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方向性の違い

身体に付いた雪を払って、玄関を開ける。


ただいま。

と、心の中で帰宅の挨拶をする。


「お、お邪魔しまーす……。」


玄関先でパタパタと雪を払った少女が、おずおずと入室する。


「……リビングはここだ。少し待っていてくれ。」


少女をリビングへと案内し、自身はキッチンへと向かう。


……さて、彼女の好みが分からない以上、ここは無難にストレートティで良いか。

とりあえず、お湯を沸かす。


その間に、茶菓子を捜索する。


どこだったか。

確か、この間両親が送ってきたクッキーが棚に……。

よし、あった。

3種類のクッキーが入っている小さなブリキ缶を取り出す。

そのまま出すと見栄えが悪いかもしれないので、3枚づつお皿に盛りつける。


すると、丁度いいタイミングでお湯が沸く。

えぇと、確か先にポットを温めるんだったか。

母親から教えられた紅茶の入れ方をあやふやに思い出しながら実践する。


しばらくして、出来上がる。

紅茶のいい香りがキッチン内に漂う。


それでは、持っていくか。

トレーに茶菓子と、紅茶の入ったティーカップに角砂糖を二個飾り付けてから、リビングに入室する。


リビングでは、少女が緊張した面持ちで椅子に座っていた。


「……待たせた。」


ティーカップを少女の前に置き、その奥にクッキーを置く。

自分は彼女と向かい合うよう座る。


「……それで、どういう話だったか。」


「えっと、その、私を、その、あ、貴方のっ、弟子にしてくださいっ!」


しどろもどろで弟子入り志願をする少女。


「……なんの弟子だ?」


「れっ、錬金術でひゅっ!」


緊張で噛む少女。

ふっ、とつい笑みを漏らしてしまう。

いけない、冷静に対処しなくては。


「……まず訂正しておきたいのだが、私は錬金術の理論を元に研究していただけで、錬金術を研究していた訳ではないよ。」


「……?それはつまり錬金術では?」


少女の頭上にはてなマークが浮かぶ。


「……まぁ、そうだが、そうじゃないんだ。もっと細かく、簡潔に言おうか。私は錬金術の物質の合成、変換という発想を生かして社会の役に立つ研究をしていただけで、錬金術が本来どのような物なのかは知らないんだ。」


「……でも、化合物生成や、等価交換の理論などは知ってますよね?」


「まぁ、齧った程度だが。」


「……やはり錬金術師では?」


「……なぜそうなる。」


話の通じなさに頭を抱える。

そこで逆に、少女の錬金術がどんなものなのかを聞いてみる事にする。


「……なら、君の知っている錬金術をまず教えてくれないか。そこから違う部分を見つけ出そうと思う。」


「わ、分かりましたっ。」


そこで少女が懐から取り出したのが、コルク栓された緑色の液体入りの試験管。


「これが、私が教えてもらった錬金術です!」


「……なんだ、これは。」


「飲んでみて下さい!」


「なんだと。」


この怪しい液体を飲めと言うのか。

しかし、研究者としての血がこの液体が何なのか、という好奇心を湧き立てる。


少し傾けてみる。

粘性があり、ドロリと液体が動く。


コルク栓を抜き、手で仰ぎ匂いを嗅ぐ。

……とてもさわやかな香りがする。

ハーブとスギ科の植物の匂いが入り混じったような香りだ。


「……本当に、飲めるんだろうな?」


「大丈夫ですっ!」


ふんすっ、と興奮した様子で語る。


恐怖心は無くせないが、これを飲まなくては話が先に進まない。

……ええい、ままよ!

勢いに任せて喉の奥に流し込む。

味は……想像に任せよう。


…………。


「……何も変わらないが。」


「そろそろ来ます!」


彼女が言い終わると同時に、身体がじわじわと温まるような感覚に包まれる。


「……何だこの感覚は。」


「回復ポーションの薬効ですっ!」


「回復ポーションの薬効。」


薬だったのか、これ。


「して、その効果は?」


「新陳代謝の増強による、自己治癒能力の向上ですっ!」


「……なるほど。効果時間は?」


「一本につき約一時間ですっ!」


「……ふむ、どれくらいの傷なら治せる?」


「小さな擦り傷、切り傷程度なら30分もあれば修復できますっ!」


なるほど、中々良い効果じゃないか。


そして、


「……これは、私のやっていた錬金術とは全く異なる物だという事が理解できた。」


「ち、違うんですかっ!?」


その言葉に少女はショックを覚える。


「あぁ、これはどちらかというと薬学に近い方の錬金術だな。私は工学系の錬金術だ。」


「そ、そんなぁ……。」


折角ここまで来たのに……と萎びれる少女。


「……残念だが、私が君に教えられる事は無いと思う。今日の所は家に帰り、研究に打ち込むと良い。」


すると、少女が申し訳なさそうにぽつりと漏らす。


「えっと、実は……ですね。……私もう、帰る家が無いんです。」


……なんだと?

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