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新たなる出会い

「……何か用か。」


扉を塞ぐ形で停止しているアルスに声を掛ける。


「な、何も無い。」


「……なら、どいてくれるか。」


コイツの名前はアルス。

俺と同じイリス連合王国から亡命してきた魔法使いの子息。

その一族の中にかなり有名な魔法使いが居るらしく、それを鼻に掛けて威張っている典型的なアレだ。

もっとも、彼自身の魔法の才能は普通なのだが。

家系の血の影響からか、魔力は潤沢に持っているようなので少し羨ましい。

気が立ちやすい性格で、些細な事で怒る。

その為プライドが高いリリックとよく喧嘩していた。見ていて愉しんだものだ。

……まぁ、仲裁に入るのは俺の役目だったのだが。


「な、何故貴様に道を譲らねばならん。譲るのはお前の方だヴェイル!」


「……分かった。ほら、どいたぞ。」


もうチームメンバーとは話す気にもなれないので、さっさと話を終わらせる為に道を開ける。


「……くそっ、いけ好かない野郎だ。」


早歩きで横を通り過ぎていくアルス。

……それはコッチのセリフだ。

そしてそれを口に出すか?普通。


相変わらずの空気の読めなさにため息が出る。

しかし、こんな気分でも帰らなければならない。

扉から出ようとすると待て、と声をかけられる。


「用事は無かったんじゃないのか。」


呆れた顔で振り向く。


「ハッ、さっきまではな。……今、お前が持っている研究データ、それを全て渡して貰おうか。」

 

なんだと?


「……ふざけているのか。」


「ふざけてなどいない。あと少しで完成する研究を、此方は是が非でも完成させないといけないんだぞ。研究所上層部やスポンサーからの期待も大きい。お前が抜けた穴を誰が埋めなきゃならんと思っている。……さぁ、早くデータを渡せ。」


催促するように手を出すアルス。


誰がお前なんかに……

そう言おうとすると、さらにもう一人の声が聞こえる。


「……私からもお願いするわ。」


「……メアリー。」


研究チームの紅一点であるメアリーだ。


「確かに、名残惜しいかもしれない。でもね、オリア共和国政府内では未だに魔法に対する偏見は大きい。貴方の思う錬金術が確立すれば、オリア共和国の思考も変わって、イリス連合王国との国交正常化交渉が成功するかもしれないのよ。貴方の親御さんが望んでいたように、お墓詣りにだって……。」


綺麗事ばかりを並べるメアリーに辟易する。

俺に殉職しろと。

そう言いたいのか、お前たちは。


怒りで拳が白くなるほど手を握り締めた俺はカバンから書類を取り出すと、


「……これがそんなに重要か。なら、好きにしろ。」


その場で投げ捨て、メアリーの横をすり抜けるようにして去る。

これは、せめてもの反攻だ。


後ろから、メアリーとアルスが慌てて書類を回収する音が廊下内に響いた。



 ◇



とぼとぼと研究所入口まで歩いていると、受付の子が花束を贈ってくれた。

彼女の魔法の練習に付き合ってくれたお礼も込めて、らしい。

これからも自分に負けずに、頑張ってください、という言葉に少し慰められる。


外に出て、空を見上げる。


空からは小さな雪の結晶が、ゆらゆらと、左右に揺れながら舞い落ちてくる。


その動きはとても優しく、同時に儚かった。


家路、雑踏に紛れながら今日の晩飯の食材を買い込む。

他の家庭では晩御飯はケーキが主流らしいのだが、元々イリス出身の俺はじゃがいもを食べないと満足できない質のようだ。

購入したものはライ麦パン、じゃがいも、ベーコン、人参、ブロッコリー。付け合わせに缶詰のアスパラガス。

これでもそれなりに給料は貰っていた方なので、食生活に関してはグルメであると思いたい。

というか、独身男子の楽しみなんて食事か飲み会ぐらいしか無いのだ。

 

彼女の一人でも出来ればいいが、肝心の合コンに誘われる機会が無いほど研究が忙しかった。

多少無理してでも、将来の伴侶を探すべきだったのだろうか。


「……あぁクソ、本当にツいてない日だ。」


食材を片手で抱え、暫くは家で引きこもり生活を送る羽目になる事実が身に沁みる前に帰路に付く。


そして自宅前。見も知らぬ少女が俺の家の前に座り込んでいた。


「……はぁ、寒い。」


かじかんだ手を吐息で温めている。寒さで赤くなった頬が、更に少女らしさを引き立てる。

服装は白いコートに動きやすさ重視のデニムパンツ。

足には白いファーの付いたブーツを履いている。

雪のように白い髪と、首にかかる赤いマフラーがとても印象的だ。


来客だろうか。 

だが、今の俺には応対する程の気力が無い。 

申し訳ないが、素通りさせて貰おう。


「……。」


「……!す、すみませんっ!」


無言で家に入ろうとする。 

それを驚いた様子で、呼び止める少女。


「……何か用か?」


「えっと、あの、もしかして、貴方が現代最高の錬金術師と名高いヴェイル・ウィダスティルさんですか!?」


錬金術師?

まぁ、似たような研究はしているが、錬金術師というわけではないはず。


「……いや、違うが。誰だ、あんた。」


「あのっ、お願いします!!私を弟子にしてくださいっ!!」


「…………???」


全く話を聞かない子だな。もう一度言うか。


「女の子。俺は錬金術師じゃない。」


「でもでもっ、現代で錬金術を研究しているのってヴェイルさんって聞いて!」


「……まぁ、間違ってはいないが。」


間違っていない事を言われると確かにそうだと思ってしまうのが今は裏目に出ている気がする。


「私、もっと勉強して、お父さんとお母さんを超えられるような立派な錬金術師になりたいんです!」


「……そうは言われてもだな。」


少し思考したのち、ヴェイルは諦めたようにある提案をする。


「……仕方ない。立ち話もなんだから、とりあえず家に入るといい。お茶も出そう。」


「……っ!はいっ!」


優しく降り積もる雪の中、一人の少女との出会いが彼の運命を新たな物へと変えてしまうのは偶然か。


はたまた、運命ので定められた必然なのか。


運命神は、ただ悪戯にサイコロを振るう。


まさか事故って投稿していたとは気付かなんだ。

このリハク(ry

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