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第161話 父

『お父さん!』



頭に響く。



『ライノルドさん』



やめてくれ。



やっと忘れられた忌々しい記憶……俺は家族を守れなかった。



戦火に包まれる家、聞こえる叫び声が耳にこびり付いて離れない。



「動きが……止まった?」



ルナリアを殴った事に怒り出したかと思えば急に動きを止めた……不可解だがこれはチャンス、そうレヴィウスは悟った。



スイッチを押しパワーを全開にすると剣を振り上げる、呆気ない最後だ。



「さらばだ、異国の騎士団長」



レヴィウスの剣がライノルドに振り下ろされる、だが剣は空を切った。



「なっ!?」



視界からライノルドの姿が消える、瞬きすらして居ない間に彼は消えた、そして背後から声がした。



「あんたは……家族を失った事があるか?」



首元に剣……全く気が付かなかった



「それをお前に言うとでも?」



「そうか……俺はある、15年前に家族を……あの時、俺は目の前で家族を殺された」



剣を持つ手が震えていた。



「俺はアンタを殺す事が出来ない……あの子は娘なのだろ?」



「あぁ……」



「俺は家族を失う痛みを辛いほど知っている……例え敵であろうと、家族を奪う事は出来ない」



そう言うとライノルドは剣を捨てた。



その行為にレヴィウスは驚きを隠せずにいた。



今殺す事も出来る、彼は敵……だが正直殺す意味も特に無かった。



「どうやら……勘違いしていた様だな」



そう言いレヴィウスは剣を持つ手を緩める。



その行為にライノルドは少し安心した。



だが直ぐに強く持ち直すとレヴィウスはライノルドの体を斬り裂いた。



「なっ……」



モロに斬撃を受けたライノルドは膝を付く、ここ迄腐っている奴とは思わなかった。



「もう後には引けんのだよ、ルブールがお前達の兵士を殺した……その時点でどちらかが死ぬまで戦いは終わらないんだよ」



レヴィウスの表情は悲しげだった。



「そうか……それが答えなのか」



そう言いライノルドはその場に倒れ込んだ。



切り口から血が溢れ出る、此処で死ぬのだろうか。



だが……それも悪くは無い、47年の人生、色々とあった。



天才ともてはやされ、家族を失い挫折……だがシャリエルと出会いまた人生に色が着いた……本当に色々な事が起きる人生だった。



それも……もう幕引きだろう。



シャリエル達と別れるのは寂しいが……家族に会える、ようやくルシリア達に。



「今……行く」



そう言いライノルドは何も無い天井に手を伸ばし、空を掴んだ。



「息絶えたか……」



凄まじい罪悪感、だが戦いと言うのは残酷だ。



人を殺した以上後には引けない……彼を大切に思う者には悪いがこれは戦争、殺すしか方法は無かった。



スイッチを切り剣をしまったその時、右方向から凄まじい衝撃を感じた。



次の瞬間レヴィウスは部屋の壁にめり込む、何が起きたのか理解出来なかった。



「ふざけんなてめぇ!!!」



凄まじい怒号、何者か……女性が顔面を殴っていた。



1発1発がかなりの重さ、右の視界が暗くなっていた。



反撃しないとまずい……咄嗟にスイッチをONにするとフルパワーで少女を蹴り飛ばし距離を置く、そして改めて姿を確認するとそれは捕まえていた娘、シャリエルだった。



「捕まえていた娘か」



機械とは言え脳と心臓は人間の時と変わらない、先程の攻撃で脳にダメージがあった。



少し時間を稼がねばならない……そう思い会話を試みるがシャリエルは耳を傾けさえしなかった。



「お前だけは……絶対に殺す」



感じた事の無い殺気……だが返り討ちにするのみだった。



「来い、お前も殺してやる」



そう言い剣を構える、するとシャリエルは真正面から突っ込んで来た。



見たところ武器は無い、強いて言えば鉄の拳当てのみ、リーチでは此方が優位だった。



一撃目を剣の腹でガードし腹部に蹴りを入れ間髪入れずに距離を詰め切り裂く……イメージは完璧だった。



予想通りシャリエルは真正面か拳を打ち出す、イメージと通りに剣の腹でガードしたその瞬間、剣が粉々に砕け散った。



「な!?」



予想外の出来事に反応が遅れる、その間にシャリエルは懐に潜り込んでいた。



完全に彼女の射程範囲……蹴りで距離を取ろうにも近すぎた。



無言のまま腹部を殴られる、あまりの威力に機械の身体が耐えられなかった。



右腕を動かす機関、左足、右足……どんどんと壊されて行く、反撃すら出来なかった。



「死ね」



そう言い拳は顔面に迫る、もうどうしようも無かった。



彼女は強すぎる……異大陸の者は桁違いだ。



ライノルドも俺に同情しなければ勝てただろう……だがこれも、当然の報いだ。



目を閉じ死を待つ、だがシャリエルの拳は声と共にピタリと止まった。



「止めてシャリエル!!」



ルナリアの声だった。



「止めないでルナリア、私は……此奴を許す事は出来ない、止めるなら貴女も一緒に殺してしまうかも知れないわよ」



寸での所で止まった拳はプルプルと震えていた。



「それでも構わない……父の罪は私の罪でもあるから……父を殺すなら俺も殺せ!」



そう言いルナリアは上に乗っていたシャリエルを突き飛ばし立ちはだかった。



何故……あれ程酷いことをして俺を守るのか、理解出来なかった。



「ルナリア、退いていろ」



「嫌だ!」



頑なにその場から離れない……何故、本物の家族でない俺を守るのか、こんな自分を守る価値は無いはずだった。



「お前も薄々気付いていた筈だ、俺はお前の父では無い!家族でも無い奴に命を賭ける必要は無いはずだ!!」



「分かってる……だけど私を拾い、育ててくれたのレヴィウス、アンタだ……あの森に隔離した理由もちゃんと知ってる」



そう言いルナリアは笑顔を見せた。



全て……知って居たと言う訳か。



「ごめん……何て言葉で済ませられる訳ないよな」



ルナリアはシャリエルを見つめた。



「ええ、私の父を奪った罪は重いわ……」



そう言いシャリエルは拳に光を纏わせた。



これで良い……父と出会えただけでも良かった、人生に悔いは無い。



「募る話しは上でな!」



そう言いルナリアはレヴィウスの手を握った。

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