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第158話 奥の手

だらだらと続けてたらPV数30万突破してました

なんかありがとうございます

身体が冷たくなって行く。



腹部を貫く刀、とめどなく血が溢れる。



傷口は熱いのに身体は寒い……不思議な感覚だった。



「弱すぎ、相手にすらならないじゃん」



ルブールはサレシュに向かって唾を吐くと刀を抜いた。



「てか気になってたんだけど死ぬ前に答えてくれる?」



サレシュの答えを聞かぬままルブールは続けた。



「なんでモーニングスターなの?武器としての性能で言えば槍とか剣の方が遥かに良いと思うんだけど」



そう言いサレシュの使っていたモーニングスターを持ち上げようと手に取る、だが何故か持ち上げるのを辞めた。



「モーニングスターを使う意味ですか……」



確かにモーニングスターより優れた武器は無数に存在する、正直モーニングスターの利点は私にも分からない……だが使う理由が確かにあった。



『そりゃ私が剣なんて使っちまったら無双するからに決まってるでしょー?』



頭の中で声がする。



『なぁ相棒、ピンチなんじゃねーの?』



「見方によってはそう見えるかも知れませんね」



私は微笑みながら言う。



『認めろよ、私が居てやっと一人前……だろ?』



その言葉を残し頭の声は消えた。



「そうです……ね、認めたくはありません、私一人でシャリエル達を守る、そうあの日決めたのに……これじゃ面目が立たないじゃないですか」



一人ぶつぶつと呟くサレシュにルブールは気味が悪そうに首を傾げた。



「負けそうになって頭でもいかれたか?」



サレシュの姿に疑問を抱く、だが戦闘において気が狂う奴は珍しくない、恐らく彼女もその一人なのだろう。



「さっさと終わらせるか」



そっと刀を抜く、そしてゆっくり彼女に近づき刀を振り上げた瞬間、死を感じた。



(なんだこの感じ……)



刀を振り下ろせば逆に自分が死ぬ……そう感じた。



そして反射的に後ろへ引く、すると次の瞬間、ルブールが居た場所に轟音と共にモーニングスターが振り下ろされた。



突然の出来事に思考が数秒停止する、だが戦場ではその数秒が命取りだった。



『なぁーに止まってんだよ!!』



先程まで戦っていた女性の声で発せられるけたたましい雄叫びの様な声に我に帰る、そして彼女の姿を視認した頃には既にモーニングスターが右腕を捉えていた。



(受け流せない……)



既にめり込んだモーニングスターを受け流す術はない、大人しくルブールは攻撃に身を任せ吹き飛ばされる、家を突き破り徐々に減速すると刀を地面に刺し着地する、あの一撃で右腕が完全にお釈迦になった。



だが頭は至って冷静……どう打開するか、次の一手を考える、だが彼女は考える時間すら与えてくれなかった。



『よくも私を痛ぶってくれたなお子様よぉ!今度は私が痛ぶる番だぜ?』



凄まじい勢いでモーニングスターを振り回す、反撃の隙もない……モーニングスターが雑魚の武器と思っていたが大きな勘違いだったようだ。



筋力がある者が使えば偉大な武器となる……完全に相手の強さを見誤った。



「はぁ……僕の悪い癖だ」



『あぁん?』



「敵を甘く見る癖だよ、必ず格下と決め付けて戦闘に入る……団長から直せって言われてたんだけどな」



刀を鞘に収めた。



『なんだぁ?諦めたのか?』



荒々しい口調で疑問を投げ掛けるサレシュ、だがルブールは首を横に振った。



「違うよ、本気を出すんだ」



そう言いルブールは両手を合わす、その瞬間辺りの気温が一気に下がった。



『こりゃまずいな……』



此処で殺さないとめんどくさい事になる、直感で分かった。



モーニングスターを片手に片足を踏み出す、だがもう既に遅かった。



「君が奥の手を隠してた様に僕も奥の手を使うよ……せめて、10秒は持ってくれよ?」



冷気を纏い氷の剣を構えるルブール、早めに殺しておかなかった事を少しばかり後悔した。



『こりゃ私の身体が何処まで保つかの勝負だな……』



ボソッと呟きモーニングスターを持ち上げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ひぐしっ!」



急に下がった気温に身を震わせる、相変わらず狭い独房は退屈だった。



「寒くなったか……」



ドアの向こう側から声がする、ラグラと名乗る男は随分前からずっとドアの前にへばり付いていた。



見た所見張りをしている訳でも無い様子、私達の処分を掛け合った結果も話さない……まぁおおよその検討は付く。



「ねぇ、なんで急に寒くなったの?」



耐えられないレベルでは無いが相当な寒さ、こんな急に冷えるのは明らかに不自然だった。



「ルブールだよ、アイツが奥の手を使ったんだ……あいつ死ななけりゃいいがな」



少し心配そうにラグラが言う、何故敵の心配をするのか少し疑問だったが今は聞かないでおいた。



「てか国全体の気温変える程の冷気操れるって何者なのあの子?」



見た目は普通の少年、貴族っぽい見た目と美形な所を除けば至って普通の。



「あいつは天才の子なんだよ」



「天才の子?」



「あぁ、あいつの父は剣術の天才、母は氷結魔法の天才、その両方の良い点を継いで生まれたのがアイツだ」



「なるべくして強くなったってわけね」



才能の無い私からすれば少し……いや、かなり羨ましい話だった。



「いや、あいつも色々と事情があってな……」



「事情?」



ラグラの声は何処か悲しげだった。



「ルブールも元はあんな性格じゃ無かった、普通の無邪気な少年だった……アイツも一年半前の被害者なんだよ」



皆が口を揃えて言う一年半前、何の事を言っているのか部外者の私にはさっぱりだった。



だが一つ分かるのは悲惨な出来事がこの国に起こったと言う事……私の国も暗黒神に襲われた故にその気持ちは痛い程分かった。



「俺たちにも色々と事情がある……どうか怨まないでくれ異国の者」



その言葉を残し何処かへと立ち去るラグラ、立ち去る際に何か金属製の物を牢の中へと投げ入れて行った。



独房にはカチャンっという音が響く、一瞬フリーズするがすぐ様形を確認する、それが枷と独房の鍵だと理解するのにそう時間は掛からなかった。



「なんで……置いて行ったのかしら」



ひっそりと置いていったという事は彼一人の単独の筈……最後までよく分からない人だった。



だがこれで外に出れる……早くアイリスとライノルドを解放してサレシュの加勢に向かいたかった。



「待っててサレシュ」



シャリエルは枷を外すと扉を開け久し振りの光を浴び外へと出て行った。

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