裏切り
「ヴェイル。何か弁明は?」
「……私は無実です。あんな実験、やってもいない。」
応接室。研究所の所長がヴェイルという男を問い詰めている。
「……だがな、お前のメンバー達は全員がお前が装置を起動するのを見たと言っているんだ。」
「違います。彼らが嘘を付いているんです。」
「……ヴェイル。」
何度も何度も、同じ問答を繰り返している。
実際、俺は無実だ。
魔力コーティング理論による原子核融合実験など、誰が好き好んでやるもんか。
理論上は不可能ではないと言われてはいるが、一歩間違えればこの国が滅ぶ。
……まぁ、だからこそ、これだけ問い詰められている訳だ。
だが、本当にやっていない物はやっていない。
「それにだな、証拠がある。13時33分、装置管理室にお前のIDでの入室記録と、監視カメラに映るお前だ。」
テレビに、監視カメラの録画であろう映像、IDカードを認識機にタッチして入室していく俺の姿が映る。
そして、部屋に入室し、仲間に挨拶する姿までも。
「……それは偽物です。きっと、変装した誰かが「……もういい、ヴェイル。」……っ。」
「証拠はそれだけじゃない。起動された装置のスイッチにはお前の指紋付いている。……お前にとっては残念な事に、定期清掃後初めて使用されたという事実も付いてな。」
机の前に出された書類には、指紋の完全一致を示した文章が書いてある。
ご丁寧に、検察の協力も得たようだ。
「……これは、誰かが俺を嵌めようと。」
「どこまでも認めないつもりか。もういい。」
所長は机を叩き、立ち上がる。
「ヴェイル。君の功績は確かに素晴らしい物だが、ここまで非常識な行為を容認する程私達は甘い組織じゃない。」
そして指差し、告げる。
「君に、暫くの自宅謹慎を申し付ける。今回の事件は外部の立ち合いの元査問会にて十分精査し、検討してから処分を言い渡す。」
事実上のクビ宣告だ。
ヴェイルの顔が絶望に染まる。
「……そ、そんな。」
「以上だ。今日の所は帰りたまえ。」
そう言い残し、所長は退室する。
残された俺は、やり場のない怒りと悲しみで震える肩を抑えながらじっと、耐えるしか無かった。