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親友

「……。」


 自宅謹慎を言い渡されたので、無言で机の書類やノートを片付けている。

 今はもうここに居る人間全員が信用ならない。

 重要な書類だけ持ち帰り、不要な物は全て焼却炉で処理してしまおう。


「よぉヴェイル。自宅謹慎だってな?」


 快活そうな笑みで話しかけてくる男。

 こいつの名前はビクター。俺とは別の研究チームに所属している友人だ。

 信用できなさそうな顔をしているが、こう見えて口は堅い。

 それに、色々と情報通なので仲良くしている。


 ただ、今のセリフが同じチームの奴だったら挑発と受け取ってぶん殴ってたかもしれない。


「……ハ、笑いごとじゃないぞ、ビクター。査問会に掛けられるらしい。内容が内容だ。クビは間違いないだろう。」


「はぁー、そりゃあご愁傷様な事で。」


 相変わらず他人事のようにしゃべる男だ。


「……それで、誰にやられた?」


 小声で聞いてくる。


「……分かっていたらこうはならない。」


「だろうな。」


 手を頭の後ろで組み、何かを思考するビクター。


「……なら、アイツは?リリック。」


「……まぁ、アイツなら動機はあるが、そんな安っぽい男じゃないさ。」


 リリック。俺のチームの一員ではあるが、スポンサー企業の社長の一人息子でもある。

 どこまでもプライドが高く、一般家庭出身である俺の事を見下していた。

 だが熱心な男で、誰にも負けないよう必死に努力している事を俺は知っている。

 とてもそんな事をするような奴とは思えないのだが……。

 だが、俺が起動したのを見たと言っている以上、コイツも裏切り者の一人という事だ。


「……じゃあ、フィリップ。」

 

 フィリップは俺と同じ一般家庭出身の男。

 コイツも俺を見たと言っているらしい。

 自分の出世よりも研究第一な奴で、常に研究室に入り浸っているヤバい奴だ。

 疲れで幻覚を見たという可能性もあるが、それだと集団で幻覚を見た事になる。


「……それくらいにしとけ。今の所全員裏切り者だ。」


「……まぁ、そうだな。」


ビクターもその意見に同意する。

結論の出ない討論より大事なのは、これから先どうするかという事だ。


「……それで、今後の予定は?」


ビクターが心を読んだように聞いてくる。


「まぁ、暫く経ってから考えるさ。」


「オイオイ、天才と謳われたヴェイルさんが聞いてあきれるぜ。」


額に手を当て、困ったようなポーズを取るビクター。


「……仕方ないだろう。ここで錬金術の研究をする為だけに今まで生きてきたようなもんだからな。」


事実、そうだ。

俺には何故、魔法と科学が互いに相容れない物なのか不思議で仕方がなかった。

親や親戚、学校の先生にも、何故魔法と科学は別でないといけないのか、一緒には出来ないのか、と聞いて回ったほどだ。

そして大学に行き、様々な文献を調べていく内に辿り着いたのがこの錬金術という技術。


その理は、世界に存在する様々な物質を魔法属性学的に4つの属性に分け、同じ属性の物を組み合わせて新たな物を作り出すという物だった。

いずれは金を生み出す事を目標に一時期流行ったそうだが結局生み出せず、今では詐欺の常套手段として数多の老人達が犠牲になっている。


だが、俺はその根本的発想は間違っていないと思う。

何故なら、この世界には魔法があるからだ。


魔法とは科学で解明出来ない不思議な現象を指す言葉なのだが、この世界では人が普通に魔法を使える。

文字通り可燃物も可燃ガスも無い空中に炎の球を発生させられたり、

空中の水分を凝固させた訳でもないのに大量の水を生み出したりするのだ。


これは科学では一切解明出来ず、出された結論が神の奇跡。ふざけているのか。


俺が推測するには、その人個人が持つ運命の力を利用して最初にまず因果を作り、逆算的に結果を生み出す物だと思っているのだが、説明しても理解してもらえなかった。

まぁ、世界中で主神として信仰されている運命神の加護、という点では神の奇跡というのは間違っていないのが……。


おっと、話が逸れたな。戻そう。


まぁ、簡潔に言うと、運命力と因果を利用して原子核構造を変化させれば、物質の変換も可能だという事だ。

勿論、簡単な事ではない。

それこそトップレベルの魔力量と魔力操作技術が要るし、変換する物質を格納する融合炉も生半可な物では成功しない。

幸い、魔力操作に関しては俺は奇跡的に持っていた。

両親がイリス連合王国から亡命してきた名有りの魔法使いの一族だったからだ。

そしてその技術を生かす為に、このオリア国立魔法科学技術研究所に入所した訳だが……。


「……まぁ、これも運命神の導きって奴だな。」


「おっとぉ?遂にヴェイルも神に祈るしか無くなったか?」


ビクターが半笑いで煽ってくる。


「……俺の運命もここまでだって意味だよ。」


片付けを終えて、荷物を背負う。

その顔には哀愁が漂っている。


「……なんだよつれないなぁ。何時もならここでこうっ、グッと来る所だろっ?」


ビクターが俺の肩を抱き、軽く首を絞める。

俺は無抵抗で受け入れる。

その様子に流石にビクターも元気づけるのを諦めたのか腕を緩め、優しい口調で語り掛ける。


「……なぁ、ヴェイル。」


「……なんだ。」


普段と違うビクターの様子に、ヴェイルも少し戸惑う。

そしてビクターから掛けられた言葉は。


「……これくらいで、諦めるなよ。お前は、間違いなく天才だ。錬金術が成果を上げ始めたのも、お前が入ってからだ。お前には、必ずまたチャンスが訪れる。運命の女神様だって、それくらいの事をしてくれるさ。」


「……あぁ。」


「……元気でな。今度、食事にでも行こうぜ。」


そう言い残し、ビクターは去っていった。

ありがとう、ベクター。お前は本当に、良い奴だ。

俺に、ここを出る勇気を与えてくれた。


この気持ちを忘れないうちに部屋を出ようとすると、一人の男と出会う。


「……ヴェ、ヴェイル。」


「……アルスか。」


 俺と同じチームの奴だ。

11/20 23:00追記

あわわ22:00に出したアルスの怒りは矛盾点多すぎたので消しましたごめんなさい……

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