第114話 アルセリスとオーフェン
めちゃくちゃ久し振りの投稿です
「長閑なもんだなぁ」
木漏れ日が差し込む一軒の小屋の庭で長椅子に寝転がり男は欠伸をする、側に置かれた紺色の鎧に付いた傷は彼を歴戦の戦士と証明していた。
「成る程、噂に聞くオーフェンアナザー、確かに強そうだな」
「んあ?誰だあんた」
音も気配も無くやって来た真っ黒の鎧姿の男にオーフェンは寝転がりながらも警戒し尋ねた。
「俺はアルセリス、強い奴を集めてるんだ」
アルセリス……確かレクラが通信する時に口にしたのを聞いた覚えがある。
だがそんな男が自分に何の用なのか、オーフェンは起き上がると地面に落ちていた剣を足で蹴り上げ手に取った。
「取り敢えずアンタは俺の事を知ってる様だしアンタの事を聞かせてもらおうか」
「そうだったな、アンタ、レクラ知ってるだろ」
「ピンク髪のチビ助だろ、あんなに強い奴は久し振りだったからな、鮮明に覚えてるぜ」
「アイツは俺の国を守る守護者だ、そして俺は王……と言っても過去の話だがな」
少し笑い混じりに話すアルセリスの言葉にオーフェンは無反応だった。
「俺の部下にウルスという男がいてな、そいつに裏切られ……負けた、俺は王座から落とされた、んで残った仲間は五人って訳だ」
「それで、俺と何の関係があるんだ?」
「関係なんて無いさ、だから俺はアンタを雇いたい、国を取り戻せれば言い値を払う」
アルセリスの言葉にオーフェンは鼻で笑った。
「はっ、俺を傭兵かなんかと勘違いしてんのか?生憎俺は金で動かないんだよ」
「どうすれば協力してくれる」
「そうだな……俺がたまげるレベルの美女を連れて来たら協力してやるよ」
「分かった、待っててくれ」
その言葉を残し消えるアルセリスにオーフェンは軽く驚いていた。
完全に冗談で言ったのだがまさか真に受けるとは……よほど切羽詰まっているのだろう。
レクラ程の人物を従える男が敗北を喫したウルスと言う人物……少し興味はあった。
正直アダマスト級冒険者やら英雄やらと呼ばれているが俺にはそんな称号似合わない、それに欲しくもなかった。
昔から戦いと酒と女が好きで自分の好き勝手に生きていたらこうなっただけ……人に敬われるなんて柄じゃ無かった。
ただ、対等に扱って欲しい、それだけだった。
今の俺を対等に扱う奴なんて居ない、一国の王でも英雄という事でへこへこする……国民も皆オーフェン様と敬う……それが嫌でこんな辺境の地に引っ越して来た。
ここは楽だ。
誰も俺を敬わず、尊敬しない……女と酒が無いのは少し寂しいがそれも仕方ない代償だろう。
尊敬……いつからそれがプレッシャーに変わったのだろう。
英雄だから、アダマスト級冒険者だから……国民を、大陸を守らないと行けない、いつからそう思い始めたのか……分からない。
「おいオーフェン、連れて来たぞ」
天を仰ぎ雲を見るオーフェンにアルセリスが声を掛ける、まだ5分も経って居ないと言うのに早いものだった。
「どーれ、俺の求めるものは高い……ぞ……」
視線を空から落として行く、アルセリスの隣に居た少女にオーフェンは言葉を失った。
「えーと、私はどうすれば良いのでしょうか?」
首を傾げる白銀の髪色をした少女、その髪、その瞳……全部見覚えがあった。
忘れるはずも無い……妹の姿そのものだった。
「ユレーナ……?」
呟く様に言葉を吐く、風で揺れる白銀の髪にオーフェンは思わず背を向けた。
「どうした、お前の望み通りに美女を連れて着たぞ」
「び、美女って……アルセリス様、冗談は駄目ですよ」
動揺するリカ、だがオーフェンはそれ以上に動揺して居た。
ユレーナは居ない。
いる訳が無い……彼女は、妹は……俺がこの手で殺めたのだから。
「悪い……帰ってくれ」
「は?」
「帰ってくれ!!!」
首を傾げるアルセリスにオーフェンは声を荒げる、ユレーナでは無いと分かっていても彼女の姿は見たくも無かった。
「帰れって言われてもな……せっかく連れて来たのに」
「帰れと言うのが聞こえねーのか……帰らないなら、力付くで帰してやるよ」
オーフェンは手に持っていた剣を投げ捨てると手を空に掲げる、すると大きな大剣が空から降って来た。
「成る程……訳ありって感じか」
「死んでも後悔するなよ」
オーフェンは手の震えを止めると強く大剣を握り締め、アルセリスを睨み付けた。
対峙してから分かるものもあるものだった。
今まで感じた事の無い威圧感、間違いなく歴代最強……だが不思議な事に剣の構えや体の向きが素人同然だった。
油断を誘うため……なのだろうか。
オーフェンは大剣を構え出方を伺う、背筋が凍る程の威圧感……試しに重心を右足に傾け、フェイクで足を踏み込んで見る、するとアルセリスの身体が微かだが反応していた。
剣術は素人同然だが敵の動きを見極める事は出来る様だった。
「その大剣……ただの大剣じゃ無さそうだな」
突然剣を下ろすとアルセリスは手を開閉して何かを確認し、オーフェンが持っている大剣を指差す、御察しの通りただの大剣では無かった。
「これは今は亡き親友、鍛冶屋ルクールが魔法無効の鎧を分解して大剣へと作り直し、知り合いの魔女に魔法無効の範囲を80mまで広げて貰った言わば形見の様なものだ」
魔法が使えない……故に純粋な戦闘スキルが問われる訳だった。
「成る程……余計に協力してもらわないと行けないな」
アルセリスはそう言うと剣を再び構えた。