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仮説

 


  クリスマスの日に人間界の言語が乱れて以来、一番大切な親族や知り合いの安否を確認するのを忘れていた。


  リリィ・ロッドに連れ回されるままに、『虫』の退治に追われていたからだった。


  両親や姉、それに遠山達はどうしているだろうか。


  親族の方は……。俺が紗里子と同じくらいの少女の姿になってしまったから会いに行くわけにはいかなかった。「誰、貴女」って事になるだろう。

  実家の様子を見るのは、紗里子に任せる事にした。


  俺は遠山の住むマンションにテレポートし、人っけの無い部屋の中を見渡した。


  遠山は独身だ。居るとしたらこの部屋以外にないと思ったが、まさかこの状態の中で外出しているのか。食料の調達にでも出たか。


  すると、バスルームから人が出てくる気配がした。水も出ないのに、風呂に入っていた訳でもあるまい、と思った。


  「遠山!」


  「ああ……魔法少女『マミ』か。来てくれるのが遅かったじゃないかよ」


  「すまん」


  果たして遠山は水を汲み置きしておいたバスタブで身体を洗っていたのであった。

 

  遠山はこの5日間で痩せこけていた。

  家にろくな食料のストックも無かった様子で、ただ一つ正解だったのは2リットルのミネラルウォーターを箱買いしていた事だった。

  「いつ震災が来るか分からないからな」等と言っていたが、食料が無いのは手落ちだ。


  俺は早速、魔女の世界から『輸入』してきた食料を遠山にふるまう。ヤツは物も言わずにガツガツと食べ始め、やがて食べながらこう言った。


  「なあ昂明、この状態は、いつまで続くんだ?」


  「知らん」


  俺は遠山の質問にごく簡単に、そして正直に答えた。

  遠山は夢中で食料を口に運びながら、なお俺に質問する。


  「こうなってしまったのは、昂明、お前の親分だっていう、その、ルシフェルってのがやった事なのか」


  俺は腕組みをし、回答につまったが、遠山に質問された事で自分の頭の中を整理するかのようにたどたどしく答えた。


  「直接的には、ルシフェルのせいではない、と思っている。むしろヤツは人間界を救おうとしている節があるな。この状態を引き起こしたのは……。どちらかと言うと、悪魔ではなくて『神』の方なんじゃないかと思ってる」


  ブッ、と食物を吹き出す遠山。

  後で拭いておけよ。


  「ゲホ、ゲホ……。ま、参ったなあ、神か。その存在には気付いてなかった」


  遠山は咳き込んだ喉を宥めるように水を飲んだ。その水も魔女の世界から汲んできたとっても美味しい水だった。


  「しかし、そうだよなあ。悪魔や魔法少女がいるんだから、神だっているよなあ。で、それが何で人間界をこんな風にしたんだ」


  「それも分からないが、今人間達は悪意に満ちているからな。それが神の逆鱗に触れたから、とかじゃねえかな」


  「で、それをどうして悪魔であるルシフェルが救おうとしているんだ」


  あらかた食べ終わって人心地ついた遠山は、本格的に現状を探ろうとしていたようだった。

  壁には遠山の描いた人間界の美しい風景画が飾られていた。


  「さあな」


  俺は紗里子の心臓に彼女の両親を閉じ込めたルシフェルに対する憎しみもあり、冷静に判断する事が出来ずにいた。

  遠山は遠慮がちに言う。


  「昂明。俺はオカルトマニアだからこんな突飛な事しか言えないんだが……」


  「ん?」


  俺は遠山の言葉に耳を傾けた。門外漢からの意見というのは案外的を射ている事があると思ったからだ。


  「人間界を救うってのは、結果的には良い事だろ? その良い事をするってのは、まあ、現状では神に逆らう事になってるかもしれんが」


  「……ああ」


  「『ルシフェル』は、元々は天界の3分の1の天使を従える大天使だった。それが堕天して、地獄が出来た。合ってるよな?」


  「そうだな」


  俺も色々と調べてきた。悪魔に関する書物は、紗里子の心臓の件から先、色々と読んできたのだ。

  遠山は続ける。


  「元々は、天使っていうのは人間を善に導き、悪魔は人を堕落させる。でも昂明、お前達魔法少女がやってるのは天使のやってる事と同じじゃないか?」


  ……何だか、俺が聞きたくない話題に入りそうだった。だが遠山は構わずに続けた。




  「これはもしかして、もしかしてだけど、そのルシフェルってのは、悪魔をやめて天使に戻りたがっている……いや、それ以上に、人間界を浄化して『人間界の神になりたい』んじゃないのか?」



  「冗談じゃねえ」


  紗里子や紗里子の両親をあんな目に遭わせておいて、今更神になりたいだと? 調子に乗るのもいい加減にしろ。

  そして……、それがヤツやリリィ・ロッドの言う『偉大なる計画』だってのか?

  聞かなければ良かった。


  「『ルシフェル様は神になりたい』なんて、ラノベのタイトルみたいだよな」


  腹が膨れて余裕が出てきた遠山が調子に乗った。


  と、リリィ・ロッドがまた呼び出しをしている。


  「悪い、遠山。また来る。食料や水は置いていくからな。むやみに外に出るんじゃねえぞ」


  「ああ、来てくれて助かったよ。ありがとう」


  俺は遠山を残し、次の現場へと向かった。


  しかし、その『現場』には、白井美砂ーールシフェルと。

  紗里子がいた。

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