女子小学生が襲われて
パパ大好きの紗里子に俺を巡っての『ライバル』ができた。話はこうだ。
いつも通りリリィ・ロッドに呼び出され、魔法少女に変身して着いた先にいたのは小学校5、6年生くらいの女の子。
誰もいない山の中で。
20代後半くらいのいかにも変質者と分かる怪しげな男に悪戯されかかっていた所だった。
男に覆い被されながら、いやだ、いやだと泣き叫び必死で抵抗する女の子。
「フォルスン アベルトロルテイル ベル・ゼブブ!」
俺はお決まりの、『虫』を吐き出させる呪文を唱えた。
案の定、男の口からは『虫』が飛び出した。吐き出した時は苦しむ事などなかったが、男はグッタリと横たわったままだった。
ーーと。
「何ふざけた事してくれたんだよ、このオヤジ!!」
なんと、その女の子は抵抗出来ずにいる男にゲシッゲシッと何度も蹴りを入れた。何度も何度も何度も何度も……。
「ーーあの、その辺で許してあげたらどうかしら。その人、後で警察に連れて行くから……」
紗里子は逆にどうしていいか分からないといった表情をしている。
しかし女の子の怒りは収まらない。
「何だよ! アンタあたしがこのオッサンに何されてたか見てたんでしょ!? 殺してもいいくらいだよ!! いや、レイプ犯はチン◯ちょん切ってもいいだろ!?」
確かにそうなのだが女の子が◯ンポちょん切るなんて言葉を使っちゃいけない。
俺はまず魔法少女の変身を解いて、女の子に滔々と言い聞かせた。
「いい? まず、女の子がそんな下品な言葉を使っちゃいけないわ。それに、そこの男の人のライフはもうゼロよ。……身動き出来ない弱い者に本気で蹴りを入れるだなんて、ソイツが貴女にした事と大差ないわ」
「大差ない、だって?」
女の子は吐き出すように言う。
「こっちは将来を滅茶苦茶にされかけたんだよ! 蹴りぐらい入れられて当然だ、バカ!!」
まあそうなんだけど。この子の激情を抑えるにはどうしたらいいかな。
そうだ。この子にとって思いもつかなかったであろう事をすれば、少しはクールダウンしてくれるんじゃなかろうか。
それが、一般的ではない方法だとしても。
ーー俺はーー女の子の頬に、キスをした。
ぼうっとする女の子。まるで、それこそ魔法にかかったみたいに大人しくなってしまった。
「ちょっと、パパ!?」
いつも冷静な紗里子が怒りの叫びを上げる。
「落ち着いて、紗里子。……ねえ、貴女名前は何ていうの?」
「……林菜乃花」
俺はゆっくりと噛んで含ませるように菜乃花に言う。
「貴女の将来は済んでの所で守られたわ。ーー今のところね。でもこれからだってきっと幸せが待ってるわよ、だって貴女とっても可愛いし、頭も良さそうだもの」
菜乃花はぼうっとしたままで俺の言った言葉を繰り返す。
「……可愛い……? 頭が良い……?」
俺は最後の締めに入った。
「そう。それに、これからもし菜乃花ちゃんがこんな目に遭いそうになったら、お姉さん達がまた助けにきてあげるからね」
「…………」
菜乃花はようやっと落ち着いたようだった。
紗里子はプンプンしていた。
男を警察に連れて行き、菜乃花がされた事を警察官に訴えると。男はその場で逮捕となった。
ようやっと事情聴取が終わって外に出ると、菜乃花は紗里子を無視して俺に語りかけた。
「ねえ、お姉さんの名前、教えてくれない?」
「私? 私は昂明マミ。こっちは紗里子」
「あ、そっちの人はどうでもいいから」
紗里子が激昂する。
「どうでもいいってどういう事よ!!」
俺は紗里子を宥める。
「まあ、まだ小学生じゃないの……。菜乃花ちゃん、これからは気を付けてね。知らない人の車に乗らないように」
菜乃花は「好きで乗ったんじゃないよ、無理矢理乗せられたんだよ」と警察に言った事を繰り返した。そして、
「あたし、可愛いなんて言われたの生まれて初めて」
菜乃花は顔を赤らめた。
「マミ姉さん、これからよろしくね」
そう言って菜乃花は俺に抱きつき、ーー驚いた事に、俺の唇ーー唇にだーー口付けをした。
可愛らしい紗里子の顔が般若のそれに変わった。
「ねえマミ姉さん、貴女のケータイ番号教えて? これからも会いたいから」
「冗談じゃないわ!! パパにキス……キスするだなんて!!」
家に帰って紗里子が叫ぶ。
「おまけにあの菜乃花って子、パパに抱き付いてる間に私にアッカンベーしたのよ!? 信じられない、助けなきゃよかった!!」
「でも助けなきゃ助けないで後味が悪いだろ……」
「まだ小学生の癖に、ませた子!! そんなんだから変なのに狙われるのよ!!」
紗里子らしからぬ怒りっぷりだ。
「まあまあ、また『虫』を一人分駆除できた分良かったですニャー」
「ルナは黙ってて!!」
紗里子の物凄い剣幕に押されて、ルナは仕方ないですニャー触らぬ神に祟りなしです、といった様子でいつものフカフカのベッドに向かっていった。
「パパ、勿論あの子とはもう会わないわよね!?」
紗里子は『娘』というより旦那に浮気をされた『奥さん』みたいな調子で俺に詰め寄った。
「いや、そのつもりだけど……」
しかし。
その時、菜乃花からメールが届いてしまった。
【マミ姉さん、今度美味しいお刺身屋さんに行かない?? またマミ姉さんに会いたいな(ハートマーク)】
小学生の癖にお刺身屋さんとはまた渋い選択だ。
「絶っっっ対、駄目!!」
紗里子が目を尖らせて叫ぶ。
しかし、菜乃花のメールは如何に無視しようとも鳴り止まない。
仕方がないので、一回だけ菜乃花に付き合う事にする、と言ったら、紗里子は「私も行く!! またキスなんてされたらたまったもんじゃないわ!!」と興奮していた。
「パパは私一人のパパなんだから!!」
我を忘れてパパパパ言っている紗里子の姿に、百はキョトンとしていた。




