第172話 お世話になりました
かなり短いです
あらゆる物を凍らせる刀と氷結魔法に特化した魔力……実力差から言って天と地、勝てるビジョンは無かった。
だが勝つ事が目的では無い、止める事が目的……とは言え無傷で行ける相手では無いのは十分過ぎる程に分かっていた。
「私を止めれるとでも?」
「あぁ、十二分に自信があるぜ」
そう言い笑みを見せる、その表情にリカは顔を歪ませた。
「そうですか……死な無いように頑張って下さい」
そう言い刀を地面に刺す、すると辺り一帯の地面が凍り付き、一瞬にして氷のフィールドが出来上がった。
「死な無い保証は無し……か」
不安定な足場、圧倒的な実力差……だが恐怖は無かった。
リカが仲間だから殺しはし無いと言う思いからでは無い、彼女を仲間として止めてやりたい……その一心だった。
「時間が無いので一瞬で終わらせます」
そう言いリカは凍り付いた地面を全力で駆け距離を詰める、後ろに引いて距離を取ろうにも氷が滑り上手く動けない……それに引いたとしても彼女のスピードの方が上、簡単に追い付かれる筈だった。
恐らく彼女には前に出てくると言う考えは無いはずだった、不安定な足場、圧倒的な実力差……この条件で相手目掛けて突っ込む馬鹿は居ない、それに彼女は俺がまだ魔力コントロールを出来ないと思っている筈だった。
チャンスは恐らく一度きり……集中し無ければならなかった。
足裏に炎の魔力を集中させる、そして足元の氷を溶かせるとリカがギリギリに来るまで待った。
氷が溶けている事には気がついて居ない、彼女が10m付近まで来たのを確認すると上体を少し逸らして後ろへ下がるモーションを入れる、そして次の瞬間、直ぐに上体を戻し剣を倒し盾にする様リカに突っ込んだ。
剣と刀が衝突し火花が散る、そして隼人の身体が遥か後方へと吹き飛んだ。
「前に出る……その発想自体は良かった、ですがそれを行動にするには剣の技術が足りませんでしたね」
リカは遥か後方で木に衝突し倒れる隼人を見て刀を鞘に収めた。
そしてその場を去ろうと背を向け歩き出すが直ぐに足を止めた。
「確実に何処かしらの骨が折れた筈ですが?」
「関係無いさ、骨が折れようとも死んだ訳じゃ無いからな」
剣を杖代わりによろよろと立ち上がる、強がってみたは良いが確実に肋骨辺りが折れて居た。
呼吸もし辛い、肺に刺さっている可能性もある……だが彼女をこのまま行かせる訳には行かなかった。
「そんなに死にたいのなら……殺してあげますよ!!」
怒りに満ちた表情でリカは隼人目掛け駆けて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何故……そうまでして私を止めるのよ」
血反吐を吐き、折れた足を引きずりながら近づいて来る隼人にリカは恐怖の感情を抱いて居た。
「もう……仲間は失いたく無いんだよ」
「仲間って……まだ出会って日も浅い、そんな奴に何で命を賭けるのよ!」
リカの口調はもう敬語では無かった。
「リカにはウルスに裏切られた時……助けられた、俺はあの恩を返して居ない……それにそんなのが無くたって仲間なら助けるのが当たり前なんじゃ無いか?」
そう言い隼人がリカの肩に手を乗せる、部下の事なんて普通に生きて居て考えた事など無かった。
自身の昇進の為に踏み台となるだけの存在……そんな思想だったから足元を救われた、そして人を信じるのが怖くなった。
だが、この世界では本当に俺を信じてくれる仲間に出会えた……だから、今度は俺が仲間を助ける番だった。
「リカ、俺は絶対にお前を助ける……何処に居ようと、絶対にな」
そう言い隼人は崩れ落ちる様に地面へと倒れた。
どれだけ傷付けられても立ち上がり私の為に……もっと、早く彼に出会えて居れば良かった。
「ごめんなさい隼人さん……もう、手遅れなんです」
そう言いリカは羽織って居た白い制服の様な上着を隼人に掛けて背を向ける、変えられない運命に争う気力は私にはもう残って無い……出来る事はウルスの軍勢を少しでも減らす事……それだけだった。
「皆さん……短い間、お世話になりました」
王国の方へ深々とお辞儀をすると海へと足を踏み出す、リカの足を付けた部分が直ぐに凍り付き、足場へとなって居た。
あの怪我なら恐らく直ぐには出発できない筈、それならば船を使うまでも無かった。
ふと目から何かが落ちる感覚を覚えた。
手を受け皿にして落ちて来る物を確認する、氷の結晶が瞳から落ちて居た。
「涙は流れないと思って居たけど……おかしな体ね」
自然と溢れる氷の結晶にリカは微笑みながら海を渡った。