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第103話 無関心

幼い頃から月を見るのが好きだった。



太陽の様に明るくは無いが夜を照らしてくれる月が大好きだった。



ユエルに親は居なかった。



生まれて間もない頃、教会に捨てられて居たらしい……そして10年間教会で育てられた。



何不自由なく、可愛らしい外見も相まって周りから愛される育った。



だが10歳になったある日、とある女性と出会い全てが変わった。



ふらっと立ち寄った裏路地に居た大きな帽子を被り黒のローブを羽織った女性……まさに魔女そのものだった。



魔女は浮かない顔のユエルに問いを投げかけた。



『何かお困りでも?』



困り事……あの頃自分は過剰な愛に少し疲れて居た、そして心にも無い事を思わず口にしたのだった。



『愛され過ぎるのも疲れた』



ユエルの言葉に魔女は薄ら笑みを浮かべてとある薬品を手渡した。



『一滴飲めば一日、呉々も気をつけて』



その言葉を残し姿を消す魔女、ユエルは渡された薬品を一滴、試しに飲んでみた。



ほんのりと甘い味……だが何かが変わった気はしなかった。



所詮裏路地に居る人間が渡す物などその程度……少しユエルは落胆し教会へと帰った。



だが教会の様子がいつもと違った、気持ち悪いほどベタベタしてくる神父も、ストーカーの様に付きまとってくる8つ上のスレイドも、皆んな自分の事を居ない物の様に扱うのだった。



夕飯時に料理を用意され無かったが勝手に冷蔵庫を開けて食べても怒られない、神父を叩こうとも何をしようとも何も言われなかった。



過剰な愛情の中で育ったユエルに取って、感じた事のない自由だった。



そして薬品を全て飲み干した。



それが過ちだった。



何をしても許される、誰にも何も言われない……だが本当に何も言われ無かった。



街の物を無断で食べても文句は言われない、何を盗もうとも……まるで居ない人の様に扱われた。



最初は開放感となんでもして良い自由でそれ程苦痛では無かった……だが5年程経つとある恐怖が襲って来た。



本当に自分はこの世に存在して居るのかと。



人間は嫌われる事よりも……無関心が一番精神的にキツイのだと初めて知った。



誰にも存在を認められない、自分がおかしくなるのが分かった。



だからこそユエルは街の外れ、現在ユエルが住んで居る墓地がある場所へと向かった。



死に場所を探して居たのだった、アンデット系統が多く出現すると言う街外れの墓地……だがいざ殺されそうになると臆病な自分は逃げ出した。



そしてとある墓石の前に置いてあったナイフを手に取った。



それが魔力喰らいの短刀との出会いだった。



間抜けで情け無いが出会った経緯は意外に味気ない物だ、問題は出会った後だった。



『辛気臭い奴に拾われた物だな』



短刀から聞こえてくる声にユエルは動揺を隠せない、あまりにも非現実的な出来事が起こって居るのだ、当然の反応だった。



『だ、誰?』



長い間話して居なかった故に声が上手い事出す事が出来なかった。



『名前など無い、儂は魔力を喰らい強くなる短刀、ただそれだけだ』



『魔力を喰らい……強くなる?』



『そうだ、他人の魔力を所有者の魔力に変換する、それが儂の力……とは言えお前は見た感じ偶々拾ったようだな』



脳に直接語りかけてくると言う不思議な体験に戸惑って居るユエル、何故この短刀が話せるのかは分からないが一先ず害はなさそうだった。



早いうちに捨ててこの場を去ろう……そう思ったが何故か短刀を手放す事が出来なかった。



勿論呪いなどかかって居ない……単純に自分と話せる人物?を久しく見つけたからだった。



『どうやら呪いをかけられた様だな娘』



手放すべきか、どうすべきか葛藤して居ると短刀が再び話し出す、呪い……その言葉に首を傾げた。



『呪いってどう言う事?』



『それはお前しか知らん……だが何かあったはずだ、お前には無関心の呪いが掛けられている』



『無関心の……呪い』



すぐに見当は付いた、5年前に魔女の様な風貌の女性から受け取ったあの薬品の事だろう。



愛されるのが疲れた……そんな理由で飲んだ薬品がまさか人からの関心が無くなる呪いのアイテムとは誰が予想できたのだろうか……だがもうどうでも良かった。



三年ほど前にもう人と関わりを持つのは諦めたのだから。



『呪いを解く方法ならあるぞ』



『呪いを解く方法!?』



諦めた……その筈なのに、希望があると分かったら諦めきれなかった。



『あぁ、至極簡単……この呪いは言わば魔法、ならば此方も魔力を貯めて魔法で撃ち消せば良いだけだ』



『そんな簡単に?』



『いや、この魔法をかけた奴はかなりの魔力を持っていた様だな……6100人』



ユエルは短刀の言葉に首を傾げた。



『なんの数字なの?』



『魔法を解くのに必要な魔力、魔導師を6100人殺せばその魔法……基、呪いは解ける』



正直この短刀が言っている事は信じられなかった……だがこの現状から抜け出せるのなら、信じる他無かった。



ユエルは首を縦に振る、その行為に何で感じ取れたのかは分からないが短刀は言い放った。



『今のお前は弱すぎる、前の持ち主の魔力も微量しかないしな……先ずは特訓だ』



そしてユエルは何年、何十年と短刀に言われるがまま体術を、剣術を学んだ。



そしてとある日、ある事に気が付いた。



見た目が短刀と出会った時から成長していない事に……だがどうでも良かった。



もう一度誰かに愛される日が来るのなら。

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