第四話 空席
まだぼやける視界の中で、悪い顔をした稜真が拳骨を握りながら僕を見てニヤリと笑った
後頭部がじんじんと焼けるように痛い
短い悲鳴が口から溢れた瞬間に、自分が寝ていたのだと気付いた
大分寝ていたようで、もうすでに転入生は自己紹介とかを始めている
眼が合いそうで合わない彼女の視線は緊張していて、思わず
見てから吹き出しそうになるのを堪えた
僕が突然前をただ見ていることに対して、稜真はまだ寝ボケているとでも思ったのかしつこく机をばしばし叩く
「おい、もう始まんだって!」
「…言われなくてもわかってるってば、稜真。」
僕はわざと頭をさすりながら不機嫌そうな声を出した
その時、黒板の前に立つ女の子の声が僕の耳まで届く
「改めて 初めまして ニノ宮円です」
興味の無い僕の心臓が一瞬揺れた
ニノ宮さんが、僕を見て笑ったんだ
***
どうして僕なんかと眼が合うんだ?
って思ったのは、目線が離れてからそう時間も立たない時だった
もしかしたら、眼が合った瞬間にそう思っていたのかもしれない
兎に角僕はそう思った
でもそのにこやかな笑顔を無視してしまうのはなんだかあまりにも可哀想で
僕はつい営業スマイルをしてしまった
本心では笑ってない
もしかしたら、その所為で顔が引きつってたのかもしれない
だとしたらごめんって心の中で呟いた
転入初日から向けた笑顔を無視されるなんて僕だったらどうなっちゃうんだろ?とか考えて、上手い具合にスルーできなかった
こんな些細なことでときめいててどうすんの
っていうか、そもそも今自己紹介中なのにこのことばっかりで全然聞けてないじゃん
会話とか、できんのかこんなんで
どうすんのもしもすごい特殊な趣味とかだったら―――――!?
(※この瞬間、僕の頭の中には何故かオカルトとか宇宙とか、超マイナーな物集めみたいなことしか映像として流れなかった。ほんと僕って思考力低いな)
その時、前から稜真の声が危ない妄想に吸い込まれそうな僕を救ってくれた
無事、僕は稜真の目の前に意識を置く
実際またうとうとしてただけだけど、そんなことぶっちゃけ気にしないでほしい
僕は目をこすりつつ、「ごめん、稜真」と返事を返した
まぁ案の定 飽きれたような声が耳の中に響く
「お前はさぁ…、なんかもうちょっとましになれ?」
本気で
その一瞬で僕は稜真に眼で殺された。
「はい」
切り返しを速めたのは言うまでもない
……じゃないとほんとに死ぬって
はぁ、と溜息をついた時 ふと、僕の耳に言葉が降ってきた
「一番後ろ、あそこね。座っていいから」
ハッとして担任を見ると、若干面倒くさそうに僕を指差してへらへら笑った
次あの顔を僕の半径一メートル以内で見かけたらあの薄い髪の毛全部抜いてやるという殺意を黙殺して、僕は半笑いの担任の存在を心から取り除く
そんな僕とは無関係に、やけに緊張した顔の転入生は僕の席の隣の空席に腰掛けた
その間には、よろしく といった表情でにこやかに挨拶
クラスメイトが浮きだっているからか、僕の気分が余計に浮いて
なんだか噛み合ない気分が増長する
稜真までなんだか笑ってるし 参るから、やめてよ
「あの、これからよろしくね」
そこまで思うと、もう声をかけられた
「え?あ、うん。よろしく」
ひらひらと手を振ると、柔らかい笑顔が返って来た
長い髪の毛が風になびいて
僕はもう一度窓の外へ視線を向ける
途端、五月蝿い声が右耳を貫いた
「ニノ宮さんってさぁ、どっからきたの〜?」
あ。俺の名前は畠中稜真ね。こっちは繭。よろしくー。
稜真が若干僕まで含めた自己紹介を終えている
というか、なんで僕の名前まで言うの?いじめ?ねぇこれいじめだよね?つかなんで僕に喋る隙与えないくらいの絶妙なタイミングで話すの!?
不安に溺れそうな高校2年生の幕開けはいよいよ溜息からスタートしそうだ
12の3で駆け出すには重い気分がまだ抜けない
どうせなら起こさないでそのまま眠りにつかせてくれればよかったものをわざわざ起こしてくれちゃって
この馬鹿イケ面め
僕は稜真の頭をものすごい渾身の力で小突いて、喋り過ぎ。とわざと短く言った