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美女軍団

 


  異世界から帰ってきて早数日。

  いつものようにヌードの紗里子をモデルにして仕事をしていた。


  俺はあれ以来考え続けていた。


  もし、紗里子の本当の父親が魔女の世界に隔離されていると考えると、人間界よりあっちの世界を探し回った方が効率的なんじゃないか。


  紗里子の母親は、十中八九本物の『魔女』だろう。

  もしかしたら、レイの『偉いお母様』は何かを知っているんじゃないか。

 


  それにしてもこのおっさん魔法少女の俺を『最強の魔法少女』に仕立て上げたレイは、一体何を期待していたのか。

  まあいつでも元の姿に戻れると聞いて一安心だったが、レイはそれを良しとしなかった。


  ルシフェル。

  ヤツは何を考えて人間界に『虫』を解き放ったのか。そしてそれを俺達に後始末させようとしているのか。

  俺は考え続けていた。



  ガチャッ。


  「入るわね」


  「入ってから言わないで」


  陸野百が悪びれずに仕事場のドアを開けた。そして、


  「だーれだ!?」


  筆をとっている俺の後ろに回り込み、目隠しをした。

 

  「……誰だも何も、百ちゃんでしょ」


  俺は百の手をゆっくり振り払う。まあ、この前みたいに浣腸されるよりはマシだと思った。


  「あったりー!! あーあ、またヌードなんて描いて。言っておくけど貴女達、百合なんてまだ早いわよ」


  この前俺(少女)の頰にキスしたくせに。

  アレは百合じゃないっていうのか。


  「貴女達って、従姉妹だか何だか知らないけど仲良すぎないかしら? 女の子同士でヌードだなんて」


  「あら、知ってるはずだけど。『マミ』は素晴らしい芸術家なのよ。そのモデルになれるなんて下着だろうがヌードだろうが従姉妹として光栄だわ」


  紗里子が話を合わせつつ反論する。

  百は思い切り背伸びをしてあくびをした。


  「いいけどね。ただ、私はマミからのアドバイスをお願いしたいの」


  「アドバイス? どんな?」


  一応聞いてやる事にした。


  「私も、将来漫画家あたりにでもなろうと思ってるの。普通の職業は私には無理って悟ったから。だからマミからはどうやったら手取り早く絵を描く職業に就けるのか教えてほしいの」


  「漫画家? 良い夢じゃないの。少しは絵の練習してるの?」


  「まさか」


  百はその美しい目を歪ませるようにニヤリと笑顔の形を取った。


  「いちいち描かなくてもいいのよ。才能は私の脳内に眠っているからね」


  「いや、描きなさいよ」


  思わず俺と紗里子で同時に突っ込みを入れてしまった。

  猫のルナは相変わらずこの部屋の一番暖かい所で昼寝をしている。

  人間の脳みそを持つ猫だから、普通の猫のようにキャンバスで爪研ぎをしたり絵の具をガシャンと倒したりしなくていい。


  「……ところで」


  百は俺の髪をマジマジと見て、言った。


  「マミ、貴女の髪はどうして金髪なの? 染めているのかと思っていたけども、いつまで経っても『プリン状態』にならないから不思議だったの。染めに行っている様子も無いし……地毛で金髪なの?」


  ……そうなのだ。

  俺は金髪少女だった。

  おっさんだった頃は普通に黒髪だったのに、この姿になった途端どういう訳か金髪になってしまった。


  「……アバンギャルドってやつよ。私もよく知らないけど」


  何て言って誤魔化した。誤魔化しきれてないが。

  髪の毛がひと月分伸びて『ちょっとボーイッシュな女の子』みたいになってきている。

  あと1年もすればツインテールが結えるまでにはなるだろう、と思った。別に結いたくはないが。


  百は、俺が『学校に通っていない事』に対しては何も言わないのにこういう所にはよく気が付いたのだった。


  でも切りに行かなくちゃいけないんだろうけど。

  前に紗里子が「せっかくだから伸ばしてみたら」等と言ったからそうする事にしていた。

  それにしても若返りや男女逆転はいいとして(よくないが)何で金髪なんだろうな、とは俺も思っていた。



  「ところでね、提案があるの」


  百は嬉しそうに言った。

  こういう表情をする時の百は大体くだらない事を考えている時だった。


  「私達のグループ名って、まだ決まってないでしょ? それで私考えたの。『美女軍団』っていうのはどう? 『美少女軍団』じゃない所が肝心なのよ」


  俺は百のあまりのセンスの無さに慄然としてしまった。

  このセンスのまま大人になったらどうなってしまうんだ?

  他人事ひとごとながら頭を抱えてしまったというのが正直な所だった。


  そのトンチキな提案とやらを聞いて、ただでさえストレスが溜まっている紗里子は畳み掛けるかのようにお断りの言葉を紡ぎだす。


  「まず、何故グループ名を付けなければいけないのかが分からないし、そしてもし付けるにしても貴女はここに少しの間預かっているだけの居候であってグループがあったとしたってその一員ではないのよ。グループ名は私とパ……マミとで付けるわ」


  結局グループ名付けるのかよ?


  「ハイハイ、相変わらず生真面目でノリが悪いのね、紗里子は」


  百は自身が年下の女の子に呆れられているのにも構わず、紗里子に対して逆に呆れ返したようだった。


  「そんな、女の子らしくない貴女達にプレゼントがあるわ」


  何だかまたイヤな予感がした。と言ってもそれは百とは関係の無い所にあった。


  「有名なシュークリーム屋さんのご馳走チケットを貰ったの。……義母ママから、ね。大人気で行列必至なお店よ?」


  そう言って百は、ファンシーな色をした3枚のチケットらしき紙を、ひらひらと見せ付けるようにした。


  「あ! 『リカミエ』!! 知ってるわ、猫さんの形をしたシュークリームのお店ね!!」


  紗里子が目を輝かせた。

  そのリカミエとやらは年頃の女の子には憧れの店らしかった。


  『猫さんの形の食べ物』と聞いてルナが眠りながら身震いする。


  「そう、しかもこのチケットなら行列に並ばずイートインできるのよ? どう? 行ってみたくなったわよね?」


  「行く、行く!!」


  紗里子と百は珍しく意気投合している様子であった。

  俺はと言うと、まだイヤな予感が収まらなかった。


  ちなみにグループ名の件は特に無かった事になったようであった。


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