表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

今日からぞんび 第1話

企画用に書いたら思った以上に長くなってしまいました。

後日自分のアカウントで掲載予定なので、ここでは序盤、切りの良いところまで上げさせて頂きたいと思います。

「ようこそおいで下さいました……」



耳に誰かの声が響き、俺は目を覚ます。

気が付けばそこは、石造りの大きな部屋だった。

まるで学校の教室のように、木造りの椅子と机が並び、目の前にはスーツ姿の男性が一人立っている。


明らかに異様な光景。


周囲を見渡し、部屋の中に自分とそのスーツ姿の男しかいない事を確認すると、俺は何故自分がここにいるのかという理由を思い出そうとする。

しかしどうした事だろうか。

いくら思い出そうとしても、頭の中にモヤがかかったように、ここに来る以前の記憶を呼び覚ますことが出来ないではないか。


それどころか、自分は何という名だったのかすら思い出せない。

タロウとかジロウとか、名前のようなものを思い浮かべることは出来るのだが、自分が何という名だったのかはっきりしないのだ。

同じように、場所の記憶も思い浮かべることは出来る。

都会のアパートや、田舎の古ぼけた家など、その情景は思い浮かぶが、それが自分とどういう関係があったのかは全く思い出せない。

何かが喉につかえているような、そんな奇妙な感覚だ。



「あーっと、話しを続けていいですか? とりあえず何も考えずに私の話を聞いてくださいね。

今の状況で余計な事をしようとしても、うまくいかないはずですので……」


スーツの男が、分かっているから何も言うなと言う趣旨の言葉を吐く。

言っている意味は理解できる。

だがこの状況で落ち着いて話など聞いていられるものか。

自分が何者なのか分からないというのが、こんなにも不安でたまらないものだとは……


「ここはどこだ? 俺は何でここにいる?」


質問の仕方はこれでいいのだろうか?

そんな事を考えながら言葉を紡いでいく。

何しろ自分が発している音が、どういう言葉なのかすら分からないのだ。

ただぼんやりと、以前こうしていたような気がするという曖昧な記憶だけで口を動かしているに過ぎない。


「今の貴方に何を説明しても大した意味はありません、ここにいるのも今ほんの一時だけです。

面倒くさいのでちゃっちゃと終わらせましょうね」


「しかし、自分が何かすら分からないというのは……」


「名前も大した意味はありません、どうせすぐに変わります。

ですがそうですね……以前はサカキと呼ばれていたようですよ、貴方はサカキです、それでいいでしょう?」


「サカキ……サカキ……」


言われた名を呼んで見る。

何やら少し懐かしい感じはしたが、それだけだった。


「じゃあ話を続けますね。

貴方にはこれからとある場所へ向かっていただきます」


スーツの男の言葉に合わせて、天井から何やらスクリーンのようなものが降りてくる。

そこにどこからともなく光が当たったかと思うと、都市の地図のようなものが映し出された。


「貴方が向かっていただくのはここです。名を城郭都市リカオンと言います。

総人口は12万人ですが、城郭内の人口は4万人ほどです。ここで貴方にとあるゲームをしていただきます」


「ゲーム?」


「そうです、これから貴方はこの城郭都市に行き、ここの主であるログレス王を殺害して頂きます」


「……え?」


男の言葉を一つ一つ理解していった俺は、そこで耳を疑う。

何も思い出せなくとも、何も分からなくとも、それがどれだけ浮世離れした話なのか見当がついてしまったからだ。


その俺の表情を見たスーツの男は、手を左右に振りながら話を続けた。


「ああ、確かに簡単ではありませんが、不可能ではありません。

貴方にはそれ相応の能力を持ってもらいます」


「能力?」


「そう、それをこれから説明します。とても大切なので忘れないようにしてくださいね」


男がそう言うと、城郭都市を写していたスクリーンに、別の項目が映し出される。

それは俺の持つ「能力」と「体」についての解説だった。


曰く、俺の体はゾンビというものらしい。

ゾンビとは生ける屍、つまり人としての活動は停止しているが、何故か動くことは出来るという状態を指す言葉のようだ。


そしてその俺の持つ能力は2つ。


一つは、人間の脳を捕食する事により、その人間が持つ能力を取得できるという力。


人は生まれながらにして、何かしかの技能――スキルというものを持っているらしい。

それは実に様々で、非常に下らないものから、有用なものまで様々だ。

そういった先天的に持つ能力を奪い取る力が俺には与えられているという事だ。


二つ目は、俺が何者かに殺害された場合、その殺害した相手の体を乗っ取る事が出来るというもの。

つまり俺は誰かに殺されると、その俺を殺した相手として復活できるそうなのだ。

何だそれならほぼ無敵じゃないかと思ったのだが、そこには落とし穴があった。


殺された相手に憑依する技は、24時間に1度しか使用できない。

つまり誰かに憑依した後、再び別の相手に憑依可能になる前に殺害されれば、それは本当の意味での死となるという訳だ。


もちろん俺が復活不可能な状態で死亡してしまえば、このゲームは終了。

ゲームオーバーという事になる。

その後俺がどこへ行くのかは分からない。

聞いても教えてもらえなかった。


「一応大都市だし警察機構も割としっかりしてますので、油断しているとあっという間に狩られてしまいますのでご注意下さい。

それと、公平を期する為の情報として……この町には数は少ないですが魔法使いと呼ばれる方々が存在します。

彼らは魔法という力を使って様々な奇跡を起こします。注意してください」


注意しろと言ってもどう注意すればよいのだろうか……


「それと、人間の中には先天的に感知のスキルを持っている方がいます。

こちらも数は少ないですが、その方に近づきすぎると、貴方がゾンビだということがバレますのでご注意ください。

さらにエルフ族という種族の方は例外なくこの検知のスキルを持っています。耳が長い種族を見かけたらお気を付けください」


なんだか注意することだらけでだんだんと不安になってきた。

最初は死んでも大丈夫だと聞かされて安心していたが、これは思ったよりも厳しそうじゃないか。


「あと最後に、貴方は当初は人間と同じものを食べて生活する事が出来ますが、ふとしたきっかけから制限事項が発動します。

そうなった場合、貴方の飢えを満たせるものは、人間や亜人種の血肉のみですので、何とかしてそれらを調達して下さい。

お腹が空きすぎると普通の人間同様、能力が落ちたり、最終的には餓死したりしますのでご注意を」


最後にとんでもない爆弾がきた。

人間が集まる街で、食事は人間しか食えないという……無理ゲー臭が半端ない。

何も思い出せない今でさえ、それがどれだけ異常な事かは想像がつく。

本当に最初に言った目的を達成できるのだろうか?


いやそもそも、何で俺はこんなゲームに参加させられているんだろう……


そんな俺の不穏な表情を読み取ったのか、スーツの男はニヤリと笑うと仰々しい身振りで答える。


「何故貴方がここにいるのか、それは、貴方がそれを望んだからですよ。

契約は既に交わされています。貴方はもうこのゲームを乗り切る以外に道はありません。

さあ、知恵を尽くしてログレス王を殺害してください……期待しておりますよ」


そう言ってスーツの男はうやうやしく礼をする。

それと同時に、俺の視界が暗くなり始めた。


目の前が闇に覆われ、間もなく俺の意識は暗転する。


一体何故こんな事になってしまったのだろうか。

以前の俺は一体何者だったのだろうか。

俺は一体、何と、どんな契約をしたのだろうか……


その問いに答える者はいなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ