第100話 魔女の蘇生
英雄になりたかった訳では無い……もっと、皆んなと生きたかった。
旧ブラッシエル家の裏庭に建てられた墓石の前に座りシャリエルは虚ろな表情をする、禁忌の魔法を使った代償……残りの寿命は長くて一年と言った所だった。
怖い……シェルドと対峙して居た時は夢中で思わなかったが死が迫っていると言うのはこんなにも怖く、不安だとは思わなかった。
アイリスやサレシュ、アーネストはこの事を知らない……伝える気も無かった。
彼女達に伝えればきっと悲しんでしまう、そんなのは嫌だった。
せめて……アーネストと仲直りくらいはしておきたかったのだが、もう無理だろう。
ポケットから取り出した一枚の紙を眺める、北の山に囲まれた位置にある神殿の調査、最近……と言うほど最近でも無いがギルドに張り出されたクエストだった。
調査にも関わらず報酬が35万レクスと言う高額報酬に釣られて多くの冒険者がクエストに行った、だが帰って来た者は0、今では報酬も100万に引き上げられて居るが寄り付く者は居ない高難易度クエストだった。
何故そのクエストに行くのか……死に場所が欲しいのだった。
どうせ一年後に死ぬ、それならば戦いの中で死にたかった。
それに万が一情報を持ち帰れる可能性もある……死ぬのなら誰かの役に立ちたいと言う思いもあった。
「父様、ユエル……行ってきます」
魔紙から花を取り出すと墓に添える、父への墓参りは最初で最期になるのだろう。
墓石に背を向け旧ブラッシエル家を後にする、アルラやセリスに礼を言いたかったのだが……仕方ないだろう。
魔紙を使わずに街を歩く、あまり気にして居なかったがセルナルドと言う国は美しい国だった。
シェルドの一件以降、他種族と国民の絆が深まった様な気がする……仲睦まじく遊ぶエルフと人間、獣人族の子供達、前まではかなり珍しい光景だった。
ようやく国王の願いが叶った……と言う感じだった。
「英雄様だ!この街を救ってくれてありがとう!!」
街の人々がシャリエルのした功績を称える、だがシャリエルにはあまり気持ちのいいものでは無かった。
街を、国を救ったのはアルラやセリス、私は瀕死のシェルドにとどめを刺したに過ぎなかった。
だがアルラとセリスは忽然と姿を消した、まるで最初から居なかったかの様に。
周りの人間から彼らの記憶は消えて居た。
セリス、アルラ、その言葉を出しても疑問符を浮かべる……本当に不思議な人達だった。
初めから居なかった……そんな気もするが記憶に残っている以上、彼らは居たのだろう。
記憶だけが彼らの居た証拠と言うのは少し心許ないが彼らへの感謝は忘れない、これからも。
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シェルド……ただの人間だった彼が何故六魔の一員だったのか、何度考えても分からなかった。
ひっそりと、こっそりと部屋の隅でシャリエルとシェルドの会話を聞いて居たが暗黒神を復活させた魔女がセルナルド王国で人体実験をしていたのは分かった……今思えば彼女、早々に殺してしまったが中々の重要人物なのでは無かったのだろうか。
六魔にも数人、彼女によって力を得た者が居た、もしかすると残りの二人の六魔もセルナルド王国で実験された人間、もしくはモンスターなのでは無いのだろうか。
そう考えるとシャリール……彼女が何者なのか気になり出してきた。
何のために人体実験を繰り返して居たのか、何故暗黒神を蘇らせたのか……分からなかった。
だが、分からなければ直接聞けば良いだろう、残りの六魔とやらに。
とは言え、所在地が全く分からない……シェルドが死ぬ前に聞いておけば良かった。
連日六魔の部下による大陸侵攻は激しいものがあった、だがラルドーシャ率いる軍勢が負けて以降、全く姿を見なくなった。
部下の姿さえも。
六魔が残り二人になった以上下手に動けないのだろう、見た所ラルドーシャは六魔の中でもかなり上位の強さを誇って居た様子だった。
その証拠にウルスは久しく食べ応えのある魔力を見たと言っていた、1500年の魔力を誇る彼が。
そんなラルドーシャに比べたらシェルドなど雑魚だったのだろう。
兎にも角にも、向こうが動き出さなければ居場所は分からなかった。
暗黒神は一応暗黒、闇の神……彼にしか干渉ができない固有の空間を持っている、恐らくそこに居るから探知魔法も反応しないのだろう。
「さーて、どう動こうか」
目の前に様々な国の映像を映し出す、フェリス帝国からセルナルド王国、オーリエス帝国まで、だが変わった事は特に何も無かった。
その時、ふとある事が頭を過ぎった。
オーエン城に置いてきたシャリールの死体……リリィに協力して貰えば蘇生できるかも知れなかった。
通信魔法を発動しリリィに連絡を試みる、だが彼女は出なかった。
いや、正確には出る事を拒んだ、拒否されたのだった。
上司が部下に、電話を切られた……会社ならあり得ない事だった。
向こうが諦めるのを待つのではなく、自分から切断……まさに勇気の切断だった。
そしてその勇気の切断にアルセリスもとい、隼人は少し凹んで居た。
この世界では部下を大切にしようと思って居たのだが……嫌われて居るのだろうか。
少し不安だった。
「まぁ……一人でやるか」
転移の杖ではなく魔紙を破り捨てる、破り捨てた瞬間辺りは光に包まれ数秒後には前に来た時よりも更にボロくなったオーエン城へと転移した。
相変わらずモンスターがうろちょろして居るが襲っては来ない、少し不可解だがアルセリスは無視すると城の中へと入って行った。
一度見た螺旋階段、遥か上まで続いて居る。
登ろうと思えば一気に登れる、だが何となく、何の理由もなく、ゆっくりと歩いて登った。
考える時間が欲しかったのかも知れない。
これからの事、これまでの事の。
現状抱えている問題は暗黒神、そして謎の白騎士……あとリリィからの忠誠度、この三つくらい。
一番の脅威は白騎士かも知れなかった。
オーフェンもといリュスティから報告を受けたシェルティンと言う白い騎士……彼はオーフェンがセルナルド王国に改造され作り出されたリュスティと言う事を知っていた、それはつまりセルナルド王国に通じていると言う事……厳密に言えば前セルナルド国王の下について居た研究に関わって居たと言う事だった。
今のところ研究関連の人物は敵が多い、シャルティンもまた敵の可能性もあった。
だがそれもこれも……シャリールに聞けば分かるのだろう。
螺旋階段の終着点、屋上に転がるシャリールの死体、まだ死んでからそんなに月日は経って居ないお陰で腐敗はして居なかった。
「さてと……蘇生を試みるか」
一先ず外傷を治癒魔法で治していく、そして内部損傷も粗方治癒すると少し離れた場所に大きな魔法陣を描き始めた。
そしてその中心にシャリールを置く、そしてその隣に中規模の魔法陣を描いた。
後は……生贄を一人、用意すれば彼女は再びこの世に戻ってくる事が出来るのだった。
適当な人を連れて来る事は出来る、だがその適当な人にも家族は居る。
それを自分の都合の為だけに殺す事は出来なかった。
「さて、どうしたものか」
適当な大罪人でも捕まえて連れて来るしか無さそうだった。
だが手元には大罪人一覧ブックなんて大層な物は無い、クリミナティの残党に聞いた方が早そうだった。
何故小悪党じゃ行けないのか?
それは魂のレベルが関係して居る、シャリールはあれでも中々の魔力を持つ魔女、それならばそれなりに強い魂を連れて来ないとイタズラに生贄を殺してしまうだけだった。
転移の杖を構える、クリミナティの残党が居る場所は凡そ検討が付いて居た。
「転移先、オワスの村」