第156話 思わぬ協力者
めり込む拳、吐血する男……カウンターは成功だった。
膝をつき苦しそうに咳き込む、地面に落として居たモーニングスターを振り上げるが手は空中で止まったままだった。
1秒、10秒と時間は過ぎる、男はその間にも回復している……だが人を殺めるなんて事は私には出来なかった。
気絶させればこの場は凌げる、だが私のすべき事はシャリエル達の救助、恐らくその頃には彼も復活している……安全に、尚且つ成功確率を高めるには彼を殺すしか無かった。
だが……
「私には出来ません……」
サレシュはモーニングスターを投げ捨てた。
そして男の太い首を強めに殴ると男は地面に倒れた。
彼を人質に取るにはあまりにも大き過ぎる……とは言えここに置いておけばゴブリンに殺されるかも知れない。
試しに持ち上げようとしてみるが戦闘直後と言う事もあり力が入らなかった。
頭も回らない……こんな時は糖分がとりたかった。
だが見渡す限り森、薄暗く、キミが悪い……こんな所早く抜け出してシャリエル達を助けないと。
「早く……」
腰を上げようとしたが上がらなかった。
「あれ、ねむ……け?」
まぶたが重い、下がるのを止められなかった。
こんな所で寝てる暇は無い……だが意志に反してサレシュの意識は吸い込まれるように薄れて行った。
「こんな身体の何処にあのパワーが……」
最後に聞こえたのは少女の声だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
トントンと小刻みに何かを切る音に目を覚ます、見知らぬ天井、何分……いや、何時間眠って居たのだろうか。
いつの間にか寝かされたベッドから跳ね起きると辺りを見回す、生活感のある部屋、色々な小物が置かれ小綺麗に整頓されている……何処なのか全く見当も付かなかった。
最後に聞こえたの少女の声を思い出すと恐らく彼女の部屋……だが何故私を連れて来たのか、分からなかった。
ふと近づいて来る足音に気がつく、適当な武器になりそうなものを探すが小物ばかりで何も無い、無理やり眠らされた影響か足元もふらついて居た。
そうこうしている内に扉が開く、そしてワイシャツにポニーテール姿のラフな少女が食事を片手に部屋へと入って来た。
「起きたみたいだな」
サレシュを見るや否や笑顔を浮かべる、見た所悪い人では無さそうだった。
だがまだ信じるには値しない。
「私は……どれだけ寝てたのですか?」
その言葉に少女は料理を机に置くと時計を見た。
「あー、2.30分ってとこだな、所で……何故ラグラとやり合ってたんだ?」
「ラグラ?」
聞いた事のない名前に首を傾げる、だがよくよく考えれば戦った人物は一人しかいなかった。
「アンタが倒した男、一応六幹部最強って呼ばれてるんだぜ」
「あの人が最強ですか」
あれ以上の強さが居ないと言う事への安堵と共にあの時殺しとけば良かったと不意に思ってしまった。
「つーかなんでラグラとやり合ってたんだ?」
不思議そうに首を傾げる少女、彼女に事の全てを話していいものか……分からなかった。
あの男の名前を知っていると言う事は少なくともあの国に関わりがあるという事……彼女を味方に付ければシャリエル達を助けられる可能性がグッと上がる……だが敵である可能性も捨て切れない。
「どうした?」
黙るサレシュの肩を揺する、シャリエル達を助けるにはリスクを負うしか無かった。
「実は……私はアダマスト大陸と言う此処とは別の大陸から来たんです」
「アダマスト大陸……?聞いた事無いな」
首を傾げ難しい表情をする少女にサレシュは事の顛末をなるべく簡潔に話した。
この大陸へ来た目的、仲間が捕まった事、そして私達には敵意が無いことを。
「成る程、まぁでも……この時期にアイルツェラトに行くのはマズかったかもな」
「マズかった?」
少女はサレシュの隣に腰を下ろした。
「一年半前くらい前に国が異国の者に襲われてな、街自体は復興したけど人口が70%も減って酷い人員不足なんだよ、それに加えて最近黒い騎士が付近で暴れてるって噂でな、随分と閉鎖的な国になっちまってるんだ」
「それは……酷い話ですね」
突然攻撃された訳は分かった、だからと言ってシャリエル達を助ける為なら手段は選ばない……必要ならば殺しも視野に入っている。
「そういやアンタの服装、シスターなのか?」
「そうですよ」
「信仰は?」
信仰、その言葉に少し間が空く。
「女神セレスティア様です」
「てことはセレスティア教か、聞いた事ねーけど何を司ってんだ?」
「使役ですね」
サレシュの言葉に少女は少し不審そうな表情を浮かべた。
「そう言えばあの国は何故教会が無いのですか?」
「まぁ色々あんだよ、それより仲間を助けるの手伝ってやろーか?」
思いがけない提案にサレシュはフリーズした。
だが自分にとっては最高の申し出、受ける以外無かった。
だが……一つだけ気になることがあった。
「貴女何者なの?」
森の中に一人で住みやけにあの国に詳しい少女、どう考えても怪しかった。
「俺はあれだ、自然が好きな一般人だよ、名前はルナリア、自己紹介が遅れたな」
そう言い手を差し出すルナリア、正直彼女が国の差し金と言う可能性もある……だが今は罠だとしても、リスクを負ってでも手を組む方が良かった。
「宜しくお願いします、ルナリアさん」
サレシュは笑顔で彼女の手を握った。