私をはなさないで
紗里子と『融合』して『神』となった俺は、まず古今東西困っている人を一斉に助ける事にした。勿論、他の善良な人々に害をなすヤツ等は除いて。
過去から未来まで見透かさなくてはいけないから大変だと思ってはいたが、そこは神のチカラ。大して手間な事ではなかった。
しかし、歴史を大きく変える事は人間や文化にとってかえって良くない。「神は見ている」の言葉通り死してから罰を与える事も出来る。
なので、大量殺人犯や古今東西の武将や国の偉い人等は逆にそのまま生かしておき、小さな(人の命が関わっているが)事件から解決する。
[パパ……、私達、結婚してからこれまでどれだけの人達を助けられたかな]
紗里子の意識が俺に問いかける。
[そうだな。億はくだらないな。少ない方なんじゃないか]
俺も紗里子に意識で返した。
[そうじゃなくて! パパ!! 『結婚してから』という所が大事なんだよう!!]
そこは敢えて触れなかったんだがな。
[紗里子はまだ13歳だろう? 日本の法律ではまだ結婚出来ない]
[日本の法律なんてどうでもいいの!! 私達は心が一緒になったんだから]
俺が紗里子を『妻』として迎えるまであとどれくらいかかるだろう。
時間というものを超越した存在となっていながら俺には検討もつかない。
[ねえ、パパ……]
[何だ?]
[私達、ずっと一緒よね? 離れられないんだよね?]
[まあそうなるんだろうな。ゼウスやルシフェルのヤツがチカラを奪わない限り]
そう言って、しばらく沈黙が続く。
また紗里子が意識を送ってきた。
[パパ、今までありがとう。それと……]
[何だ]
[これからもよろしくね]
ああ、こちらこそ、と俺は紗里子に意識を送った。
ーーと、考えた所で、『意識』の中で何かがざわついた。
まるで、俺と紗里子の中に何かが紛れ込んでいたように。
この『意識』は……?
[おい、ルナなんだろ?]
[バレましたかニャー。ずっと黙っていたのに]
なんて事だ。 ルナがここまでくっ付いていたのに気付かなかったとは。人間達を助ける事に夢中だった。
[2人が青い光を放った瞬間に、サリエル様の命令で紗里子に飛び移ったんですニャー。サリエル様曰く、『護さんが紗里子におかしな事をしないように、見張っていなさい』との事だったですニャー]
[おかしな事って何だよ!?]
[おかしな事はおかしな事ですニャー]
紗里子の意識がコロコロと笑ったように感じた。
[もう、ルナったら! じゃあ、パパがパパで、私がママで、ルナが子どもね!]
そんな冗談は言って(意識して)も、俺と2人きりじゃなくて紗里子が残念がっているのをハッキリと感じられる。
猫を混ぜた結婚なんて聞いた事もない。
[それじゃあ、そろそろ意識を飛ばそうか]
俺がそう考えたら、紗里子は不思議気にした。
[『人間界』の俺達を作るんだ。2018年の春に。そうしないと百やサマンサが慌てるだろう]
神になったあの日の朝に、俺は俺と紗里子とルナの存在を地上に分け与えた。そうすれば、人間として生活している自分達と『意識』を共有できる。
ちょうど、ルシフェルやゼウスが人間の姿で現れていたように、だ。




