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第111話 部下で幸せでしたっす

「どうしましたか、その程度ですか?」



刀に付いた血を払い男は余裕そうな表情で尋ねる、酷く呼吸を荒げ水面に片膝をつくユーリ、体から流れる血は水面を赤く染めて行った。



「心配ないっすアルセリス様……自分はまだまだ余裕っすから」



後ろで静観するアルセリスに笑みを浮かべるとゆっくり立ち上がる、酷く体力を消耗していた。



それ程激しく戦った筈ではないのだが足が思ったように動かず、腕も鉛のように重くなって居る……知らぬ間に疲労が溜まっていたのだろうか。



「どうかしましたか?」



「なんでも無いっすよ」



水面に浮かぶ背丈よりも大きな斧を持ち上げると虚勢をはる、アルセリス様に格好の悪い所は見せられなかった。



正直守護者の人達が裏切ったのはショックだが……それ以上に憧れのアルセリス様の隣に入れる事が何よりも嬉しかった。



あの方の隣には常に誰かいる、他の守護者や特にアルラ様など……補佐の自分にとってはずっと遠い存在だった。



だがオワスの村を任され、度々見かける様になった……それだけでも嬉しかった。



だが今はあの人の前でこうして戦う事が出来ている……アルセリス様を失望させたくは無かった。



「スタミナ切れの様ですね」



男は不敵な笑みを浮かべ、刀に手を置かず両手を組み近づいてくる……随分と舐められたものだった。



確かに腕も足も鉛の様に重い、だが動かせない訳では無かった。



「獣人族の……体力を舐めない方が良いっすよ!!」



斧の一番下を持ち最大限にリーチを伸ばす、腕に掛かる負担は尋常では無いが不意を突く為にはこの方法しかなかった。



ユーリは斧を振り上げると勢い良く男目掛け斧を振り下ろす、リーチが長くなった分、威力も普段に増して上がっていた。



獣人族の全力パワーで振り下ろされる斧など受け止められる人間などいるはずが無い……だが何故か勝ちを確信出来なかった。



何か嫌な予感がする……彼の余裕な表情がそれを物語っていた。



「成る程、流石獣人族ですね、私みたいな人間とはパワーが桁違いだ」



片腕で刀を抜き、軽々とユーリの斧を受け止め呟いたその言葉は皮肉以外の何にでもなかった。



男は斧を弾き返す、ユーリは斧の重さに耐え切れずその場に倒れ込んだ。



「いやぁ……貴女が相手で助かりましたよ」



ゆっくりと男はユーリに近づいて行く、立ち上がらなければ殺される……分かっているのに体が動かなかった。



気合いではどうにもならない領域まで疲労している……意味が分からなかった。



「貴女が強いお陰で私も強くなれましたよ」



ゆっくりと剣を胸に突き立てる、その瞬間ユーリは悟った。



死んだと。



アルセリス様に助けを求める事もできる、いや……しなくても助けようとしてくれるだろう、あの方ならきっと……だがそれはあまりにも見っともなかった。



「自分は……アルセリス様の部下であれて幸せでしたっすよ」



顔だけをアルセリスの方に向け笑う、アルセリス様なら目だけで分かってくれる筈だった。



「潔しかな……さようなら、獣人娘よ」



男は嘆くように言うと刀をゆっくりと下ろした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「しかし……私も舐められた物ですね、これでも最終階層守護者、アルセリス様の右腕ですよ?」



「ぐぅ……ゴタゴタで忘れてましたよ……」



地面にうつ伏せで倒れるリカの背中に座り足を組むアルラ、腐ってもアルセリス様の右腕、新参者のリカに負ける筈が無かった。



「しかし……世界は広いものですね、私が育った大陸にも強い人は居ましたがアルラさんレベルは初めてですよ」



「貴女も純粋な人間にしては強かったですよ」



負けてスッキリしたのか、険悪なムードは何処かに消え去り、リカの表情は清々しかった。



「しかし……何故皆さんはアルセリス様を裏切ったのでしょうかね」



仕えたばかりのリカには正直分からなかった、王国に帰ってくる事は少なかったが純粋な強さやオーラは今まで見た中でも別格……そんなアルセリス様を裏切る理由が分からなかった。



本気だったのかはわからないがアルセリス様を倒したウルスさんはまだ裏切るのは分かる、あの人は何を考えているか分からない……だがフェンディルさんやマリスさん、レクラさんまで裏切るのは理解出来なかった。



彼らはアルセリス様にかなりの忠誠を抱いて居た筈なのに。



「それが分かったら苦労しないですよ、ただ……前の様には戻れないでしょうね」



「戻れない?」



「ええ、アルセリス様は皆が帰ってくるのを願っている様ですがそうはならないでしょう……ウルスが言ってたんです」



目を伏せるアルラ、何を言って居たのか、その場に居なかったリカは興味深い表情をした。



『もう……戻れないんですよ、聞いてしまった以上は』



その言葉を言い黙り込むアルラ、聞いてしまった以上……あまり賢くない自分でもその言葉の意味は分かった、裏に誰かの存在がある事を。



「つまりウルスさんは誰かに操られているという事ですか?」



「違う……彼はアルセリス様以外には従わない性格、恐らく自分の意思の筈……問題はなんの情報を聞いたのかって事」



首を振り答えるアルラ、そろそろ上から退いて欲しいがそんな事を言える雰囲気でも無さそうだった。



「確かに……裏切る位の情報ですもんね、この事をアルセリス様は?」



「知らないですよ、言える筈が無いでしょ」



そう言い立ち上がるアルラ、言える筈がない……その言葉にリカは首を傾げた。



王国に来て日が浅いリカにはアルラの言える筈が無いと言う言葉の意味が分からなかった。



「それより……私達も仲間になりそうな人材の情報を集めますよ」



アルラは寝転がるリカにそう言うとレストランへと戻って行く、何を言われたとしても……裏切ったウルスを私は許す事は無いだろう、決して。

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