木陰の見た記憶
木陰は知っている。
そこにあったかつての歴史を。
木陰は知っている。
かつて人々が見た風景を。
木は、長い年月をかけて育つ。
大人の木は、何百年と生き続ける。
しかし、枯れる時はあっという間に訪れてしまう。
それですべてが終わってしまうのかと聞かれると、
それは違う。
木は、また蘇ることができる。
そしてまた、何百年という時を生きる。
私たちが知らない世界を木は知っている。
かつて起こった争いのことも
かつて暮らしていた人々のことも木は何でも知っている。
「何百年と続く歴史の中で世の中がここまで変わるとは驚きだな」
丘の上に立っている一本の木は、何百年という歴史を見ていた。
春にはきれいな花が咲き乱れ、夏には青々とした緑に包まれ、秋には色づいた紅葉を輝かせ、
冬には白く冷たい雪を被る。
季節ごとに刻まれる歴史。そして、記憶。
そのどれもが忘れてはいけない事柄なのだ。
「私は、何百年とこの地に立ち、人々を見守ってきた。これも、神から与えられし私の使命」
遠い昔の話になる。
それは、戦国時代にまで歴史を遡る。
戦の日々を送っていたある日。
一人の少女がある丘の真ん中に木の苗を植えた。
少女は、祈った。
「戦のない世界になってほしい」
毎日繰り返される戦で犠牲になる者は、決して少なくはなかった。
武士として己の信念を貫く者。
世界をも見通そうとしている者。
学問によって国を変えようとしている者。
どの命も神にとっては、大切な命。
少女は、戦のない世界をこの木に願った。
その日から木は、驚くような速さで成長していった。
人々の願いを叶える木へと変わった。
そして、現代。
「人間とは、なんと愚かな生き物なのだろうか。この世は、欲望で満ち溢れている」
ここへ植えられたあの日から、私は見ているのだ。
この国の歴史を・・・・
欲望のままに生きる醜い人間よ。
私は、再度忠告しよう。
現実を正しく見通せ。悪は、悪だと言うのだ。
見て見ぬふりをするな。
私に願いを叶えてほしいとやってくる人間は、数多くいた。
しかし、聞いてみればなんとも欲望に忠実なことか。
「金持ちにしてほしい」「あれが欲しいから今ここに出してくれ」
本当に人間とは、愚かな生き物だ。
あの日、私に命を吹き込み、国の平和を願った少女はどうなっただろうか。
おそらく、すでにこの世には生きていないだろう。
彼女の言葉は、本心から言っていた。
どうか、平和であってほしい・・・・
信念を感じた。熱意を感じた。
まるで、新選組のような信念が。
まるで、吉田松陰のような願いが。
彼女には、しっかり意思があった。
この世には、もういない少女よ。
お前の願いは、私が受け取っている。
あの日からずっと。そして、これから私が倒れるその時まで永遠に忘れることはないだろう。
だから私は、今願う。
「世界よ。革命を巻き起こせ!!」