……そう思って居たが真実は違った。



「隼人さん……この鎧、中身が居ません」



そう言い粉々になった鎧の跡を見せる、底には死体は愚か、血の一滴すら無かった。



「中身が居ない鎧……?」



この世界では正直珍しくは無い、だが問題はアルセリスの姿に酷似して居た事だった。



「ウルスのやつもう嗅ぎつけたのか?」



「流石にそれは早過ぎじゃねーか?まだ1時間も経ってねーぜ?」



「いえ、ウルスなら可能かも知れないですよ」



ウルスの魔法は人智を超えている……だがアルセリスの姿をした操り人形を送り込むとは悪趣味もいい所だった。



「取り敢えず早くこの国を出た方が良いな」



「賛成だ、また戦うにしても住民に被害が及ぶしな」



オーフェンと意見が一致し、他のメンバーも賛同する、この国で聞き込みをしたい所だったが……仕方なかった。



「取り敢えず案内頼んだぞアルテナ」



「りょーかいー」



そう言い先に歩いて行くアルテナ達、少し離れた位置から付いて行こうとした時、民家の扉が開く音が聞こえた。



「また俺の街を壊しに来たのか!」



少年の声、振り向くとそこには涙を流しながらナイフを持つ少年が立って居た。



「いや、俺は……」



「うるさい!お前ら異人の所為で俺の父ちゃんは!!」



そう言い勢い良く突進してくる少年、その事にアルラが気が付き直ぐに守ろうとするが隼人は手で制止をかけた。



少年のナイフは無抵抗な隼人の腹部に突き刺さる、そして少年はその場に座り込み泣きながら笑い声を上げた。



「やった……やった……」



同じ言葉を何度も繰り返す、ふとアルラの方を見ると込み上げる怒りに震えて居た。



「アルラ心配するな、かすり傷だよ」



「ですが……ですが!!」



アルラの様子がおかしかった。



頭を抱え蹲る……嫌な予感がした。



「ユーリ!アルラの理性が飛びかけてる、気絶させろ!!」



「かなりやばめっすね!!」



そう言いアルラのもと目掛けスピードを上げ駆け寄って行くユーリ、手段を選び気絶させて居ては恐らく遅い……そう判断したユーリは鎖付きモーニングスターを召喚しアルラ目掛け振り下ろした。



「アルラさん申し訳ないっす!!」



そう言いモーニングスターはアルラの後頭部を捉える、だがまだ気絶はして居なかった。



「ユーリ!!」



「分かってるっす!」



隼人の呼び掛けに答えるとモーニングスターは再びアルラの後頭部に衝撃を与えた。



「二撃破、発動してなかったらヤバかったっす……ってえ?」



気絶させた、そう思った時、ユーリのモーニングスターが砕け散る音が聞こえた。



アルラは気絶して居なかった。



「ゆ、ゆる……許せナイ」



ツノはかなり成長し、瞳も赤く染まっている……完全に暴走状態のアルラ、取れる手段は一つのみだった。



「ユーリ、腕をつかめ!」



「了解っす!」



アルラの近くに居たユーリに自身の腕を掴ませるとアルラを掴み転移の杖を発動させる、座標はアルラと初めて手合わせをした草原だった。



身体は一瞬にして光に包まれる、そしてアダマスト大陸の草原に転移すると素早く距離を取った。



「悪いなユーリ、巻き込んじまって」



「問題ないっすよ、それにしても予想以上に早く帰ってきたっすね」



そう言い笑うユーリ、確かに予想以上に早い帰還だった。



「お前の明るさには救われるよ」



そう言い笑う、全く笑えない状況、相手はウルスに継ぐ実力者、しかも理性を飛ばした鬼神化状態なのだが……彼女の明るさに釣られて自然と笑ってしまった。



「早くアルラさんを正気に戻して帰るっすよ!」



「あぁ」



ユーリの言葉に頷くとゆっくり剣を構え、アルラと対峙した。

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