第160話 団長同士の決戦
幹部を全て倒し脱出……思い描いて居た様に人生は進まないものだった。
「どうした、もう終わりか?」
ボロボロになり片膝をつくシャリエル、それに対して対峙する赤い瞳の男は傷一つ付いて居なかった。
ナグラスを倒してから幹部を1人倒しこの調子で行こうと思った矢先に出現した男、アイルツェラト国、副団長のルドガー……強さが他の幹部と二回り程違った。
下手すればライノルドよりも……副団長でこのレベル、私一人で勝てる相手では無かった。
だがサレシュは負傷、アイリスもこの場には居ない……絶対絶命とはまさにこの事だった。
絶対に勝てない……そう思わされる格上と対峙した事は何度もあった、だが何故か不思議な感覚だった。
誰かは分からない……だがこの人よりも遥かに強い人物を私は知っている様な気がした。
それ故に絶望感が無い……何処かチャンスがある気がした。
「来ないならこっちから行くぞ!」
全身に炎を纏いゆっくりと近づいて来る、耐火の鎧を纏って居てもかなりの暑さの筈……頭のおかしい男だった。
だが全身火達磨の彼に私が出来る事はない、肉弾戦を得意とする戦闘スタイルの私にとっては天敵だった。
先程耐久を試してみたが全く効果は無い……チャンスがあるとは言ったが勝ち筋は正直あまり見えなかった。
この部屋から逃げ出した方が賢明なのだろうが部屋の外に感じる気配……恐らく幹部だった。
出口と入り口に一人ずつ……この部屋に入った瞬間から感じる様になった、つまりこの部屋に入った瞬間から私達は彼に勝ち、扉の向こう側にいる幹部に勝つしか生き残る道は残されて居なかった。
サレシュを担ぎ彼から距離を取り続ける、幸いにもそれ程スピードの無いタイプで助かった。
「成る程、逃げ回り体力を消耗させる作戦をまた取ってきたか……無意味と知りながら、愚かだな」
そう言いルドガーは立ち止まると剣を構える、彼とは20mほど距離はある……何をする気なのだろうか。
念の為部屋いっぱいまで下がり彼の様子を見る、すると突然剣は何度も空を切る、そして数秒後、炎の斬撃となりシャリエル達目掛け飛んで来た。
「斬撃飛ばすって何者なのよ!?」
常軌を逸した攻撃に反応が遅れる、斬撃が頬を掠める、微かな火傷と切り傷……モロに受けたらヤバそうだった。
「ちょこまかと……最大出力で行くぞ!!」
何度も斬撃を交わすシャリエルに痺れを切らしたのか、ルドガーは剣を大きく振り上げる、とんでもない一撃が来る事は容易に予想できた。
だが距離を取り過ぎた弊害が此処で来る、彼との距離が遠過ぎて魔力を溜めるのを妨害するのが出来なかった。
「このままだとヤバい……」
目に見えて魔力が溜まって行く……だが妙だった。
対峙した時、彼からそれ程魔力は感じなかった……だが今溜めてる膨大な魔力は確かに存在している、何処から魔力を発生させているのか……もし、自分の魔力で無いのだとすれば、魔力の発生源となっている何かを潰せば勝機は見えるかも知れなかった。
とは言っても……この攻撃を防ぎ切るのが先決だが。
「さて……持ってる魔紙は12枚、転移が1枚に各属性魔法が2枚……そして憑依魔法が1枚ね」
転移は論外として憑依魔法もあまり使いたく無い、この体に憑依させて仕舞えば彼には勝てるが恐らく、と言うか必ず次の敵に勝てない……となれば各属性魔法で防ぐしか無さそうだった。
と言っても位階的には3位や2位程度の魔法……防ぐには心許なかった。
「サレシュは……まだ気絶中よね」
せめて彼女だけでも……諦めた訳では無いが念の為、転移の魔紙を握らせておいた。
増長する魔力……やがてそれは止まった。
「死ぬ準備は出来たか?」
「ええ……貴方のね」
拳を構える、防御は捨てるしか無かった。
五属性の魔紙を同時に破り拳に魔力を宿す、狙うは彼の心臓一点のみ、この魔力を彼の心臓に撃ち込めば倒せる……その代わり私はまる焦げだがこれならサレシュも助かる筈だった。
「アーネスト……今行くわ」
覚悟を決め、シャリエルは拳を握り締めた。
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王室に二人の男が剣を構え対峙する。
張り詰めた空気は重く緊張感がある……静寂に包まれる城内、だが次の瞬間、爆発の様な轟音が響き渡った。
だが両者互いに驚すらせず、それを待って居たかの様に轟音を合図に走りだす、交わる剣、辺りに剣戟の音が響き渡った。
「一度交えただけで分かる、セルナルドの騎士団長は相当強いな」
「あんたこそ、敵ながら天晴れだ」
何度も何度も剣戟の音が響き渡る、殺し合いながら互いを称え合う……異様な光景だった。
「人生とは残酷だな、友になれるかも知れぬ者と出会ってもこうして殺し合う形でしか出会えない」
男は残念そうに呟く。
「吐かすな、こうして殺し合っている以上、そこに友情など生まれる訳ないだろ」
「ふっ……それもそうだな、そう言えばまだ名を名乗って居なかったな……俺はレヴィウスだ」
「俺はライノルド……自己紹介は此処までにするか」
そう言いレヴィウスの腹部に蹴りを入れようとする、だが彼はライノルドの足を手で掴み笑った。
「そうだな、此処から本気の殺し合いだ」
そう言い足を切り落とそうとする、辛うじて剣で受け止めると左足を掴まれているのをいい事に右足で彼の顎を蹴り飛ばす、だがダメージは然程入って居ない様子だった。
カチッと何かのスイッチの様な音が微かに聞こえる、だが何が起きる訳でもなく、レヴィウスは突っ込んで来た。
音に不信感を抱きながらも振り下ろされた剣を受け止める、だがその一撃は先程とは桁違いの強さだった。
あまりの腕力に剣を受け止めたにも関わらず床がひび割れる、骨が軋む音が聞こえる……剣を縦にして何とか軌道を逸らす、逸らされたレヴィウスの剣は床を両断する、凄まじい威力……知り合いの鍛冶屋が造ってくれた特別な剣で無ければ武器ごといかれていた。
何かのスイッチ音は恐らく筋力増強系の機械、鎧の下に何か着込んで居るのだろう。
この国は機械技術に特化していると言っていた……その話しに嘘偽りは無く、本当に特化している様だった。
見た事のない技術……かなりの脅威だがそれと同時に機械を破壊さえすれば相手では無いと言うことも同時に分かった。
「何か分かった様な表情だな」
「まぁな……」
レヴィウスの言葉に笑みを見せる、勝機は見えた……筈だった。
力任せの一撃を右腕の骨を折りながらも受け止め逸らす、そして大振り故に出来たか懐目掛け剣を突き刺す……この時に勝利を確信した、だがレヴィウスは倒れなかった。
それどころかダメージすら受けて居ない様な表情でライノルドの首を掴み持ち上げた。
「な……ぜ、突き刺した筈だ」
剣は鎧を貫通した……心臓に突き刺さらずとも急所のはず、即死せずともこれ程に動ける傷では無いはずだった。
「お前は俺の事を知らなさ過ぎる……驚くのも無理はないだろう」
そう言い鎧を脱ぐレヴィウス、その下は肉体では無く、物々しい機械だった。
「これは……どう言う?」
首を絞められながらも何とか話す、全身が機械の人間など聞いた事が無かった。
人間の技術で到底作れる物では無いはず……その時、ふと一人の名が頭を過った。
「オートマタ技師……二クルスか」
一時期セルナルドに来ていた奇妙な機械技師の存在を思い出した。
4~5年前だが凄まじい技術の持ち主で戦争により腕を亡くした兵士に本物と大差ない義手を作っていたのを今でも覚えている……まさかこの大陸に居るとは予想外だった。
「正解だ、俺は1度死んだ……だが次に目を覚ました時、俺は二クルスによってオートマタとして蘇らせて貰った……機械の俺に弱点は無い」
そう言い首を絞める力を強める、意識が飛びそうだった。
やはり敵の情報無しでの戦闘は厳しい……意識も殆ど消え掛けていた。
だがその時、声が聞こえて来た。
「お父さん!!」
聞き覚えは無いがなぜ懐かしい少女の声……声が聞こえた途端、レヴィウスの手が首から離れた。
「な、何が起きた……」
あまりの苦しさに咳き込む、ふと顔を上げるとポニーテールのこの場には似つかわしく無い少女が息を切らし王室の入り口に立って居た。
「ルナリア……」
レヴィウスは明らかに動揺して居た。
お父さんと彼女は言った……となれば親子の再会と言った所なのだろうか。
流石にそれを邪魔して攻撃する程鬼では無い……剣を杖代わりに立ち上がるとよろよろと壁際までライノルドは移動した。
「何故……お前がここに」
「何故ってお父さんに会いてーから来たんだろうが!」
汚い言葉使いで声を荒らげルナリアは叫ぶ、その瞳には涙が溜まっていた。
「ルナリア……」
何故かレヴィウスは浮かない表情だった。
「お父さんに言われた通り20歳になるまでずっと町外れの森で暮らしてたんだぜ?だからこれからは一緒に……」
ゆっくりと近づくルナリア、だが次の瞬間、レヴィウスの手が首を捉え彼女を失神させた。
「……?」
突然の出来事にライノルドは理解出来ずにいた。
傍から見ていればただの親子が再会しただけに見えた……だがレヴィウスは娘を殴り気絶させた……殴る意味を理解出来なかった。
「なんで……殴ったんだ?」
「赤の他人のお前に関係ない……それよりも」
「何故殴った!娘を……家族を何故殴った!」
レヴィウスの言葉を遮り激憤するライノルド、家族を失った自分に取って許されない行為だった。
「だからお前には関係無いと言っている!」
レヴィウスは怒鳴り返す、その様子にライノルドは突然落ち着きを取り戻した。
そしてゆっくりと剣を構えた。
「お前を許す事は無くなった……家族に手を上げる、何者にも許されざる行為だ」
「訳も知らずに……まぁいい、これで終わらせよう」
そう言い両者は剣を構えた。