第108話 喧嘩
書いてる途中にデータ消えたので遅くなりました
帝国の中央に聳え立つ皇帝の威厳を示す立派な城、そのベランダでアルシャルテは相手も居ないのにチェス盤を開き紅茶を優雅に飲んで居た。
初めてあった時と状況は変わらない……だがアルセリスはアルシャルテの前に姿を出さなかった。
ウルスから言われた王の器、果たしてそれを人に聞いて得るのが本当に正しいのか、ここに来てそう思い始めた。
それにいくらアルシャルテが皇帝と言えどウルスを従わせるほどの器を持っているとも思えない……無駄足だったかも知れなかった。
帰ろう……そう思い杖を取り出そうとしたその瞬間、背後で声がした。
「アルセリス……さんですか?」
後ろを振り向くとアダムスがそこに居た。
だが初めて出会った時の弱々しく、アルスセンテとしてはあまりにも頼りない青年ではなく、ジルの様に鍛え抜かれた筋肉と歴戦の戦士の様な傷を付けた風格漂う青年がそこには居た。
アダムスの声で気が付いたのかアルシャルテは視線をゆっくりとアルセリスに移す、すると意外にも彼は手厚くアルセリスを歓迎した。
この国での行いが比較的良かったのか、誰も不法侵入の事は咎めなかった。
「数ヶ月振りだね」
「そうですね……」
目の前に用意された紅茶が入ったカップを眺めながら答える、王の器を聞きに来たがその必要も無いと分かった今、早く帰りたかったが皇帝との繋がりは保っておきたい……その為にも帰るわけには行かなかった。
「そう言えばアダムス、変わりましたね」
「あぁ、アルドスが死に、ジルが片腕を失ってフィルディアは半身麻痺、そしてシュリルは行方不明……そんな状況でずっと国を守る為に戦って来てくれたからな、フェンディルとか言う人物に助けられたのも大きく影響してるらしくてな、まだ自分は弱いとずっと鍛錬してるんだよ」
笑いながら言うアルシャルテ、アルセリスには少し……と言うかかなり罪悪感があった。
正直ジルが腕を失ったのもアルドスが死んだのも、フィルディアが半身麻痺になったのもジャルヌ教の一件以来、彼らの自由を再び取り戻すことも出来るがそれもリリィが居ればの話だった。
「そう言えば話しは逸れるんだが、ユークライネ監獄にやばい囚人が入ったらしいね」
「ユークライネ監獄?」
チェスの駒を動かしながら話すアルシャルテの言葉にアルセリスは首を傾げた。
「どこの国の領土にも属さない大陸の監獄だよ、大陸中から国の手に負えない大罪人が収容される場所でね、犯罪を犯した罪の重さでレベルが決まるんだけど今回収容された奴は4で収まり切らなくて孤絶の間に入れられたらしいんだ」
「孤絶の間……ですか」
正直監獄の名前は聞いた事無かった、ゲーム時代には当然無い、アウデラスの報告にも上がって居なかった。
だが手に負えない大罪人が収容される監獄……戦力が欲しい今の自分にはうってつけの場所だった。
「興味あるなら帝国から東に500キロ行った所にあるよ、危険故に傭兵の死者が続出してね、常に人手不足だから傭兵志願で行けば内部に入らせて貰えるよ」
そう言いナイトをポンっと盤上に置くアルシャルテ、これは行かない他無かった。
「チェックメイト……情報提供有難うございます」
アルセリスはチェックメイトを宣言するとゆっくり椅子から立ち上がる、アルシャルテは何故負けたのか盤面をみて不思議そうに首を傾げて居た。
「またいつでも来てくれ、君とはいい関係で居たいからね」
「此方も同じですよ」
そう言いアルセリスはオワスの村へと転移する、一先ずアルラ達にこれからの方針を伝えて置かなければならなかった。
アルセリスは扉に手を掛けるとゆっくり開く、中は何故か重い空気が流れて居た。
睨み合うアルラとリカ、どうやら喧嘩した様子だった。
こんな一大事に喧嘩とは彼女達は子供なのだろうか。
「それで、何が原因で喧嘩したんだ?」
原因を聞き出そうと質問するが二人とも何故か少し恥ずかしげにするだけで何も答えなかった。
男の自分が聞くのは野暮というものなのだろうか。
「まぁ取り敢えず仲直りしておけよ、俺はユーリを連れてユークライネ監獄で仲間を集めて来る」
「自分っす?」
「そうだ」
選ばれた事に少し驚くユーリ、二人には自分達で仲直りして欲しかった。
「ま、待ってくださいアルセリス様!私も……」
「駄目だ、帰って来るまでに仲直りしておけよ」
そう言いアルセリスはレフリードにアイコンタクトで見張りを頼むとレストランを出る、一人だけ選ばれたユーリは少し複雑な気持ちになりながらも小走りでアルセリスについて行った。
「それで、本当のところは何で喧嘩したんだ?」
「よく分からないっすねー」
アルセリスの質問にユーリは言葉を濁した。
言えない……アルセリス様が原因で喧嘩が起きたなど。
ことは10分程前まで遡る。
「そう言えばリカさんは何故アルセリス様の元に残ったのですか?」
レフリードが作ってくれた料理を食べながらふと疑問に思った事をアルラは尋ねる、余程硬い意志があったのか、リカの返答に時間は掛からなかった。
「なんて言うんですかね、最初は圧倒的な強さに忠誠を誓ってたんですけどウルスさんに負けて、悔しがってるアルセリス様が無性に可愛かったんですよ、兜の下も頼りなさそうな感じで可愛かったですし」
「まさか恋心で残ったんですか!?」
「え?アルラさんもそうじゃないんですか?」
アルラの予想外な反応にアルラはキョトンとして居た。
「違うに決まってるじゃないですか!そんな破廉恥な理由じゃなくて私はアルセリス様の強さを尊敬してですね……」
「破廉恥って失礼ですね!私も純粋無垢な気持ちで……」
「何が純粋無垢ですか!たまにアルセリス様の事を恍惚な表情で見ていたの知ってるんですからね!」
「わ、私だってしっかりアルセリス様の人形を抱きしめて寝てるとこ私見たんですから!」
お互いがお互いの傷を抉る姿をユーリは側から見て呆れて居た。
アルセリス様は確かにカッコよくて威厳があるがそんな気持ちには慣れない、自分には遠すぎる存在故に。
それにしてもあの二人がそこまでにアルセリスに好意を寄せているのは意外だった……とは言えこの場は早く収める必要があった。
二人は額をくっつけ睨み合っている、今にも戦闘が起こりそうだった。
「ま、まぁ……忠誠の形は人それぞれですし……喧嘩はやめて」
『ユーリは黙ってて!!』
二人の恐ろしい形相にユーリはビクッと身を震わせる、そして耳がペタンと倒れた。
「た、大変ですね……」
新入りのレフリードがこの状況が日常茶飯事と勘違いして同情したのか、アップルパイをユーリの前に置く、しかしアルラ様があそこまで感情を吐露するのも珍しかった。
いつもはツンケンしてクールなカッコいい上司なのだが……だが新たな一面も可愛かった。
ユーリはアップパイを頬張りながら喧嘩の行く末を見届ける、どうでも良い喧嘩だが二人ともアルセリス様への忠誠は厚かった。
残るべくして残った二人……と言うべきなのだろう。
お茶を用意してくれたレフリードにユーリは礼を言うとゆっくりとお茶を飲み、ため息を吐いた。