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魔法&科学

 


  さっきサマンサは、


  「人間界の女の子は地味で個性が無い」


  と聞き捨てならない失敬な事を言い放った。って、俺が怒っても仕方のない案件だったが。

  だがそこで俺は、新宿は新宿でも南口の方に向かう事にした。

  以前その辺でゴスロリ少女達がパーティーをやっているのを見たのを思い出したからだ。


  さあ少女達よ、人間界……、いや、日本人の『カワイイ』魂を見せてやれ。


  しかし、紗里子はそれをよしとせず、サマンサをデパートに連れて行く事を提案したのだった。


  「色んなお店が入ってて、色んなお洋服を売っているのよ。サマンサにも見て貰いたいのよ」


  紗里子が勧めたのは某巨大デパート。周辺のビルとは違って、ちょっと古めかしい外装のそのデパートは、よく見てみれば魔女の世界にもありそうな建物だな、と思い出した。


  「……何だかレイのお屋敷に似てますわね」


  そのデパートを見て、サマンサはそう呟いた。

  彼女も、俺を『最強の魔法少女』にした張本人ーー魔女の世界の姫君であるレイのお誕生日会に出席していたという事だった。


  参加者は凄い人数だったからあの場では紗里子と会う事もかなわなかったようだが。


  デパートは3階が婦人服売り場らしかった。沢山の若い女性達でごった返していた。

  秋を簡単に通り越して冬物のオンセールであった。


  「売ってる物も、やっぱり地味じゃないかしら? あら、でもこのキラキラが付いた上着は、結構……」


  等とサマンサも楽しんでいるようである。


  「サマンサちゃん、いつもオレンジ色のワンピースしか着ていないものね。気になってたのよ。いいわ、紗里子。私達でサマンサちゃんに似合う他の服をコーディネートしてあげましょ!」


  という百の提案に、サマンサは、


  「他の服、ですって!? いいかしら、私の着ているこの衣装は、魔女としての誇りある証! それをよりにもよって人間界の服に着替えるだなんて……。そうよ、 簡単に脱ぐ訳にはっ……ああっ!!」


  しかして聞く耳を持たない百によって試着室に無理やり押し込められ、オレンジ色のワンピースを剥かれてしまったようであった。


  ここから先は、中身がおっさんである俺の出る幕ではない。年頃の女の子達に任せておこう。


  あーでもないこーでもないと散々脱ぎ着させられたサマンサは、試着室の中で「ああ、おやめなさいっ!」「ああ、こんな格好したらお母様にっ……!!」等と悲鳴をあげていた。


  「ジャーン! マミ、どう!?」


  紗里子と百が同時に試着室のカーテンを開けた。


  その中に居たのは。

  白くフワフワのウサギの耳付きケープと、グリーンとイエローを基調にしたチェック柄のワンピース、茶色と黒の縦縞模様を施したタイツを履いた『誇りある魔女』たるサマンサ嬢。


  「こ、こんな格好……! は、恥ですわっっ!!」


  「えー!? そんな事ないよサマンサ、とっても可愛いよ!!」


  「私が見立てたんですもの、間違いがある訳がないわ」


  おっさんの俺としては、頭上にあるウサギの耳に笑いを堪えるのが必死だったのだが、これが彼女達の『カワイイ』なんだろうと思った。

 

  俺も話を合わせてあげる事にする。


  「うん! サマンサちゃん、こういう格好も似合うのね。だって……普通の女の子だものね。とっても可愛いわ!」


  「『普通の女の子』……? 『可愛い』……?」


  しまった。

  『魔女』である事に誇りを持っている彼女に『普通』は無かったか。俺はしくじった、と思った。


  ーーところがーー。


  サマンサは、鏡に映る自分に見入り、何度もポーズを変えて自分と洋服を眺めていた。まるで『女の子』扱いされた事を自覚するように、


  「『可愛い』……? 『可愛い』……?」


  と呟きながら。


  その様子を見た紗里子は、俺に耳打ちした。


  「パパ、あのお洋服、サマンサに買ってあげてくれないかな……? とても気に入ってるみたいだし」


  「うーん……。……え?」


  持ち合わせあったかなあ。


  「お願いします。私、今年のクリスマスプレゼント何にも買ってくれなくていいから」


  サマンサは相変わらず鏡に見入っている。心なしか、恥ずかしさと自罰の表情の中に嬉しげな様子が見て取れた。


  「……あ、私がお金出すんでもいいけど……」


  紗里子がしおらしく言う。


  「……仕方がないな。パパが出すよ」


  「やったあ!! パパ、大好き!! 本当に、大好きよ!!」


  我が事のように大喜びして俺に抱きつく紗里子。


  「ねえ、せっかくだからその格好のまま街を歩きましょう、サマンサ」


  紗里子の声に「え!? いいんですの!?」とびっくりするサマンサ。

  百は、


  「そうね。せっかく似合うんだからタグを切って貰ってお出掛けするのもいいかもしれないわね」


  と賛成した。




  足取り軽く、ワンピースをヒラヒラさせながら街を闊歩するサマンサに、今度はこの街で1番目立つ『ビル』を見せてあげようと西口に向かった。

  「有事にはロボットに変身して都民を守る」と言われたあの高層ビルだ。


  広場に立って、高層ビルを見上げる4人。


  「これは……他の『ビル』とは一線を画してますわね……。なんの為にこんな形にしたんですの?」


  不思議そうに尋ねるサマンサ。


  「さあね、箔をつける為じゃないかしら」


  と返答する俺。分からんもんは分からん。


  「せっかくだから最上階に行きましょうよ」


  百の提案でエレベーターに乗る。


  最上階では、街の景色が一望できた。晴れている昼間はもっと鮮やかだったろうが、あいにくもう日は暮れかけていた。


  「……人間は、飛べないからこんな風な高い『ビル』を造るんですのね」


  と納得気味のサマンサ。


  「そうかもしれないわね」


  と俺。俺は続けて言う。


  「サマンサちゃん。貴女達『魔女』さんは魔法を使って何でも出来るわ。でも、人間はね、その代わりに『科学』を発達させたの」


  「『カガク』……?」


  そうか、分からないよな。


  「人間の使う『魔法』よ。ーーいいえ、私達人間は『魔法』に少しでも近付く為に、『科学』を発展させたのかもしれないわね。不思議なチカラが使えないから頭を使う。それが『人間』なのよ」


  サマンサは黙っていた。


  「マミ! サマンサ! 貴女達、さっきから何ワケの分からない会話してるのよ!」


  百のチャチャが入ってしまった。仕方ない。


  俺達はロボット高層ビルを降り、遠山とよく行く老舗の美味い天ぷら屋を目指して歩を進めた。

  が、子どもだけでは駄目だと店員の人に断られたので、適当な店に入って夕食を済ます羽目になってしまったのだった。

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