第八話 フリーズ
キラキラとした微笑みで迎え入れられたのは重たい雰囲気の部屋
ちなみに理事長室
1、2の3で踏み込もうとかそんなことは全然なくあっさり通されたのは少し前
僕が座る二人がけのソファの前には二人組の自由な方達
苦笑いな僕の顔を見ながら笑う
魅惑のオーラを持つお二人と
その両サイドには変なおっさんとすごく気分のムラがはげしい子
ちなみに僕はこの4人が絶対に得意じゃないと思う
四十人も居たクラスメイトの中でどうして僕が呼ばれたのかはまだわからない
成績そんなに悪かったかな?とか頭の中で考える
そういえばこの間の中間考査やばかった気がするけど、きっと最下位じゃないと思う。
それに、稜真の方がきっと悪い。はず
うん、そうだったよねきっと!。という無意味な言葉を呪文のように心のなかで呟く
どう考えても呼ばれた理由がわからない
僕はついさっき、ここに連れて来られた
どうしてこんな自由人満載のこの部屋にのこのこ付いて来たのかって?
理由は簡単
きっと幼稚園に入りたての幼い子だって首を大きく縦に振ってわかると思う
『はい、じゃぁ久城くんは私達と一緒に来なさい』
と、理事長
『そうですね、その方が話もしやすいと思いますし』
と、冠梛さん
『うちの理事長が言ってるんだから速くね、久城くん』
と、悪魔的な笑いを含んだニノ宮さん
『ほっほっほっほっほっほほほほぅっ』
と、意味のわからないおっさんの笑い
まだ僕が何も声を発していないのに事態はあれあれという間にすっかり進んで、僕の腕は二人の理事長の腕によってずるずると引きずられる
『え…っちょっ!?稜真っ!!!』
助けて!!!
という目線を送ると、諦めたような声で
『じゃぁ俺もう先帰るから、繭頑張れよー』
左手を振りつつ、思いっきり爽やかな笑顔で送りだされた
その時僕が泣きそうになったのは言うまでもないんだけど
ねぇ、だいの大人がどうして高校生を強引に脇に抱えて歩き出すの?
ちゅうぶらりんな足下が嫌になった
あと数センチ身長さえ高ければ。という無意味な言葉が溜息と一緒になって外に流れる
***
目の前の美麗な少年は、さっきから思案顔で僕達を見ている
どうしたのかな?という疑問は無い
彼が今何を考えているかが僕達には手に取るようにわかるからだ
きっと今から話す話をしたら、とんでもなく驚いてくれるに違いない
その綺麗な顔がどんな風になるのかが楽しみでどうしようもなくわくわくしてしまう
思わず顔がにやけそうになるのを、隣の神楽さんが笑いながら止めてくれた
さて、どこから話をしよう?
僕は眉間にしわを寄せる彼に照準を合わせる――――――
***
「名前、きいてもいいかな?」
まず向かい合った冠梛さんがこの重たい空気を切り裂くような澄んだ声で僕に問いかけた
説明を付け足すとすれば、その周りにはとってもきらきらしたもので溢れていて、思わず目を瞑っていたかったくらい
後ろから後光がさしているんじゃないのかと今までの数十分で僕が何度思った事か。
そんな人に聞かれたんじゃ答えないわけにもいかず
緊張でのどから言葉がするする漏れない自分をもどかしく思いながら僕はなるべく笑顔を作った
「久城 繭 です、はじめまして」
何が初めましてで何が今更名前名乗ってんだよ?とかそんなことを頭の隅で考えていたけど、今はぶっちゃけどっちでもいい
「繭くん?っていうんだ。良い名前だね」
思わずこっちまでにこにこしたくなるような笑顔だ
眩しい、と思う前に神楽理事長がお茶を差し出して来た
―――――のを僕の左右にいる意味わかんない二人がこぞって奪い合う。
それからその二人はなんて無惨で醜い争いでしょう
カップが割れそうな勢いで何か聞き取れないような速度で言い合ってる
関わりたくない僕は、視線を机の上に集中させた
その時、ふとどっしりとしたような声が聴こえてきた
「ところで、久城くん。話があるんだが聞いてくれるかね?」
と言ったのは神楽理事長
左右の二人にお茶を奪われたことには一切関心がないみたいだ
というか、止めないの?あの二人は放置するってことでいいの?
その前に話ってなんだ話って
いきなりすぎる。というか、僕はいつ帰宅できるんですか?という疑問を飲み込んで僕は首を縦に振る
ちなみに眼力に負けそうで目を合わせてられないからだ
断れない威圧感に負けて今にも泣き出しそうになる僕は、訳もわからず拳を握った
え?目から変な汁が出そうだって?
気のせい気のせい。声なんて微塵も震えてないよ?
うんうん。今凄い平常心。
心拍数?上がってないでしょ〜いつもこのくらいだってぇ!
あ、どうしよう。頭の中で変な妖精さんと会話が出来そうだ。
と、思いかけた途端に理事長がえほん、と咳き込んだ
「実は、久城くんには我が校の代表として桜華桃欄学園へ行って欲しいと考えています」
は?
僕の思考はそのままフリーズ状態
意味のわからないまま、試合は続行
満面の笑みで僕をみる冠梛さんの顔はすごく楽しそうなのはどうしてだろう……
僕はついさっきまで屋上で食べていたカツサンドを思い出しながら、深く溜息をついた
帰れるものなら帰りたい。
いつだって後悔はあっという間にやってくる