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ヤンデレ少女

 


  「うふふふ、ちょっと両手を出してちょうだい」


  嫌だと言う間もなく、ヤンデレ少女ララは俺に手錠を掛けた。

  本物らしい。どこで入手してきたんだ。


  「お父さんが警察官なの。手錠の紛失でお父さんは降格しちゃったけど、仕方ないわよね」


  「リリィ・ロッド!!!」


  俺のピンチを救う為に(?)リリィ・ロッドはきちんと転移してきたが、俺の手には収まらず無残にも地に落ち、転がった。


  「何よ、この変な棒」


  ララはリリィ・ロッドを蹴飛ばし(『棒』に触った人間は魔法少女になってしまうのだが、彼女の場合は靴越しだったからセーフだったようだ)、リリィ・ロッドの百合の花を形取った部分をグリグリと踏み転がした。


  これでもう、俺は魔法少女にはなれなくなってしまった。


  「素敵な秘密基地があるの。一緒に行きましょう」


  ララは嬉しくて仕方ないといった表情を浮かべて俺の両手を掴んだ。

  蹴りを入れて逃げようかとも思ったが、気付いてしまった。


  彼女には、隙がない。空手か何か、武道でもやっているようだった。

  普通の少女である俺は返り討ちに遭ってもっと酷い目に遭わされてしまうだろう、と思った。


  しかし、たとえ返り討ちに遭ってもここで何とかすべきだった。


  公園を歩いていた街の人々に助けを呼ぼうとしたが、「仲の良い友達同士」にしか見えなかったらしく、皆は微笑ましげにこちらをチラ見して去っていった。


  おまわりさーーーん!! こっちです!!!


  俺の心の声が虚しく響いた。





  連れていかれた先はオートロック式マンションの一室であった。


  「お父さんとお母さんが、ここで勉強に集中しなさいって。馬鹿よね。子どもに別室なんか与えておとなしく勉強だけする訳がないのに」


  全くその通りだ。ララの言う通りだ。

  しかもお父さん警察官だろ? どういう教育をしてるんだよ。


  「お腹空いたでしょう? ご飯作るわね」


  「……今、お腹空いてないからいい」


  トホホといった感じで返答すると、ララの目が光った。


  「ねえ? 私の事、嫌い?」


  「嫌い」なんて答えようものなら何をされるか分からない。


  「い、いいえ……。嫌いじゃないよ」


  「何だか棒読みみたいね。嫌い、なのね?」


  俺は急いでブンブンと首を横に振った。


  「じゃあ、好き?」


  「好き……ですよ……」


  ララは至福といった表情を見せて、こう言った。


  「嬉しい! じゃあ多少お腹が空いてなくたって私の作った物、食べて……くれるわよね……?」


  「はい……」


  俺は仕方なく返事をした。


  「その前に、脚を縛らないとね。私が料理している最中に、逃げださないように」


  俺は仰天した。それだけは、魔法少女としての沽券に関わる。


  「お願い! それはやめて!!! だって、ホラ、おトイレとか……。困るでしょ?……」


  「おトイレなんか、ここですればいいのに」


  ダメだ、彼女はどうしても俺を離れた場所に置きたくないらしかった。常識を逸脱している。

  普通の誘拐犯だって、トイレくらいさせてくれるんじゃないのか。


  「まあいいわ。パスタを作ってくるわね、アラビアータとペペロンチーノとボロネーゼ、どれがいい?」


  「ぺ、ペペロンチーノで……」


  ペペロンチーノは紗里子がよく作ってくれていた。紗里子が作ってくれたならば食欲をそそる一品だったのだが。


  ジュージューとパスタにニンニクを絡める音と匂いがする。ララは手際よく調理していた。


  俺はその間、どうやってこのピンチを切り抜けようと考え続けていた。そろそろ紗里子が俺を探知して助けてくれる時間だと思ったが、その気配は無い。



  「はーい、できましたよー! 召し上がれ!!」


  調理を終えたララが戻ってきてしまった。

  俺は恐る恐る申し上げてみた。


  「あのう、フォーク……。手錠……。食べられない……」


  我ながらだらしない声だった。


  「あら、私ってば。そうね、私があーんしてあげるね!」


  ララはフォークでクルクルとパスタを巻き、俺の唇に押し付けてきた。仕方なく口を開ける俺。


  「…………!?(マズッ!!!!)」


  「ねえ、美味しい?」


  美味しいも何も、これ砂糖と塩間違えてんじゃねえのか。


  「どう、美味しい!?」


  ララの美しい唇が俺の返事を迫る。


  「おい……しい……でちゅ……」


  「良かった!!」とララは心底嬉しそうに叫んだ。


  「あのね、ニンニクはこだわりの青森産、パスタとオリーブオイルはイタリア製。シンプルだけど茹で加減が重要なのよ」


  確かに茹で加減は良かった。しかし、最高の材料でシンプルな調理法のペペロンチーノをこれだけマズく作れるなんて天才的才能だ、と思った。


  「でもね、お塩の代わりにお砂糖を入れてみたのよ。美味しい訳が無いわよねえ」


  「!!??」


  わざと俺の『愛』とやらを試してみたと言うのか!!??


  末恐ろしい中学生だ。俺は将来この子と人生を共にするであろう男性だか女性だかに心底同情した。そんな物好きがいたらとすればだが。

 

  ララは嬉しさ半分、悲しさ半分といった様子だ。


  「私、マミちゃんとは嘘の無いお付き合いをしたいなあ。でも、マミちゃんは私を傷付けまいとして『優しい嘘』をついてくれたのよね。その辺は嬉しいわ。……でも……これからは……嘘をついたら殺す、から……」

 

  「はい、これ! ちゃんとしたお塩のパスタよ」とキッチンから違う皿を持ってくるララ。

  味なんて覚えていないが、後者の皿は美味かったような気がする。


  「じゃあ、脱ぎましょうか。貴女だけ、全部よ」


  ペペロンチーノをやっとこさ食い終わった俺に、ララは提案した。俺は戦慄した。


  俺だけを裸にして……どうするつもりだ?


  「私が脱ぎ脱ぎさせてあげるね!」ララは張り切った。

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