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第133話 謝罪

「やっぱり無い……」



ダンジョンから帰還して1ヶ月、膨大な量の王宮図書で魔剣に関する書物を探し続けているがやはり何処にも魔剣に関する書物は無かった。



だが一つ……魔剣では無く、暗黒魔法に関する書物があった。



書物……と言っても小説、あらすじには実体験に基づいた小説と記されているが本当かどうかは分からない、大陸を代表する英雄達が暗黒神討伐をする物語。



結末を言うと討伐は失敗、とある剣に封印するので精一杯だったと言う……その剣の名前が魔剣アイリーンと言う、所詮小説の話し、本当かどうかは怪しかった。



だが暗黒魔法を使う剣……その点ではアーネストの剣と一致していた。



だが問題は何故アーネストがその剣を持っているのか、英雄譚にアーネストファランの父に当たる名前は無かった、暗黒神を封印した剣をダンジョンで管理するとも思えない……彼女に対する不信感は調べれば調べるほど増すばかりだった。



「取り敢えず……今日は此処までにしようかな」



本を閉じると夕日が茜色に染める外を窓越しに眺める、随分と時間が経ってしまったようだった。



書物を指定の位置に戻すと書庫を後にする、ダンジョンの一件で冒険者階級はシルバーまでランクアップ、ライノルドやアーネストが負けた番人に勝ったと言う事で一躍有名人だった。



ダンジョンで宝を手に入れてからと言うもの、通常の任務も格段に楽となった、高難易度の任務は魔道士系が多い故に魔法無効のコートがある私には打って付け、そこで稼いだお金で魔紙を買いさらに高難易度へ行く、その繰り返しだった。



繰り返しと言ってもまだ三回程度しか任務に行っていないがそれでも格段に楽になった……私の生活は順調そのもの、だが1ヶ月前の任務からアーネストを見なくなったのが気掛かりだった。



受付の人によれば高難易度の任務に行ったと言う事らしいが任務の内容は規則で知る事が出来ない……1ヶ月も帰らないとなると少し心配だった。



魔剣の一件で不信感が増したとは言えダンジョンを共にした仲間、多少の仲間意識は芽生えている……彼女からパーティーに誘って置いて少し寂しかった。



夕暮れに染まる街を家に向かい歩く、すると広場に人集りが出来ていた。



「また旅商人かしら」



数日前にも似た人集りを見た故に特に気にも掛けず通り過ぎようとした、だがその時、見覚えのある長い金髪が人混みの中に見えた。



「……少し通してもらえる?」



人混みの中を声を掛けながら掻い潜る、するとその中心にはボロボロになったアーネストが倒れていた。



「アーネスト……?」



ボロボロになったアーネストに困惑する、1ヶ月の任務中に何があったのか……いや、それよりも治療が先だった。



「ちょっと退いて!」



野次るだけで助けもしない市民達に怒鳴り声をあげるとアーネストを担ぐ、鎧も相まってアーネストは少し重かった。



だが何とか担ぐと自身の家へと向かう、大通りを少し歩き脇の路地へ入ると住宅街が広がる、そのまま奥に進んで行くと突き当りの街を囲む壁際に一軒の家が建っていた。



驚く程格安で売られていた我が家だった。



ライノルドもあの一件以降私の成長を実感したらしく、一人暮らしを勧めてきた故に買った家だった。



因みに値段は15万レクスだった。



「あ……れ?シャリエル?」



家の扉を開けようとした時、アーネストが口を開く、意識が戻ったようだった。



だがシャリエルは言葉を返す事無く家に入るとソファーに彼女を寝かす、そして台所の戸棚から薬を取り出すと机の上に力強く置いた。



「あれ……シャリエル、怒ってる?」



少し傷を痛がりながらも身体を起こすとヘラヘラと笑いながらシャリエルの方を見るアーネスト、正直怒っていた。



「理由くらい自分で分かるわよね?」



その言葉に苦笑いを浮かべるアーネスト、しっかりと分かっている様だった。



「ごめん、でもシャリエルを巻き込む訳には行かないから」



「私を巻き込む訳には行かない?アンタがパーティー組もうって言い始めたんでしょ?それを何今更……」



アーネストの言葉に少し強めの口調で返すシャリエル、終始彼女は申し訳無さそうだった。



「取り敢えず治療してあげる」



そう言い飲み薬を飲ませると鎧を外し服を脱がせる、身体の至る所に生傷……とても10代の少女の体とは思えなかった。



だが少しその傷に違和感があった。



「ねぇ、クエストって何行ってたの?」



彼女の体にある傷は全て切り傷……人間に付けられた物だった。



シャリエルの問い掛けにアーネストは苦い表情をする、何か言い難い事なのだろう。



「別に其処まで深く追求はしないわよ」



アーネストの傷に塗り薬を塗り終えるとシャリエルは道具を元あった場所にしまう、そして夜ご飯の準備をし始めた。



「アンタも食べてく?」



「あ、うん……」



言えなかった事の罪悪感なのか元気の無い返事をするアーネスト、人に言えない事は誰にだってある、別に気に病むことでは無かった。



黙々と事前に作って居たビーフシチューを温め直すシャリエル、その後ろ姿をアーネストは渋い表情で見つめていた。



「何でそんなに優しいの?」



「何が?」



シャリエルは背を向けながら問い返した。



「勝手にクエスト行って負傷した私を治療してくれた、食事も作ってくれてるし……以前のシャリエルじゃあり得ないでしょ?」



「何?私を鬼か何かだと思ってるの?」



「そうじゃ無いけど……正直シャリエルは私の事苦手でしょ?距離感とか近いし」



距離感に関しては自覚していたとは驚いた。



「傷を負って居れば助ける、仲間なら当たり前じゃない?」



「仲間……」



シャリエルの言葉に何故かアーネストは涙目になっていた。



「それよりも出来たわよ」



温め終わったビーフシチューを両手に持ち片方をアーネストに渡す、そしてシャリエルは椅子に座った。



「えっと……何これ?」



シャリエルにビーフシチューと言われ手渡された食べ物、だがアーネストの想像しているビーフシチューとかけ離れた色をして居た。



「何ってビーフシチューだけど?」



何を言ってるのと言わんばかりの表情で首を傾げるシャリエル、目を疑った。



濃い青色のビーフシチュー何て初めて見た……食べるのが怖い色をして居た。



「なんで青いの?」



恐る恐るアーネストは尋ねる、するとシャリエルはビーフシチューを食べながら答えた。



「多分ブルーベリージャムじゃない?なんか味が物足りないと思ってね」



シャリエルの言葉にアーネストは絶句した。



料理の概念に囚われないとかそういうレベルでは無い、ビーフシチューにブルーベリージャム……合うはずが無いのだが、バカなのだろうか。



少し気が強い性格故に何でもこなせると言うイメージだったがまさかポンコツな味覚をしているとは少しギャップ萌だった。



「ふふっ……マッズ」



シャリエルの言葉にアーネストは笑みを浮かべると料理を口に運ぶ、そして即座に感想を言った。



「不味いって失礼ね、味覚おかしいんじゃ無い?」



「そう……なのかもね」



不味い筈なのに……暖かい味だった。



涙を流しシチューを食べ続けるアーネスト、その姿にシャリエルは困惑して居た。



「そんなに不味かったの?」



自分では美味しいと思っていただけにショックだった。



「うん、激マズ……」



そう言いながらとアーネストは涙を流し、笑顔でシチューを食べていた。



情緒がどうなっているのか些か気にはなるが今は聞かない方が良さそうだった。



「ごめん……」



ビーフシチューを食べ終えると机に皿を置き謝るアーネスト、不味いと言った件なら許す気は無かった。



「今更謝っても手遅れよ」



「ビーフシチューじゃなくて任務の件……本当は任務じゃ無いの」



「任務じゃ無い?」



アーネストの言葉にシャリエルは首を傾げた。



任務で無いなら一体なんなのか、彼女に其処まで傷つける相手が気になった。



「正直誰にも話す気は無かったけど……私って元は貴族の生まれなの」



アーネストの言葉に衝撃を受ける、まさか自分と同じ貴族とは予想もして居なかった……世界とは狭いものだった。



「でも親は殺された……グラードって言う貴族にね」



「グラード?」



「そう、グラード・フォラン……私の叔父にね」



アーネストの叔父……正直そこの部分に驚きはなかった。



貴族は家族だろうと平気で殺す人間が多い、権力に目が眩む故に……私の場合はまた別だがそれほど珍しい事例でも無かった。



「それで、何で其処まで傷を?」



「グラードに復讐よ、だけどアイツは傭兵を雇ってた……ダイヤモンド級冒険者のね」



その言葉に納得した貴族は金がある、そしてその大半を自身の身を守る為に使う……理由は汚い方法で手に入れた地位をよく思わない者や自身の地位を狙う者から自分を守る為……だがダイヤモンド級冒険者とは相当な権力者の様だった。



「成る程、アーネストが負けるのも納得ね」



「うん……流石にダイヤモンド冒険者を雇って他のは想定外、命からがら逃げ帰ったって訳……シャリエルに言わなかったのは私の私怨に巻き込みたく無かったから……ごめんね」



私の身を案じての事なのであれば許せない事も無かった。



だが少し気になる事があった。



「なんでまた私にその事を急に話したの?」



私を巻き込みたく無いのなら話すのは少し矛盾して居た。



「ごめん……嘘ついた、巻き込みたく無いのは嘘、正直他人に話しても意味ないと思ってたの」



「他人って……」



呆れた、パーティーに誘ったのはアーネストの筈なのに。



「本当にごめん……だけど話したのはシャリエルがさっき仲間だからって私を助けてくれたからなの……それに不味いけどご飯もくれたし」



「不味いは余計」



アーネストの言葉にシャリエルは少しムッとした。



「この件は私だけの力じゃ無理って思ったの、だから……身勝手だけど私を助けて……いや、助けて下さい」



床に座り土下座をするアーネスト、相当深刻なのは十二分に分かった。



「だけど助ける事は出来ないわね」



「だよ……ね、私なんかの為に命賭けたく……」



「アンタは仲間、頼まれて助けたくなんて無いわよ、頼まれなくても助ける……無理やりにでもね」



ショボンとするアーネストにそう言い立ち上がるシャリエル、魔剣の事は気になるが過去の事を話してくれたアーネストは信用するに値する……もう完全に仲間だった。



「シャリエル……本当にごめんね」



涙を流しながらアーネストは頭を下げた。



「別に良いわよ、それよりも早く治しなさいよね、治り次第出るわよ」



そう言いすてるとシャリエルは空になった容器を台所へと持って行った。

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