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村の祭り

 


  「@'★→#〒.**am>◁!?」


  ふんどし姿の徳ノ進に連れられて転移した先の親方が、俺達の姿を見て絶叫した。訳すと以下のようになる。


  「何だお前ら!? 祭りは中止だぞ!?」


  派手なゴスロリ姿の俺達を見て、祭りの見物客だと思ったらしかった。無理もない。

  俺は説明した。


  「俺達は祭りを見に来たんじゃない。この村の混乱を抑えに来たんだ、アンタ達がしでかしているような事を、な」


  言葉が通じる俺達に一瞬たじろいだような様子を見せたが、後ろに控えている徳ノ進を見て事情が分かったらしかった。


  よく見れば、緑深い美しい村だった。


  「徳ノ進、お前余計な事をバラしたな?」


  徳ノ進はたじろいだが、それでも後には引かなかった。


  「K♪|^÷◼︎▷△×◎@&<!」


  「親方様、いつものかっこいい親方様に戻ってください!!」徳ノ進はそう言っているのである。


  「ケッ、何言ってんだか分かんねーよ」


  親方と徳ノ進は意思疎通が出来なかった。

  ーーそれでも、俺と紗里子の目からすれば親方がまともでない事が分かる。

  あの目。

  『虫』に魅入られた者の見せるドロンとした独特の目だ。これは直ちに取り除かなければいけない。


  「フォルスン アベルトロルテイル ベル・ゼブブ!」


  いつも通り『虫』を吐き出させる為の呪文を唱えた。

  親方はーー何の親方なのか知らないがーー首尾良く『虫』を吐き出し、その後ワッと泣き出した。静かに男泣きに泣くとはとても言えない、慟哭に近いものだった。


  「徳ノ進、すまねえ。世界がこんな風になっちまって、不安を和らげる為にあんな事しちまった。許してくれとは言わねえ、ただお前の心に傷を付けた事を芯から謝る」


  「と、親方は言っているぜ」


  俺は親方から徳ノ進へのメッセージを通訳してやった。


  「親方様……。これが本当の親方様なんですね。親方様の本音なんですね」


  「と、徳ノ進は言っているぜ」


  俺はまた、徳ノ進から親方へのメッセージを通訳してやった。

  2人は泣きながら抱き合い、


  「○+=\◆♯々$%〆÷!!」


  等と叫んでいた。


  「2人だけでもいいから、100回目の祭りを盛り上げていこう!!」


  と言っているのであった。

 

  「パパ、この村のお祭りってどんなのかな、見てみたいね」


  紗里子が興味を持ったようだった。

  それを聞いた親方と徳ノ進は、


  「是非是非、見に来てください。貴女がたは恩人ですからね」


  と歓迎してくれた。祭りは、本来その日の夕方から行われる筈だったのだ。


  俺と紗里子は村外れの倉庫に案内して貰い、その全長5メートルにもなる神輿を見せて貰った。

  金色のひらひらが無数に施された、どこか銀杏の木を思い起こさせる立派な神輿であった。


  成る程、こんな素晴らしい神輿を100年目にして見せられないなんて勿体無い。

  かと言って、そのボリュームの神輿を親方と徳ノ進だけで動かすなんて見ただけで無理があった。


  村の歴史にお節介するのはなんだが、俺と紗里子は魔法を使って『お手伝い』をする事にした。俺はこんな時こそ魔法を使いたい。


  「エコエコマザラッコ、エコエコザルミンラック、エコエコケモノノス!」


  俺が活性化の呪文を唱えると、親方と徳ノ進は2人で10人分のチカラを得て、神輿を持ち上げた。


  「&<÷:〜〜・¥▪️!!」


  「凄い、何だコレは!! チカラがみなぎる!!」


  と、言っているのであった。


  村の歩道を神輿を担いで練り歩いているとーーそれまで怯えて家から出てこようとしなかった男衆も女衆も窓やドアから顔を出し、懐かしげに神輿を見上げていた。

  それは、自分達の人間らしさを取り戻した一瞬であった。


  「◆◇!」


  「△◀︎!!」


  「俺も!」「俺も!!」と男衆はみるみる内に神輿に近付き、やがてふんどし姿(サラシを巻いた者は1人もいなかった)の男衆が神輿を勢い良く上下に担いでまさに祭りらしい景観となった。

  女衆も涙を流しながらその光景に見惚れ、家にあった米をありったけ使って握り飯を作り、疲れた男衆の為に振る舞った。


  その様子は、一旦まるごと地獄に堕ちた人間界の、僅かなる希望の光に俺には見えた。

  その祭りは夜の10時まで行われた。


 

  「お二人には、なんとお礼を申し上げればいいか……。お嬢ちゃんも、ありがとうね」


  俺と紗里子は親方と徳ノ進に深々と礼をされていた。「いえいえ、そんな」と遠慮する紗里子。「パパ……マミが活躍しただけで、私は何もしてないです」と恥ずかしげだった。


  「小さな村ですが、今回の事で団結力を固める事が出来ました。意思疎通は、ジェスチャーや絵で出来る限りやっていきます」


  親方は、徳ノ進の肩を抱いて力強く宣言した。


  「頑張ってください。また来ます」


  俺達は、ピョコンとお辞儀をしてその場を去った。やはり魔法少女のままでいるのはしんどい。


  帰り道、俺は紗里子に何気なく言ってみた。


  「村が活性化したのは良かったがな。結局、徳ノ進くんは男か女かどっちだったんだろうな」


  紗里子はクスクスと笑い、こう言った。


  「やだな、パパ。気付かなかったの?」


  紗里子だけが正解を知っているようだったが、あえて答えは聞かなかった。まあ、多分女の子だったんだろうが。

 


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