第123話 思わぬ出会い
シャリエルとシャリールが紛らわしい
薄暗い地下神殿の中、目がギッシリ散りばめられた不気味な柱の陰に身を潜め息を押し殺す。
聞こえる無数の足音、スカルナイト達が私の事を探して居た。
軽く100体以上は殺した筈なのだがまだ湧いてくる……それにこのダンジョン、下の階層への降り方が分からなかった。
かなりの時間地下迷路のようなダンジョンを探索したのだが居るのはスケルトンナイトのみ……変わった点といえば壁一面に瞳が描かれて居る事くらい、そりゃ帰らぬ人となる訳だった。
次の階層へのヒントは道中にあった立札の言葉だけだった。
『鍵は探索者を見て居る』
見て居ると言うのは壁の目の事なのだろうか、今思えば壁の目は全てシャリエルから視線を外す物ばかり……と言うことはこの中から目が合うやつをやつを探せ……と言うわけだった。
だがダンジョン内にはスカルナイトが大量に居る……骨が折れそうだった。
骨だけに。
スカルナイトが去り静まり返ったダンジョンの目を松明で照らしながら歩く、どれもこれも目線を外してばかり……頭がおかしくなりそうだった。
一つの街がすっぽり入りそうな程に広いダンジョンの中で数億ある目の中から鍵となる目を探す……私の寿命が先に尽きるか良い勝負だった。
「はぁ……一人じゃキツイ」
いつもならサレシュがサーチの魔法でパパッと見つけてくれるのだが……やはり仲間が居ないと無力だった。
溜息を吐き天井を見上げる、すると何故か無数の目の一つと視線があった。
『鍵は見つけられた、汝次の階層へ進め』
その言葉と共に身体が光に包まれる、意外とあっさり次へ進めるものだった。
大抵のダンジョンはボス部屋などを経由して行くものなのだが。
考え事をして居る内に次の階層へと転移される、二階層は何も無い場所だった。
真っ白な空間がただ広がって居るだけ、ふと足を踏み出そうとするとまた身体が光に包まれた。
何が起こったのか理解が出来ない、だが次に視界に移ったのはだだっ広い草原だった。
「一体何階層あるのよ……」
此処が二階層なのか三階層なのか全く分からない、だがダンジョンとはそう言うもの……腹を括るしか無さそうだった。
ーーーーー何もない
ーーーーーーー何もない
本当に何もない、ただ広がる草原、数時間は軽く歩いたがモンスターにすら出会わない、ヒントも無ければ次の階層へと続く階段や転移装置も……この階層で終わりと言う事も無さそうだがモンスターが居ないのは奇妙だった。
どの階層にも一体はモンスターがいる物……だが一人で潜入した私にとっては良い休息だった。
地面に座り込み空を仰ぐ、地下だと言うのに良い天気……不思議だがそんな事気にならないくらい心地良かった。
シャリエルは大きく欠伸をするとゆっくり瞳を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なんだこれ」
侵入者を知らせる魔法を受け取り地下神殿へ来てみれば大量のスケルトンが粉々になって居た。
死体……と言うか骨を触り魔力の残滓を確認する、破壊方法は雷撃魔法のようだった。
「ったく、だれだよこんな事したの」
損傷の少ないスケルトンを片っ端から魔力を与え蘇生して行く、ある程度原型が残って入れば蘇生……と言うか再構築は可能だった。
だが問題は誰がこんな事をしたのか、一応特訓という事でアルラとミリィ以外は8階層の闘技場に居るが他の階層はもぬけの殻、ウルスによって根こそぎ持っていかれた故に侵入され放題だった。
「さっさと始末するか」
転移の杖を使い二階層へ飛ぼうとする、だが二階層はフェンディルの配下であるオーガソルジャーのみの階層、連れてかれた今は三階層にいる可能性が高かった。
行き先を三階層へ変えると杖をつく、三階層は本来四階層への鍵を握る超巨大モンスター、大地の守護者が護っているのだが居ない今四階層への行くのは不可能、此処にとどまっている筈だった……生きていれば。
三階層へと転移するとアルセリスは広い草原を見渡す、すると見覚えのある白いコート姿の少女が地面で横たわっているのが確認出来た。
恐らくあのシルエットはシャリエル……だが何故彼女が此処にいるのか分からなかった。
あいつの事だから英雄様やらなんやら言われて自国で調子に乗っているとばかり思っていた……だが見たところアーネストやアイリスなどの仲間は居ない……単独任務のようだった。
「おい、何やってんだ」
生死を確認する為に頬を強めに数回叩く、すると若干涙目になりながらシャリエルは目を覚ました。
「な、なに、誰?」
「アルセリス、このダンジョンの主だよ」
そう告げると寝起きも相まってかシャリエルは豆が鳩鉄砲を食ったような表情をして居た。
この際、別に正体をバラしても良いだろう。
「え?え?あんたセリスでしょ?」
「あぁ、セリスでもありアルセリスでもある」
「え?どう言う事?」
シャリエルの頭は疑問符でいっぱいだった。
突然皆んなの記憶から消えたセリスと言う冒険者、そして残って居たのはアルセリスと言うアルカド王国の王の名前だけ……だが私の記憶にはセリスがずっと居た。
この不思議な現象を考えるとアルセリスとセリスは同一人物……という事で良かったのだろうか。
幻と、私の記憶だけにしか存在しなかった故に実在しないと思っていたあのセリスが今こうして目の前にいる……その事実に思わず涙が出てしまった。
「何泣いてんだ?怖かったのか?」
涙を流すシャリエルにアルセリスは不思議そうに首を傾げた。
「う、うるさいわね!」
その言葉だけ吐き捨てると視線を逸らす、このダンジョンの主が彼という事は彼と戦わないと行けない……と言う事なのだろうか。
だが過去を振り返っても勝てる見込みは無かった。
「そうだ、ちょっと今立て込んでてな、お前も来い」
そう言いアルセリスはシャリエルの手を握る、突然の出来事に頭がパンクしそうだった。
だがアルセリスはそんな事御構い無しに転移の杖を突くと闘技場へと転移する、其処には見知らぬ人達が居た。
「アルセリス様、そちらは?」
「こいつはシャリエル、俺が冒険者してた時に知り合った奴だ、色々混乱してるみたいだからリカ、説明してやってくれ」
「は、はい」
突然の出来事にリカもあまり状況を飲み込めずに居るが一先ずシャリエルに粗方の事情を説明した。
「あー、うん……多分理解できたと思うわ……」
ウルスやらアルセリスやら、聞き慣れない名前からオーフェンと言うアダマスト級冒険者の名前まで、この30分で様々な情報を得たが一先ずアルセリスが言いたい事は仲間になれという事だった。
「でも私なんか役に立つの?」
自分で言うのもあれだが国が誇るダイヤモンド級冒険者も彼らの前で霞む肩書き、とても役に立つとは思わなかった。
「頭数は多い方が良いんでな」
「頭数……」
数合わせなのは少し癪に触るが仕方ないだろう、それに今の私は死ぬ覚悟ができている、多少役に立つ筈だった。
「んじゃ、また訓練再開するか」
そう言いアルセリスは手を叩くと再び訓練が再開される、何はともあれ……彼と再会できたのは少し嬉しかった。
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「暗黒神様、黒騎士を叩くのは今がチャンスかと」
真っ暗な洞窟の中、4本の刀を腰にかけた男がスマートな黒い鎧に身を包んだ暗黒神と呼ぶ者に声を掛ける、すると暗黒神は洞窟には不釣り合いな豪華な椅子から立ち上がった。
「そうか、そろそろ頃合いか」
機械的な言葉で告げる、兜の下には不気味な笑みが浮かんで居た。