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ニューハーフ達

 


  次にリリィ・ロッドに連れて行かれた先は……。


  若い女2人が喫茶店で無言で向かい合わせに座っていた。


  俺にはすぐにピンときた。

  なんたって、アツコさんやけんれいもんいんさん、そして百合姉さんのキーキに『教わった』同性愛の世界だ。


  綺麗なお姉さんの2人組だった。だがその表情は浮かなかった。

  片方のお姉さんがテーブルの横に立っていた俺をチラリと見て、すぐに目を逸らした。


  魔法少女の俺をこんなに見事に無視したのはこの人が初めてだった。



  ……いや、でも、何か違う。



  よく見ると、このお姉さん達の肩幅が普通の女性より広い。化粧もナチュラルメイクとかいうのとは違って濃すぎる。

  そして何より、椅子に座っていても分かる程背が高い。


  『ニューハーフ』、もしくは『女装家』だなって事が分かった。

  しかしニューハーフ同士で恋愛関係に陥入るものなのかどうかは俺には分からなかった。


  「……凛、結婚、するのね。女なんかと」


  凛と呼ばれた『お姉さん』は、紅茶のカップをカチャリとソーサーに置いた。


  「旅館の、長男坊で一人っ子だからね。両親が待っているの」


  「外部の人に頼めないの?」


  「うちの旅館は100年以上続いているけど、ずっと長男か長女が継ぐ事になってる。逃げられないのよ。両親も心配しているし、もう年だわ」


  どう考えても、リリィ・ロッドに連れてこられるような案件ではなさそうだ。

  俺は帰ろうとしたが、凛さんは呟いた。


  「……東尋坊にする? それとも富士の樹海で手を繋ぐ?」


  「それもロマンチックね。でも外は嫌だわ。2人っきりで、睡眠導入剤を飲んでお風呂場で手首を水につけましょう」


  おいおいおいおい。

  心中自殺の相談かよ。

  これまでもリストカットをしていた人達に出くわした事はあるが、こんなに盛大に死に方を話し合っている人達は初めてだ。


  俺は話しかけた。


  「ねえ、綺麗なお姉さん達。『とうじんぼう』って何?」


  すると、凛さんではない方の『彼女』が初めて俺に気が付き、キッと睨んだ。


  「知らない人に声をかけるなんてどういう育ち方をしてきたのかしら。しっ、しっ」


  俺は犬か猫を追い払うかのような扱いを受けた。

  すると凛さんがなだめた。


  「蘭、まだ子どもじゃないの。邪険にする事はないわ。変な服着てるけど」


  「お姉さん達、心中したいの?」


  俺は単刀直入に切り込んだ。

  これには、俺を庇ってくれた凛さんも険しい顔付きをした。


  「お嬢ちゃんは気楽そうね。お姉さん達の事は構わないでおいて。……ああ、別に『お兄さん』と呼んでくれても構わなくってよ」


  凛さんは自嘲気味に言った。


  「……でも、凛。女なんかと結婚して後継はどうするの? いくら貴女がバイセクシャルだからって本当に勃つのかしら」


  おっと、この話題は俺が首を突っ込んじゃいけない所だ。何しろ今の俺は中学生少女だからな。しかもかなり小柄な。


  「蘭、心配しないで」


  凛さんは言う。


  「好きでもない嫁なんかと夜の生活をしたりしないわ。するもんですか」


  そして、


  「それに……。蘭、私は今から貴女と死ぬんだから」


  ここで俺の登場だ。


  「ねえねえ、心中なんかしちゃダメだよ。ご家族も悲しむし、何より貴女がた自身の目が『死にたくない』って言ってるよ」


  「さっきから何なのよ、このガキは!! 子どもの頃からコレですものね、だから女は嫌いだわ!」


  いや俺中身は男ですけど。

  しかも心中を止めるのに性別は関係ないと思うんですけど。


  「分かりましたわ、おね……。お兄様方。私がこれから心中にピッタリの所に連れていって差し上げます」


  「はあ!? 何言ってるのよこのメスガキ」


  俺は、まあまあと凛さんと蘭さんの手を握り、リリィ・ロッドを使ってワープをした。


  行き先は……。

  玉川上水だ。

  以前百が太宰治のファンというか、成り切りをしていた事を思い出し連れて行ったのだ。


  しかし当然ながら今現在の玉川上水はチョロチョロと少量の水が流れるだけの小川で、ここで心中するなんて言ったら笑われる所であった。


  「ちょっと! 何いきなりこんな所まで連れてきてんのよ!? アンタエスパー!?」


  蘭さんが叫んだ。エスパーか、まあいい線いってる。


  「この通り、こんな小川で心中なんてできっこありません。でも」


  俺はなるべく神妙になるように続けた。


  「やろうと思えば出来ない事もないでしょう。ずっと水に顔をつけていればね。貴女方の手と手をロープで繋いで、お互いに水から顔を出させないようにするのです」


  凛さんと蘭さんは顔を見合わせた。

  その顔は恐怖と不安に歪んでいる。


  やっぱりそうだ。

  この2人、元から心中なんて考えてなかったんだ。自分に酔ってただけなんだ。


  「お望みなら、東京タワーのてっぺんまで連れて行って差し上げてもいいですけど。ただし、人のいない深夜にね」


  ニューハーフだか女装家だか、とにかく2人は不幸ごっこから目覚めた。


  「じゃ、じゃあね、可愛いエスパーさん……。私達、電車で帰るわ」


  そう言って凛さんと蘭さんはそそくさとあさっての方向に行ってしまった。


  「旅館の立派な主人になれよ」


  俺は凛さんに向かって呟いた。

  それにしても、俺が第三者として玉川上水まで連れていかなかったら、2人はどうしていたかな。

  案外、お互い引っ込みがつかないまま本当に心中していたのかもしれない。


  リリィ・ロッドは、久しぶりに『事件が起こっている最中』ではなく『事件が起こる直前』に俺を連れて行ったのだった。



  「エコエコマザラッコ、エコエコザルミンラック、エコエコケモノノス……」


  俺は節をつけて、迷子になっている2人の背中に活性化呪文をかけた。

  同性愛者ってのも大変なのだな、と思い、俺は去った。


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