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第143話 ひと時の休息

街からアンデットが消え休息の時が訪れる、大した力は使って居なかったが疲労感があった。



こんな時は一服したいものだった。



『アルセリス、少し良いか?』



通信魔法に反応がある、この声はオーフェンだ。



『どうした、何か問題か?』



『いや、少し聞きたい事があってな』



そう言いオーフェンは先程まで起こって居た事の顛末を話した。



『……と言う訳だ、俺の考えでは六魔とナハブ国に何か関連があるんだと思う』



ナハブ国……ゲーム時代に聞いた事のある国だった。



とは言えゲーム時代の暗黒神は正真正銘の神、六魔もその純粋な魔族だった。



だが……今思い返せばフィルの時点で違和感に気づくべきだった。



『情報はアルラから聞いてくれ、こっちはこっちで情報を探っておく』



『了解した』



その言葉を残しオーフェンとの通信が切れる、ネクロマンサーのラクサール、聞いた事のある名だが自分が知っているのはゲーム時代のダイヤモンド冒険者の名前、だが今はゲーム時代とは違う……恐らく思い違いだろう。



何処からとも無く転移の杖を取り出すと軽く地面を突く、そして転移した先は城の書庫だった。



恐らく書庫ならば歴史に関する書物も残っている筈……だがこの世界に来てまで本は読みたくなかった。



況してや勉強など……だが暗黒神を倒す為にそのルーツを知るのは必要な事……絶対的な強さが無い今、地道な努力は必要だった。



一先ず広い書庫を見回し適当に本棚を見て回る、こうしてタイトルだけが表記された本が並んでいると漫画が恋しかった。



歴史本のコーナーを探して書庫を彷徨う、兜が邪魔で視界が狭かった。



「まぁ……正体も明かしてる事だし取っても良いか」



正体は明かしている……だが一応辺りに人が居ないかを確認すると兜を脱ぎ机の上に置いた。



「視界が晴れた」



兜で遮られて居た視界が久し振りに拓けた様な気がした。



気合いを入れ直すと再び書庫を捜索する、だが書庫から聞こえて来る足音にアルセリスは動きを止めた。



いつの間に書庫へ入ったのか……いや、この場合はいつから書庫に居たの方が正しかった。



どちらにせよ国民は上層階へと逃げている……アンデットの残党も十二分にあり得た。



アルセリスは剣を構えると足音がする方へ歩いて行く、足音の主は本棚の角を曲がった場所に居る……



剣に魔力を込め息を整えると勢い良く角を飛び出す、そして剣を振りかざそうとするが見覚えのある金髪に白いコートが視界に入り剣を止めた。



「シャリエルか?」



アルセリスの言葉にシャリエルは此方を振り返る、だが次に返って来たのは言葉では無く拳だった。



拳はアルセリスの顔面を捉える、だがその拳は酷く弱かった。



「誰よ……あんた」



兜が無い所為でアルセリスと認識して居ない様子だった。



シャリエルはそのまま本棚に持たれズルズルと座る、そして膝を丸めるとそのまま泣き始めた。



何故こんなところで泣いているのか……その時、アルラからの連絡を思い出した。



アーネストが死んだ……恐らくその事で泣いているのだろう。



正直彼女達の関係性は出会ったばかりの自分には深くは分からない、そして失った悲しみも……それ故に掛ける言葉が分からなかった。



「なによ……見世物じゃ無いわよ!」



そう言いシャリエルは本棚を蹴り飛ばす、蹴られた本棚からは数冊の本が落下して来た。



彼女に当たらないよう数冊キャッチすると適当な所へ置こうとする、だがその時一冊の書物が目に入った。



「ラバドールの戦い……」



裏表紙にはナハブ国の紋章が描かれて居た。



思わぬ発見、まさかこんな偶然があるのだろうか。



今すぐにでも読みたい……だが今はシャリエルのケアが優先だった。



アルセリスとして王をやって居た時は仲間のケアを怠り、不満を生んだ……もう同じ轍は踏まない。



「シャリエル、俺だ……アルセリスだ」



「アルセリス……?あんたが?」



威圧感ある鎧からは想像も出来ない一般的な青年にシャリエルは困惑を隠せて居なかった。



「アーネストは残念だった……」



「あんたは大切な人失った事ある?」



アルセリスの言葉にシャリエルは睨むように彼を見上げた。



「あぁ、一度だけ」



「家族?」



「仲間だが家族の様な存在だ」



その言葉にシャリエルは再び俯いた。



「それなら分かるわよね……私の感情が」



「まぁ……そうだな」



ランスロットを殺された時、怒りが殆どの感情を支配して居た……だがあの頃の自分はまだ彼らをCPUと思い込んでいた、それ故に言葉では分かる風な事を言ったが正直……彼女の悲しみが、感情が分からなかった。



「アーネストが殺されたって分かった時は怒り、憎しみが殆どだった……でも今は正直、虚無感が殆ど、もうどうでも良いって感じ」



そう言い片足だけを伸ばすシャリエル、言葉の意味が分からなかった。



首を傾げるアルセリスを見て可笑しそうに笑う。



「分かんないわよね……復讐出来る力を持つ人には!!」



「落ち着け、シャリエル……」



突然語気を強めアルセリスを突き飛ばす、何故か怒っている様子だった。



「私は弱いのよ!!アーネストの仇を討つ力なんて無い……対価魔法を使おうにも私の寿命は1年、もう倒す術が無いのよ……」



泣き崩れるシャリエル、残りの寿命が一年……それは初耳だった。



「あの時使った対価魔法か?」



「そうよ、理不尽よね……どれだけ努力しても、寿命を差し出しても……勝てない、到底及ばない奴らが居る……笑えて来ちゃうわよ」



泣いたり怒ったり笑ったり、完全に情緒が不安定だった。



だがそれよりも残り寿命が一年と無い……これは大きな問題だった。



もう彼女はウルスを説得する為だけの一時的な仲間では無い、れっきとした仲間……とは言え冥府の王へ対価として差し出した寿命を取り返すのは不可能に近い……と言うかどうやるのかすら分からなかった。



だが仲間は二度と失わない、そう心に決めた以上シャリエルを失う訳には行かなかった。



「もう仲間は失わせない」



シャリエルに言える事はそれだけだった。



ナハブに関する書物を持つと兜を被り書庫を後にしようと扉を開ける、向こう側にはシャリエルを探しに来たのか、アイリスとサレシュが立って居た。



恐らく今の彼女に必要なのは俺では無い……



「シャリエルの事、頼んだぞ」



「言われなくても」



すれ違い際にアイリスの声が聞こえる、シャリエルならもう大丈夫な筈だった。



問題は……



ナハブに関連する書物を開く、500は余裕で超えそうなページ数に加えて挿絵も無し……読めるか心配だった。



「まぁ読むしか無いか」



試しに数ページ目を通して見る、だが流石に数ページじゃ詳しい事は分からなかった。



分かった事はセルナルドと長きに渡り戦争をし、敗北した国と言う事だけ……だがこれだけページ数があれば何か分かる筈だった。



「何処か別の場所で読むか」



流石に廊下で読み切れるページ数でも無い、転移の杖を取り出すと特に行き先も決めずアルセリスは杖を突いた。

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