決断
「……家が無い、とはどういう事だ?」
突然のカミングアウトに動揺しつつも、冷静を装う。
「えっと、私、ヘミングっていう田舎の村出身で……。
先月辺りまで、両親の元で錬金術の勉強していたんです。そして、15歳の誕生日になった時、両親に何も言われず家を追い出されて……。
それでも何とか生きようとしたんですけど、私が知っている物って錬金術しかなくって。毎日森で薬草を集めて、近くの村で滋養強壮の薬としてポーションを売って路銀を稼いでいたんですけど、先週地元の元締めを名乗る怖い人達に脅されて、商売できなくなって……。
それでどうしようか困っている所に、道端に落ちてた新聞に載っていたヴェイルさんの記事を見て、この人だっ!って思って……。手元に残ったお金の殆ど使って、最後の望みを掛けてはるばる此処まで着た、という事なんです。
なので、弟子になれないと私、行くところが無いんです……。」
「……なるほど。」
……なんというか、ツいてない子だ。
俺も大概だとは思っていたが、まさかそれ以上の人が目の前に現れるとは。
……まぁ、ツいてない者同士、惹かれ合ったという事なんだろうか。
少女は、うるうるとした瞳で此方を見てくる。
見捨てないで、という声が聞こえてきそうだ。
ヴェイルは大きくため息をつき、決断する。
……仕方ない。
「……私も君の錬金術に興味が沸いた。もっとも、私が教えられる側なのかもしれないが、君を弟子に取ろうじゃないか。」
「本当ですかっ!?」
少女は嬉しそうに椅子から立ち上がる。
「……あぁ。暫く此処に住むと良い。」
「やったぁ……っ!」
そしてピョンピョン飛び回る。
元気な子だなぁ。
まぁ元々、この家は一人で住むには少し広いと感じていたんだ。
もう一人増えた所で何の問題も無いだろう。
だが、一番心配すべきは貯蓄が無くなった後の事か……。
気持ちを落ち着ける為に自分の前のティーカップを掴み、飲みやすい温度になった紅茶を飲む。
……紅茶の香りに混じってさわやかな香りがする。
……やっぱり、ツいてない日だ。