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第144話 突然の決戦

目が疲れた。



ボロボロとなった地下王国の自室でグッタリと椅子にもたれながら天井を仰ぐ、何日……いや、何週間が経っただろうか。



分からない。



今が朝なのか夜なのか、何日なのかすら分からない……机から溢れて床まで侵食する程の本を見て軽く笑う、ナハブ国の資料は誰も調べないだけで山程この大陸に存在した。



だが資料に目を通して行く内に調べられない理由も分かった。



ナハブ国……この国は大陸にとって負の面、忌まわしき歴史の一部の様だった。



セルナルド王国が人体実験をして居たと言う事実を聞いた時はかなり驚いた、だがナハブ国は人体実験は当たり前、それどころか大陸の至る所から奴隷を集め強制労働や実験の被験体に、ナハブの国民以外は人間とは思って居ないかの様な立ち振る舞い……少し前のセルナルド王国も中々に嫌われて居たようだがナハブと戦争の時ばかりは他国からの支援も厚かったらしい。



だがそれにも関わらず20年近く戦争は続いたとの事……ナハブ国対大陸各国の状態で20年も戦えるのは少し頭がおかしい。



だがそれを可能にしたのがナハブ国に存在したナハブ人のみで構成された軍隊、数は凡そ1万程だが各々が各国の隊長クラスの強さを誇って居たらしい。



何故そこまで強かったのかは流石に記述されて居ないがその他にも他国から奴隷を連れてきて無理やり戦わせるなど、勝つ為なら卑劣な事も進んでやって居たらしい。



読めば読むほど滅んでいて良かったと思う国だった。



だがナハブ国は滅んでも尚、アンデット種が跡地に蔓延って居るらしく、誰も立ち入る事の出来ない魔の区域になって居るらしかった。



恐らく暗黒神はそこに居る、姿を隠すには絶好の場所……問題は突入するタイミングだった。



此方の主戦力はアルラ、ユーリ、オーフェンくらい、シャリールは実力が未知数に加えてミリィも実力に上下がある……それに何と言ってもシャリエル、今の彼女はとても戦える状態では無い……今の人数と状態では中々突入に踏み切れない状態だった。



「取り敢えず……風呂でも入るか」



久し振りに鎧を全て脱ぐとラフな格好で浴場へと向かう、廊下は相変わらずの静寂だが何処か寂しかった。



皆んなが居たあの時が懐かしい……まだ数ヶ月も経って居ないが酷く昔の事に感じる。



またあの頃に戻れるのだろうか……



いや、戻れないのは自分自身がよく分かっている筈だった。



ウルスは己の意思で此処を離れた、対峙した時に感じた明確な殺意がその証拠、他の守護者もまた……



マイナスな思考が頭を支配する。



その時、パチンッと言う音を辺りに響かせ隼人は頬を両手で強めに叩いた。



「上に立つ者がこんな状態じゃ申し訳ないな」



アルラ達は俺を信じて付いてきている……アルセリスでも無い隼人自身を。



恐らくウルスの言って居た王の器では無いと言うのはこう言う所なのだろう。



気持ちを切り替え湯気が立ち込める浴場へと足を踏み入れる、すると湯気の中に一人の影が見えた。



長い髪のシルエット的に女性……一瞬目を覆いそうになるが直ぐに剣を召喚した。



「誰だお前」



剣を振り回して湯気を払う、するとそこに居たのは銀髪の女性だった。



「女性の入浴を覗くのは関心しないぞ?」



体を隠す素振りも見せずに湯船に浸かる、この雰囲気……何処かで感じた事のある雰囲気だった。



だが彼女自身初めて見る、銀髪の女性と言えば記憶に居るのはアイリスくらい……誰なのだろうか。



「もう一度聞く、誰だ?」



『これなら……分かるか?』



言葉と共に彼女の身体が光る、そして見覚えのある黒い鎧を身に纏った。



「カルザナルド……まさか女性だったとはな」



まさか向こうから出向いて来るとは嬉しい誤算だった。



『剣構えなよ』



黒い穴から剣を取り出しアルセリスに向けると彼女は少し楽しげな声色で告げる、流石に大浴場で最終決戦は締まらないだろう。



「良い場所がある、付いて来い」



『罠じゃないと言う保証は?』



「信じられないなら付いて来なければ良い、まぁその時は……」



何かを言おうと思ったが特に脅しになる材料も無く適当に言葉を濁した。



『仕方ないな……』



カルザナルドは仕方なくアルセリスの背後を歩く、何故だろうか……彼女が暗黒神とはとても思えなかった。



「お前一人なのか?」



『そうだな、六魔の内四人はアンタの仲間に殺されたし残り二人は戦闘中、邪魔の心配なら無いよ』



「相当自信があるんだな」



アルセリスの言葉に笑い声をあげる、だがただ笑うだけで何も言わなかった。



暗黒神……イメージでは禍々しいオーラの男か骸骨かと思っていたのだがまさか女性とは……ゲーム時代の記憶は当てにならない。



暫く廊下を歩くと転移魔法陣が描かれその中心に大きな扉が設置された部屋に着く、そしてアルセリスは手招きすると先に扉を潜った。



扉の先に広がる光景は闘技場、最終決戦にはもってこいの場所だった。



『中々良い場所だ……それじゃ準備は?』



「律儀に準備をさせてくれるとは暗黒神とは思えないな……万端だ」



鎧を瞬時に纏うと異空間から剣を召喚する、そしてゆっくりと胸の辺りで構えた。



戦闘モードに入ったアルセリスを見てカルザナルドも口を閉じる、彼女の雰囲気が変わった。



先程までのなんとも言えないゆったりとした雰囲気はもう無い、背筋が凍る程の殺意があるだけだった。



『行くぞ!』



剣を右手に持ち変えると左手から闇魔法を飛ばし牽制する、低威力の魔法……避けるまでも無かった。



籠手で魔法を弾くと魔法は消えず砂の地面に落下して黒いシミを作る、だがそれを気にする暇も無くカルザナルドの剣が目の前に迫っていた。



スピードはそこそこ、まだ本気では無いのだろうか。



振り下ろされた剣を勢い良く上に弾くと空いた腹部目掛け手の平を向ける、だがよろけ様にカルザナルドはアルセリスとの腹部を蹴ると体勢が少し崩れる、そして次の瞬間手の平から出た光の槍が闘技場の天井を破壊した。



『危ないな……』



一息つこうとするカルザナルドを見逃さず追撃する、だか彼女は後退しながら先程の闇魔法を撒き散らすだけだった。



不自然……暗黒神がこれ程弱い訳が無かった。



やがてカルザナルドは逃げ場を無くし壁際まで追い詰められる、だが彼女は笑っていた。



「何がおかしい」



『いや……あまりにも間抜けすぎてな、お前の強さは認める、だが場数が些か……少ないのでは無いのか?』



その言葉と共に背後から下方向に強い衝撃が加えられる、何とか倒れるのを耐えるがその隙にカルザナルドは目の前に迫っていた。



『暗黒神が低級な闇魔法を出すだけだと思っていたのか?』



怪しいとは思っていた。



だが……この世界に来てまともに戦いを積んで無いアルセリスには分からなかった。



強すぎるアバターの力に頼り考えて戦闘をしてなかった故に。



「やべぇな……」



いつの間にかカルザナルドの手から剣は消えている、だがその代わりに大きな渦巻く闇が生成されていた。



『さようならだアルセリス』



その言葉と共にカルザナルドは闇魔法をアルセリスの腹部に押し付けた。

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