第167話 対等な関係
短めです
強い。
刀を受け止めようと剣を盾にするがパワーが桁違い過ぎて流す事が精一杯だった。
初めてアルラと戦った時はアルセリスの力があったおかげで気が付かなかったがパワー、スピード、技術、どれをとっても超一流、全く隙が無かった。
「そんな……物ですか」
アルラの声が低く、冷たく聞こえた。
次の瞬間、ギアを上げたかのようにその場から消え目の前に現れる、剣を振り回せる間合いでは無い……彼女の刀はゆっくりと隼人の喉元に突き立てられた。
完敗……だった。
「俺の……負けだ」
その言葉にアルラは刀を落とした。
ずっと……アルセリス様に憧れていた。
家族を失い、暴走していた私を助け、部下として使ってくれた……1番近くで見て来たからこそ、あの無慈悲だが圧倒的な強さに憧れた……だが、数年前急にアルセリス様は変わってしまった。
以前の無慈悲なアルセリス様では無く、何処か人間らしいお人になられた。
とは言え、強さは健在……憧れは変わらなかった。
だが……目の前で負けを認めた青年、彼はアルセリス様でもなんでも無かった、強さも無い、無慈悲でも無くシャリエルを力と変えて助ける程にお人好し……憧れる要素は何処にも無かった。
なのに……
なのに何故、私の気持ちは変わらないのだろうか。
アルセリス様への憧れの理由は強さの筈、隼人にはその強さが無い……此処に止まる理由も無い筈……ウルスと一戦交えた時、付いていく事も出来た……だが、私は隼人と知って残った。
以前のアルセリス様は私を駒としてしか見ていなかった、それは他の物も同様に……守護者間の仲も良くは無く、大陸を支配する為だけの関係だった。
だが隼人は違う、私達異種族の者達をしっかりと一人の部下として、人間として見てくれた、ランスロットが亡くなった時、静かに涙していた……恐らくそんな優しく、酷く人間らしい一面に惹かれていたのだと思う。
私の憧れていたアルセリス様は消えた……だが、私の好意を抱いた隼人はまだ目の前に居る。
弱いのならば鍛え直せば良い……幸いにも時間はある。
「隼人様……」
アルラは膝をつく隼人に手を差し伸べた。
「一年間……ウルスは放っておきましょう」
「ウルスを放って置く?」
アルラの言葉の意味が分からなかった。
確かにウルスに緊急の危険性は無い、だが仮にも元仲間……何故裏切ったのか真相を知りたかった。
「今の隼人様では正直言って私ですら片手で勝てます……ですから、他のメンバーも含め、訓練するのです」
「片手って……厳しいな」
流石に今の実力ではウルスに挑むのは無謀……分かっていた。
だが正直意外だった、力を失った俺には何の価値も無い筈……それなのにアルラは何故残るのだろうか。
分からない……アルセリスを偽るならまだしも、今の俺は完全に隼人、アルセリスのあの字もない筈なのに。
「何で俺について来てくれるんだ?」
その言葉にアルラは今まで見せた事の無い笑顔を見せた。
「隼人様が……放って置けないからですよ」
「放って置けない……か、あとこれからは対等な関係だから様はやめてくれよ」
「では……隼人殿?」
真面目な表情で放たれた言葉に思わず笑いそうになる、意味合いはイマイチ変わってない気がした。
「普通に隼人で良いよ」
その言葉にアルラは難しい表情をしていた。
「それなら、隼人さんでどうでしょうか」
まだ距離があるような感じだが……彼女からすればかなり大きな一歩なのだろう。
「まぁ、それでいっか」
そう言い隼人はアルラの手を掴み立ち上がる、アルラとは多少腹を割って話せた……あとはオーフェン達だけだ。
正直彼らがついて来てくれるかは分からない……だが、俺の全てを話すつもりだった。
この先人が簡単に死ぬ、アルセリスの力を失った今は守ることが出来ない……アルラとの訓練でどれ程強くなれるかもまだ未知数……そんな不透明な旅路に参加して欲しいと言うのだ、断られる可能性の方が高かった。
だが……真の仲間は互いを知ってこそ作られる、そんな気がした。
「それじゃあ……行くかアルラ」
そう言い、隼人は転移の杖を突いた。
光に包まれ消える2人、誰も居なくなった大樹の幹下にはかつてアルセリスとして被っていた鎧と兜が置かれていた。