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地獄

 


  「紗里子!? どうしたんだその傷は!?」


  学校から帰って来た紗里子が、魔法少女のままで右肩から血を流していた。


  「ん……。大丈夫よ、パパ。ちょっと『悪魔』にやられただけ……」


  「大丈夫って事ないだろ! エコエコマザラッコ、エコエコザルミンラック、エコエコケモノノス!!」


  俺は魔法少女に変身して回復の呪文を唱え、紗里子の出血を止めた。

  これで少し休めば、元気が出てくるはずだ。


  紗里子が悪魔に狙われているというのは本当の事らしいが、直接攻撃を受けるのは初めての事だった。


  「そいつはどんなヤツだった!?」


  紗里子は横になりながら口を開く。


  「小さい、ゴブリンみたいなやつよ。急いで魔法少女に変身したんだけど、間に合わなかった……。心配かけてごめんね、パパ」


  心配? 当たり前の事だ。

  天野美歌さんーーミカエルに紗里子を託し、俺はその『ゴブリンみたいなやつ』を追う事にした。

  ミカエルなら紗里子を守れるはずだ。


  それにしてもルシフェルは頼りにならない。何の為に紗里子の同級生をやっているというんだよ。


  俺はムカつきながら『ゴブリン』の行方を探した。


  「リリィ・ロッドよ! 紗里子を傷付けた悪魔の元へ!!」




  しかし、そこは初めて行った『地獄』だった。


  地獄ーー悪魔の住まう場所。


  魔女の世界には行った事があるが地獄とはこんなにも荒廃した所だったんだな。

  天は赤黒く、砂漠が広がっていた。

  ルシフェルはこんな所の王をやっていたのか。人間だったら1時間で気がふれるところだ。


  ゴブリンのヤツは鋭く尖った耳と長い尻尾を持つ、恐ろしく醜い姿をしていた。


  魔法少女の呪文は『魔女』には効かない事は分かっていたが、果たして悪魔に対してもそうなのだろうか。

  いや、でもこの前の悪魔は灰にできたし……。


  ーーと、考える間も無く俺はゴブリンの首を手刀でぶち切っていた。

  さすがサリエル、こんな時の為に肉体的にも戦えるよう俺をバージョンアップさせていたのだな。


  ゴブリンは断末魔の声をあげる事もなく死んだ。


 

  「紗里子、もう痛くないか?」


  家に帰って紗里子の様子を伺った。


  「もう、全然大丈夫だよ。パパが呪文をかけてくれたから……。ありがとう、パパ。足手まといになってごめんね」


  紗里子の側に付き添っていたミカエルは無言でうなづき、部屋を出て行った。


  「紗里子も、もう少し強くならないといけないな。1人でいる時に自分で自分の身を守れるように」


  俺は帰りの途中で魔女の世界に寄り、魔力を強めるというリンゴを取ってきた。


  偶然サマンサにも会って「ンマー! 男の人に戻ったんじゃありませんでしたの!?」なんて言われたが、紗里子の緊急事態という事でろくに話もせずに人間界へと戻った。


  「このリンゴを毎日食え。魔力を増大させる為に」


  ミカエルに剥いてもらったリンゴを紗里子に食べさせてから、また休ませた。


  それにしても、サリエルが魔女の世界の女王になるまでは多少怖い思いをしても直接攻撃してくる事なんて無かったのに、これは重い問題だ。

  俺は紗里子の寝顔を見守りながら考えていた。


  夕食は紗里子の好きなカレーで、家政婦ミカエルに言いつけたようにちゃんとニンニクが摩り下ろされていた。


  「美歌さん!! このカレーとっても美味しい!!」と紗里子は大喜びの様子を見せたが、内心ではまだ怖がっていたのは明らかだった。


 

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