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第163話 既視感

まずい……意識が飛びそうだ。



サレシュとアイリスが倒れているのが視界に入る、異大陸に来てからずっとピンチ続き……勘弁して欲しかった。



黒い騎士に気を付けろ……その意味が対峙してようやく分かった。



正直強さは大したことない。



だが……



「数が多いって事ね」



緑の草原を埋め尽くす程の黒い騎士、流石にこの状況は笑うしか無かった。



一匹でもやっと倒せる強さなのにそれが百……いや、下手したら千を超える人数がこの草原に居る、そしてこいつらは無条件で私達を襲って居た。



金品が目的ではない様子……と言うか人間かすら怪しかった。



「さぁて……転移の魔紙は無いし、二人はお昼寝中……いよいよ不味いわね」



倒れている二人を庇いながら戦うのは不可能、とは言え見捨てるのは論外……脱する術を考えるが全く思い付かなかった。



魔法を使わないのが不幸中の幸いだがこんなジリ貧の状況じゃ死ぬのも時間の問題だった。



ふと黒騎士の一体がアイリスにトドメを刺そうとする、反射的に顔面を殴ると兜が吹っ飛ぶ、だがその下に顔は無く、黒いモヤが渦巻いているだけだった。



「なによ……これ……」



黒騎士の正体に虚を衝かれ迫る剣の存在に気付くのが遅れる、気付いた頃には既に眼前へと迫って居た。



「避け……れない」



何度目だろうか……走馬灯が駆け巡る、様々な思い出、アーネストやアイリス、サレシュとの楽しかった日々が蘇る……ふとその1ページに見慣れない青年が居た。



目元に掛からない程度の黒髪の青年……何か彼と言い合っている思い出……この人は誰なのだろうか。



若干私が頬を赤らめている……別にタイプでも無い青年と私は何を親しげに話して居たのか……分からない、記憶が抜けて居た。



だが……私は彼を知っている、そんな気がした。



と言っても、死を目の前にした今ではどうでも良い事だ。



「永遠の謎って訳ね……」



そう言い人生に幕を下ろそうとしたその時、声が聞こえて来た。



「本当に……世話の焼ける奴らだな」



声が聞こえた次の瞬間、辺りが急に静まり返った。



頭が痛くなる様な鎧の擦れる金属音はピタッと止み、その代わりに人の話し声が聞こえて来た。



「アル……ではありませんでした、隼人さん、これで総討伐数856体です」



「結構倒したな、あと144体ってとこか」



「その内300体近くは俺の手柄って事も忘れんなよ!」



「あぁ、皆んなの力があってここ迄来れたんだ、ちゃんと分かってるよ」



会話に一区切り付き会話が止む、恐る恐る顔を上げると其処には走馬灯で見た青年とその仲間が立って居た。



「大丈夫か?」



そう言い手を差し伸べる、何だろうか……この感じは。



手を握るとシャリエルは立ち上がる、なぜ走馬灯に居た彼がここに居るのか……私は何も覚えて居ない、彼なら何か知っているかも知れなかった。



だがなんて尋ねれば良いのか、走馬灯に出で来ましたなんて言える訳ない……此処は無難に。



「あの……私達って何処かで会いませんでしたか?」



その言葉に隼人と呼ばれて居た青年は首を振った。



「いいや、初対面だよ」



やはり……私の思い過ごしなのだろうか。



走馬灯と言って一瞬の出来事、もしかしたら勘違いしてるだけかも知れない。



「助けていただきありがとうございました、私はシャリエル、異国からこの国を調査しにやって来まして……」



「あー、堅苦しから普通で良いよ」



シャリエルの口調に違和感を感じた様に隼人が言う、少し引っかかるが彼の言葉に応じた。



「改めて、助けてくれて礼を言うわ」



「大した事ないさ、それより異国調査ってこれで全員か?」



シャリエル達三人を見て不思議そうに尋ねた。



「ええ……と言ってもアイルツェラト国で27人の仲間を失ったのだけどね」



その言葉に隼人は驚いて居た。



「そ、そうか……騎士団長も?」



「ええ、でも……なぜその事を?」



私はライノルドの存在を告げて居ない筈なのだが。



「あぁ、いや、異国からって言うくらいだから騎士団で来たのかと思ってさ、悪いがあんたらは騎士と言うより冒険者って身なりだし」



彼の言葉に納得する、確かに私達は冒険者の風体、強いて言えばアイリスが見えなくも無いが彼女も騎士団長と言う見た目では無い。



「そう言う事ね、そうよ……騎士団長ライノルド、偉大な人を失ったわ」



その言葉に隼人を含め側にいたかなり大柄の男性も悲しそうな表情を浮かべた。



「そうか……死んじまったか」



大柄の男性はそう言い大剣を地面に刺す、そして空を見上げて居た。



泣いて……居るのだろうか、だがライノルドと関係のある者がこの大陸に居るとは考え難かった。



「悪いけど名前を聞いても良い?」



空を見上げる男に尋ねる。



「オーフェン・アナザーだ」



その言葉だけが返って来た。



そしてその言葉にシャリエルは固まった。



オーフェンアナザー、今は知る人は少ないかも知れないが15.6年前にアダマスト大陸で名を馳せた大英雄だった。



暫く名を聞かないとは思っていたがこんな大陸に居るとは……思わぬ出会いだった。



「それで、お前達はこれからどうするんだ?」



どうする、そう尋ねられても答えに困る。



アイリス達は怪我を負い、私も魔紙が足りない……このまま進んでもまた詰むだけ、とは言え無成果のまま帰るわけにも行かなかった。



「成る程、当て無しか……なら俺達のアジトって言うのか?まぁ何でも良いからついて来いよ」



隼人はそう言うと杖を取り出した。



「取り敢えず転送してやるから動くなよ」



そう言い杖でシャリエル達の体を触っていく、すると体は光に包まれ、草原から姿を消した。



「やっぱ……来ちまったか」



「そうですね……一度は助けられても今の状態では……」



隼人と存在感を消していたアルラは言葉を交わす、記憶はまだ戻っていない様子だった。



「まぁ……アイツらも覚えて無いみたいだし、適当に理由を付けて帰還させるか」



「それが……賢明だと思います」



二人で答えを出すと隼人は転移の杖を再度突き、転移魔法を発動した。

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