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第105話 魔喰いの短刀

暑い日差しを遮る住宅街が立ち並ぶ裏通り、未舗装の道に捨てられっぱなしの粗大ゴミや生ゴミがひどい悪臭を放って居た。



アルセリスはヒゲ面スキンヘッドの人相が悪い犯罪者に変身して裏路地を歩く、この人物は相当の悪名があるのか、すれ違うチンピラや盗賊達が目も合わさず避けて通って居た。



「それにしても……来ねぇな」



30分程裏路地を歩いて居るが魔喰いが姿を現わす気配は無い、流石に大通りに居た兵士の数を見れば警戒もするのだろうか……とは言えここは裏路地、警戒する必要もない様に見えるが……まぁ考えても無駄だろう。



ふと顔を上げると前方に兵士の影が見える、今の自分は犯罪者の姿……少し厄介だった。



建物と建物の細い隙間に身を潜めるとアルセリスは兵士が通り過ぎるのをジッと待つ、足跡は徐々に近づきやがて兵士は目の前を通り過ぎて行く、バレずに済んだ……安堵のため息を吐き、もう少し息を潜めようとしたその時、魔力を帯びた攻撃が近づいて来るのを感じた。



特に属性を持っている訳でも無い魔力の塊がアルセリスの居た半径10mを吹き飛ばす、何とか間一髪で躱すと魔力の残滓を辿り攻撃が放たれたであろう場所に視線を移した。



「あれを避けるのね」



視線の先には黒髪の幼い少女が麻のローブを羽織り浮いて居た。



一目見ただけで分かる、幼く華奢な少女だが……彼女が魔喰いだった。



いや、魔喰いと呼ばれる武器の保持者だろう。



「6人の子供を殺害、その内2人の母親を強姦の末殺害、盗みは朝飯前……とんだクズ野郎ね」



アルセリスが変身している男の情報を紙を見て喋る少女、粗方罪を言い終えると紙を燃やした。



「貴方は死んで当然の存在……だから死ぬ前に魔力を分けて貰っても良いわよね」



懐から短刀を取り出し告げる少女、次の瞬間彼女は姿を消した。



転移系の魔法では無い……瞬間的に足に魔力を溜めて一気に解放、相当魔力コントロールが出来るようだった。



魔喰いの考察をしていると気が付けばアルセリスの目の前に立つ魔喰い、短刀を勢い良く喉元へと突き立てようとするがアルセリスは簡単に二本の指で漫画の様に短刀を受け止めた。



「成る程、意思のある武器か」



ワールドクラスの武具を多数所持する者としては対して珍しくも無いのだが魔喰いの短刀はまだ未収集の武器、恐らくゲーム時代には無かった部類のものだろう。



「受け止め……!?」



アルセリスに受け止められた短刀を引き抜き逃げようと試みるが凄まじい力にビクともしない、だがそれでも魔喰いは短刀を捨てて逃げようとはしなかった。



「そのナイフになにか思い入れでもあるのか?逃げないと死ぬぞ?」



軽く脅してみるが魔喰いは必死に攻撃しつつ短刀を引き抜こうとして居た。



呪い……とも違うようだった。



「くっ……ただのチンピラじゃ無いようね」



「あぁ……俺はこう言う者だ」



引き抜く事を諦め話し掛けてくる魔喰いの言葉に少し頭を下げ変身魔法を解く、ただの厳ついスキンヘッド男から真っ黒な鎧に身を包んだ大男へと変化するアルセリスに魔喰いは驚きを隠せて居なかった。



「な……」



口をパクパクさせる魔喰い、状況を理解出来ないようだった。



「一つ説明すると俺はあの罪人とは無関係、変身魔法で変化して居ただけ……と言っても関係ないか」



手っ取り早く気絶させて生贄にしようと剣を取り出し柄の部分で首元を打ち付けようと構える、だがその時魔喰いの少女と短刀の会話が聞こえて来た。



『お前との付き合いは長かったな……ユエル』



『何よ、急に改まって……まるで私達が負けるみたいじゃない』



『分かっている筈だ、俺達ではこの男には勝てない……魔力を全て開放してもな』



短刀の言葉にユエルは目を伏せる、初撃を躱された時から薄々勘付いては居た……そこそこの魔力を込めて放った攻撃が意図も簡単に躱され、そして尚且つ攻撃した方向まで見抜いた、あの時は虚勢を張ったが勝てないと何となく気付いて居た。



『それじゃあ……私の人生も此処で終わりね』



『いや……それはさせない』



魔喰いの本体がそう告げるとアルセリスの握られて居た短刀が突然光り出した。



「な、なに?!」



光を放つ短刀にユエルは動揺して居る、一方のアルセリスはニヤケを抑えられなかった。



広角が自然と上がって居るのが分かる……まさか擬人化出来るとは予想外だった。



「80年前……お前と出会った時はただ魔力を集めさせ、時が来れば切り捨ててやろうと思っていたが……不思議なもんだな、今はお前を守る為にこうして貴重な魔力を使っている」



長い銀髪の綺麗な女性がそこには立っていた。



「あ、え……」



「言いたい事は分かる、何故女なのか……だろ?」



魔喰いの言葉にユエルは頷いた。



「まぁあれだ、昔女の声で語り掛けたら生意気にも使用者がつけ上がりおってな、それからは男の声で語り掛けて居たのさ……まぁ今はどうでも良い、逃げろ」



ユエルの前に立ちはだかる様に位置付ける魔喰い、見た目は人間だが元は武器……魔力があると言う事は一応はシャリールの生贄になるのだろうか。



だが殺してしまうのも惜しい……とは言え媒体無しに蘇生できるほどアルセリスと言うアバターも万能では無い、仕方無かった。



「お別れは済んだか?」



「勿論」



そう言い笑う魔喰い、次の瞬間彼女はユエルの片手に手を置いた。



「ユエル……過去の使用者でお前が一番、一緒に居て退屈しなかった……もし叶うのなら、私を忘れないでくれ」



「い、いや、いや!!」



手を伸ばし魔喰いの身体を掴もうとするユエル、だが触れる事は叶わず、転移の魔法で何処かへと彼女は消えて行った。



「……さて、精一杯足掻かせて貰うぞ」



「あまり手間取らせるなよ」



互いに剣を構え言葉を躱すと街中に響き渡る程の剣戟の声が響き渡った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんで……なんで……」



見覚えも無い森の中に飛ばされたユエルはただ膝をつき、泣く事しか出来なかった。



出来る事なら共に死にたかった……人から関心も持たれず、居ない者として扱われる人生がまた始まる、彼……いや、彼女が、魔喰いが居て来れたお陰で人から関心を持たれずとも寂しくはなかった、だが彼女はもう居ない、私は生きる意味を失った。



「もう生きる意味なんて……」



フラリと立ち上がり無気力に森の中を歩き出す、適当なモンスターに殺されたかった。



だがその時、背後から声が聞こえて来た。



「救われた命……粗末にするなんて勿体無いですよ?」



「誰?」



背後を振り向くと其処には先程の黒騎士とは真反対の白い騎士が立って居た。



「失礼、私はシャルティンと申します」



そう言い兜を取る、金髪の爽やかな青年が笑顔でこちらを見て居た。



その時、ある違和感を感じた。



「何で……貴方は私に話し掛けたの?」



「それは貴女が命を捨てようと……」



「違う!私に人は話し掛けようと言う気にならない筈……何故、何故貴方は私に話し掛けたの!?」



今思えばあの黒騎士もそうだった、私から干渉したとは言え色々な興味を持って居た様子……おかしかった。



「あー、その事ですか……無関心の呪い、それ程高位の魔法じゃ無い故に私には効かないのでしょう……それより提案があるのですが」



「提案?」



首を傾げるユエル、その言葉にシャルティンは頷いた。



「復讐出来る力が欲しくはありませんか?」



「復讐出来る力……」



突然の提案にユエルは少し戸惑った、突然現れた胡散臭い白の騎士……だが何も失うものが無い今、特に断る理由も無かった。



「その力があれば私も黒騎士に?」



「ええ勿論」



笑顔で告げるシャルティン、その言葉を聞きユエルは頷いた。



「私に……復讐出来る力を下さい」



「是非、喜んで」



黒騎士に復讐を誓うユエルの背後でシャルティンは不敵な笑みを浮かべ、空を見上げた。

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