第168話 訓練
アルラとの話から一夜明け、アルカド王国の普段は守護者達が集まる時に使っていた広間で隼人は一人、とある人物を待っていた。
「こんな早朝に呼び出してどうしたんだよ……つってもこの地下じゃ朝と夜の区別なんてつかねーけど」
寝ぼけた目を擦りながらオーフェンが扉を開け入ってきた。
現在時刻は朝の5時過ぎ、まだ寝ぼけていても無理はない。
こんな早朝に呼び出したのには訳があった。
「アルラには伝えたが俺には以前の様な強さは無い、だがこれからの旅は暗黒神とは比にならない程に厳しくなる……だから一人一人に確認してるんだ」
「確認?」
「旅を続けるかどうか……力を失うまでは助けられる限り助けようとした、だが今は自身の身も守れるか危ういからな」
その言葉にオーフェンは少し険しい表情をした。
無理もない……彼は俺の強さに惚れて着いてきた、強くも無ければアルセリスでも無い、ただの隼人には用無しの筈だった。
だが、彼の言葉は予想外のものだった。
「今更行く宛てもねーのに旅に着いてかなくてどうすんだよ、俺は何処までも着いてってやるぜ」
そう言い胸を軽く殴るオーフェン、予想外の言葉に隼人は困惑していた。
死ぬかも知れない……逆にそれが彼の興味を引いたのかも知れない。
「あぁ……助かるよオーフェン」
「別にいいさ、んじゃ寝ていいか?」
そう言い帰ろうとする、だが彼にはまだ別の用があった。
「少し待ってくれ」
「まだあんのかい」
オーフェンは面倒くさがりながらも振り返る、彼は……純粋な人間としてアダマスト級冒険者まで上り詰めた、獣化していないユーリとならいい勝負が出来るほどに彼は強い……その強さを教えて欲しかった。
「どうすれば強くなれる?」
ざっくりとした質問にオーフェンは困った表情をした。
「どうすればって言われてもな……」
そう言い腕を組み難しい表情をしたその時、ふと部屋の温度が下がっているのに気が付いた。
「隼人さん、オーフェンさんに教えを乞うても無意味ですよ」
部屋の入口からする声に視線を向ける、そこには見慣れた制服姿のリカが立っていた。
「無意味ってどういう事だ?」
「単純です、オーフェンさんと隼人さんでは体格差が目に見えて分かります、確かに技術も凄いですが彼の場合パワーがあっての技術、隼人さんが学ぶべき相手は私かと」
そう言いグイッと前に出てくるリカ、何処と無く積極的だった。
だが、言われてみればそうだった、オーフェンは身の丈程の大剣を使って戦う、俺には到底無理な芸当だった。
「んじゃ、俺は寝ていいか?」
「呼び出して悪かった、ありがとうオーフェン」
隼人の礼に手をひらひらさせて去って行く、リカはオーフェンの姿が消えるのをじっと見ていた。
やがて扉が閉まりリカと2人きりの空間になる、するとリカは隼人に視線を向けた。
「取り敢えず、魔法は使えますか?」
「やって見る」
リカの言葉に隼人は集中をする、炎が燃え盛るイメージ、雷雲から落ちる落雷……色々な属性魔法をイメージしても魔法は全く発動しなかった。
「魔力が殆ど感じないのでもしかしたら思いましたが……」
「あぁ……見たいだな、魔力が消えてる」
いつも感覚的に発動して居たから発動出来ないのか一瞬思ったが違う……身体の中から魔力が殆ど消えていた。
冥王も魔力まで持って行くとは……予想外だった。
「正直そこまで魔力が無くなって居るのは予想外でしたが微かに残ってるのならまだやりようはあります」
そう言い刀を抜くリカ、辺りの気温が更に下がった。
「ある程度身体も鍛えてもらいますがそれはアルラさんに頼むとして……私は剣術と魔法の組み合わせを教えます」
そう言い刀を構える、そして軽く振ると遠い位置にあった壁に斬撃痕が出来た。
「斬撃を飛ばした?」
「はい、刀を見て下さい」
そう言い刀を隼人に近付けると魔力を刀身に込める、そして再び軽く刀を振ると込められた魔力が斬撃の形になって飛んで行った。
「魔力を刀に込める、意外と皆んなやらないんですよ」
そう言い刀を渡すリカ、やってみろ……という事なのだろう。
リカから刀を受け取り微かに残っている魔力を集中して引き出す、そして刀の刀身に纏わせる様イメージして……
「振る!」
隼人は勢い良く刀を振る、だがリカの様に斬撃は飛ばなかった。
「魔力が散ってますね、ギリギリまで固めとかないと分散しますよ」
「ギリギリまで固める……」
リカの言葉を受けてもう一度挑戦してみるがやはり斬撃は飛ばなかった。
何度も、何度も挑戦するがやはり成功しない……恐らく意外とやらないのでは無く、難しくて出来ないのだろう。
「難しい技ですけど魔力を刀身に込める、これが覚えられれば戦術は格段に増えますよ、例えば切っ先に集中させて突きの威力を上げるとか」
そう言い自身の氷魔法で形成したかなり分厚い氷を貫く穴を空けるリカ、あまり彼女に注目して居なかったが技術が凄かった。
「魔力を込めるか……」
見よう見まねで斬撃を飛ばそうとするがやはり失敗……先が長くなりそうだった。