ヴェイルからのプレゼント
いただきますの言葉と共にヴェイルはフォークとナイフを手に取りクロケットを切り取って食べる。
まず1口。衣のサクッとした食感と共に口の中に広がるのは圧倒的なじゃがいもの風味。
しっとりとしていて、それでいてホクホクとした甘みと鼻を抜けるデンプンの香り。
そしてその中に隠れるシチューの風味と野菜の旨味。
それらを繋ぎ合わせる絶妙な塩コショウの加減。
自画自賛になるが、とてもいい味が出ているんじゃないか、と思う。
シンシアの作ったサラダも食べたが、揚げ物のクロケットにはやはりドレッシングのさっぱりした風味がよく合う。
みずみずしいレタスとトマトの酸っぱい甘さも素晴らしい。
シンシアもクロケットを一口サイズではなく半分に切ってそのまま口に入れ、美味しそうに頬張っている。
その様子を少し微笑ましく思いながら食事をするヴェイル。
静かな時間だが、何処か楽しい時間が2人の間に流れる。
しばらくして先に食べきったシンシアがお皿を纏めてキッチンへと持っていく。
ヴェイルも食べきり食器を片付け、キッチンで洗い物をする。
シンシアは気を利かせてテーブルクロスを片付けてテーブルを拭いてくれている。
「片付け終わりましたよー。」
「あぁ、ありがとう。休んでていいぞ。」
「はーい。」
シンシアはテーブル前の椅子に座り、今日の戦利品確認をしている。
今日手に入れた物、砂、硫黄、水銀、チョークの元、新聞紙。
それらを綺麗に並べていく。
その中でも硫黄と水銀の小瓶を指で突いて嬉しそうな顔を浮かべている。
そして皿洗いが終わったのか、向かい合うように椅子に座るヴェイル。
「大分嬉しそうだな。」
「えぇ、一番のネックがこの2つでしたから。」
「……確かにそうだな。」
そう考えるヴェイル。
シンシア個人で買うには間違いなく借金する必要性があったし、シンシア自身の信用問題もあるのでお金を借りれず水銀鉱山の街や火山に採取しに行かざるを得なくなる。
どちらにせよお金や命、時間のかかる選択だ。
シンシアならそれでも選択してしまうかもしれないが、未来は厳しい。
……それに、ビクターが気を利かせてくれて助かった所がある。
新しい服の提供と共に銀貨2枚は中々に好条件だ。
ビクターにとってシンシアはそれだけの価値があったという事だろう。
「……ふむ、あと必要な物をもう一度聞いていいか?」
「あ、はい。えっと、フラスコ用のクォーツ、塩、薬草くらいですかね?」
それを聞いたヴェイルが両肘を突き組んだ手に顎を乗せ、意味深なポーズを取る。
「……良い物があるんだが、どうする?」
実は今朝、物置で良い物を見つけたのだ。
これはシンシアにとってかなり有難い物だろう。
自分が研究者という立場で良かったかもしれないと改めて思った物だ。
「受け取るかどうするかはシンシア次第だ。」
ヴェイルの含ませるような言い方に疑問を抱くシンシア。
「……重要な物ですか?」
「あぁ、研究に身を置く物なら必ず必要に感じるだろう。」
「うーん……」
ヴェイルさんが何を考えているか分からないけど、現在の持ち物が少ない以上貰える物は貰うの精神で行こう。
「じゃあ、貰いますっ。」
「よし、良い答えだ。」
そう言ってヴェイルは2階に上がり、物置から何かを取って戻ってくる。
「これだ。小さいサイズだったから着れずに放置していた物だ。」
ヴェイルは持ち物をテーブルに置き、シンシアの前に差し出す。
シンシアはそれを手に取り、広げる。
それは……
「……ふふ、重要な物だろう?」
ヴェイルが手渡してきた物、それは白く薄い素材で出来た長いコートだ。
前面はボタン式で大きく開け放たれている。
襟首は胸元辺りまで綺麗に折られ、研究者の威厳を感じるような作りだ。
「なんですかこの服?」
「その名を白衣と言う。研究者を目指す者なら必ず着る事になる服だ。」
「へぇー……。」
思っていたより普通の物だったので反応に困る。
まぁ普通に着て、感想でも答えておこう。
立ち上がり椅子を戻し、白衣に勢いをつけバサァッ……と肩に被せ、袖を通す。
「……流石シンシアだ。着方も理解しているようだな。」
ヴェイルはシンシアの様子を見て理解したように頷いている。
「そうですか?」
いまいち良く分からない。
まぁ感想を言わなくて済んだのは有難いかも。
着た状態で再び椅子に座る。
「……それとおまけだ。」
メモ帖とペン、そして小さな肩掛けカバンを渡される。
「それがあれば物の出し入れに困らないだろう。メモとペンはあると便利だ。有効活用すると良い。」
「わぁ、ありがとうございます!」
実用性から言ってこのカバンとメモとペンの方が有難い。
白衣は利用方法がいまいち良く分からない。
「……さて、シンシア。」
十分な飴は与えた。
後は事を成すだけだ。
「なんですか?」
「……これより魔法訓練を行う!」
「やだーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」
目を思いっきり瞑り、シンシアの魂の慟哭が空を貫く。
その絶叫は静穏を守る夜の住宅街にこだまし、物々しく震わせた。
ここまでが実質的なプロローグ。
ゲロるとここまで引っ張ったのはシンシアとヴェイルが出会った際に、
あっ、荷物の描写を忘れてたな……→そうだ、荷物全部売ってでもここに来た設定にしよう!
という安易な理由。
後付けでも荷物持たせときゃ良かったんじゃないかとここまで書いといてそう思ってます。




