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その弐拾 捻者ニ者二律背反

 神楽さんの『俺のお節介あーんどお人好しが好きなのよ発言』から、三日目の今日


 もしかしたら、今日もいないんじゃないか?という俺の予想を遥かに裏切り、神楽さんは優々とソファに腰掛けいつものごとく仏頂面で昨日俺が独りきり永遠と待ち続けていた部屋の中にいた


 カチャリとドアを明けた時の、あの言い表わせない微妙な神楽さんの反応


 あのーすいません、そんな『君なんでそんな顔してんの?』みたいな表情を俺に向けるのは止めて下さい。俺は驚きとか嬉しさとかで心臓が一時飛び出るかと思ったんですが、……あの、この顔に何か問題でも?


 つか、見つけた瞬間俺はチュウケンハチ公みたいな複雑な気分になった

 いつも通り過ぎて、ここ二日の俺は杞憂そのものかよ。という突っ込みが展開される 



 え?なにその普通加減????



 って俺が眼をして神楽さんを見ると、思ったよりも普通に気味悪がられた

「何、どうかしたの君」


 僕なにもしてないでしょ、あきらか。みたいな瞳を向けないで下さい神楽さん!


 俺悲しくなるから!?っていうか、そもそも二日も無断で休んだりとかしないで下さいよ!俺がどんだけ心配っていうか気にしたと思ってらっしゃるんですか!?つか、勝手に気にしてろよ的な雰囲気になりそうだから言わないけどね!!!絶対言わないけどね!!!


 ……まぁ、言えるはずもないんですが。


 とりあえず何か一言言っておこう、そう思った俺は、苦笑いをしながら自分を頬をぺチペチと叩く。そのまま息を深く吐いて、軽く笑顔を作った

 ちゃんと笑えているのかが心配だけど、とりあえず口を開く


「あ、いや。別に何も。」


 というか神楽さん、一昨日からどうされたんですか?―――――もうすぐ卒業なんですから、風邪でもひいたら大変ですよ。


 無難な言葉を選びながら俺はそう続けて、いつものように掃除用具を手に取った

 俺の言葉の後に、まるで心外だとでも言うような声がした



「僕は風邪なんかひかないよ。大体、僕がその日欠席にでもなるようなことがあったら、即卒業式中止する」



「はぃ!?」

 頭の中に、『中止する』という声のエコーがかかってる


 つかそんな!あんまりですよ神楽さんっ!?

 なにその実力行使!!!あぶないから!めちゃくちゃ危ない発言だからそれは!?

 っていうか、言い換えると、あんた『卒業式中止できます』ってことなんじゃないの!?


 全校生徒に向かって喧嘩売ってるとしか思えませんよ?

 まぁ、別に誰も文句とか言えないけどね?


「……それは色々、何かもう意味わかんないほどの人の不安を煽るので止めて下さい神楽さん、」


 俺がそう言って掃除を開始すると、お茶。という無言の神楽アプローチが来た。

 何故か神楽さん、そういうときカップを俺に突き出すんだよなぁ……



 ―――――――え、パシラレテル? 



 ごほん、ゲホッゴホゴホゴホッッ!

 (※今まで気が付かなかったことに対しての自己嫌悪発生※)

 いやいやいやいやまさか。まさかね。もうなんてーかそのまさかじゃね?つか初めの時点で気が付け?みたいな?うん?



 ――――――もういいや、この際何も気にすまい。

 


 今日の自分に誓っておこう。

「ちょっと、」 

 その時、俺の中に渦巻く疑問に気付きもしない神楽さんの不機嫌な声が、宙を彷徨っている俺の耳に激突した。途端慌てて、神楽さんの近くまで駆け寄った


 いつもながら、思ったよりも小さいんだな。と思ってしまう


 俺の顔がにやけたのか、そうじゃないのかという間で、神楽さんは思い切り不機嫌な声を出した


「ねぇ、お茶。」


「はい、神楽さん」


 俺は未だむせ返る喉に手を当てながら、神楽さんからカップを受け取った

 小走りでポットまで駆ける

 袋から粉をカップへと入れ、温かいお湯を注ぎ込む


 ふわぁとした香りが、漂った頃に、神楽さんにカップを手渡した


「どうぞ、」

 その言葉に、神楽さんは怒ったような顔をした

 きっと、カップの中身を身体のあたたまるようなモノにしたのがいけないんだろう。

 俺はすぐに察しがついたけれどあえて黙って聴いた


「………僕、風邪ひいてないって言ったでしょ」


「まぁ、あの、そうなんですけど なんとなく」


 すいません、と俺が言うと、別にいいよ。と言いながら、神楽さんがカップを口元へと寄せて、一口啜った


 その時の、嬉しそうな、美味しそうに飲む顔は俺を一瞬で嬉しくさせた


 でも言ってやらない。そんなこと

 ――――――じゃないとなんか、俺ばっかり悔しいから

 

「美味しいですか?『レモネ―ド』」


「………まぁまぁじゃないの、別にまずくはないけどね」


「そうですか」


 そんな顔して飲まれたら、その台詞説得力に欠けますよ、神楽さん


 俺は笑いを噛み締めながら、掃除を再開した


 レモンの香りが、ほんのりと部屋の中に残っていた

  




 ***




 

 あと四日後となった卒業式まで秒読み段階と迫った所で、ようやく生徒達の練習がスタートした


 神楽さんや、生徒会のメンバーが何ヶ月もかけて準備をしたことで、全校生徒にかかる負担は、塵にも無いと言って良かったのだけれど


 俺達一年生が、何か特別な事をするわけでもなく、なんとなく整列や、時間

 その他の面倒臭い指示の説明を受け、パイプイスを一人一人が運び、丁寧に位置付けした

 紅白のカーテンらしき垂れ幕や、ピアノの音の調律

 年に何回もやるわけではない真面目な掃除を俺達はなんなくこなし、その日の解散が言い渡されたのは、もう日が随分と傾いた頃だった

 俺の前に座る、いつもなら涼し気な顔をした稜真も、今日は幾分疲れて見える

 なんだかクラス全体の雰囲気も、どことなくそんな感じがしたのは、そうやら気のせいでもないらしい

 担任の解散という声を聴くなり、一目散に廊下へと飛び出していく

 

 あっという間に、教室の中には俺達だけになってしまった


 稜真は、鞄を持ちながら「あれ?繭まだかえんねーの?」なんて言っている


 ………お前はさっき先輩に呼び出されてただろ、


 心の中でそう呟いてから、稜真に向けて無言の視線を送った

「なんだよ?」

「はぁー、」

「だ か ら!何だよって言ってるだろ?」

 稜真の声に、俺は遠い気分になる

 さっきの卒業式の準備の間、俺達一年生の間には、何人かの先輩が紛れ込んだ

 その時、丁度稜真の真横にいた俺は、先輩の言葉が運悪く耳に入ってしまった


『ねぇ稜真くん、あとで頼みたいことがあるんだけど、いいかな?』


 告白、だ。確実に

 ピンときた俺の思考は、一気に真っ暗闇に突き落とされた

 どんどん顔が青ざめて、冷たい汗がじんわりと背中を伝う

 運が悪い。悪すぎる、こんなの聞いてしまうなんて。

 先輩の言葉に、稜真はいつものように頷くと、にっこりと笑って返事をした


 俺は怖くて、どうしても稜真の顔が見れなかった

 こんなにも近く 隣に居るのに


『いいですよ、』


『いっ今は時間がないからっ、放課後ね!ごめん、宜しく!』


 ちらりと稜真を見てから、頬を染め上げて先輩の姿は見えなくなった

 その姿を確認してから、俺は横にいた稜真の顔を確認する


 なんとなくだけれど、稜真が何故か寂しそうに溜息をついたから、その顔がどうしても気になって

 

 稜真はその時、言いようの無い顔をして、深く溜息をついていた

 稜真、と俺が声をかけた瞬間に、その顔は笑顔にかき消されて、稜真の本当の表情が読めなかった

 垣間見せた『本当』の稜真の顔は、何故か神楽さんと重なった


 ―――――俺がもしも、言えるはずの無いことを言ったなら、神楽さんもこんな風に溜息をつかなくちゃいけない?


 押し殺さなきゃいけない?

 他人の前で弱い自分で居ることなんて、あなたには出来ないから

 溜息をつく自分を、笑顔で隠すでしょう?

 

 後でずっと一人で寂しいのは、全部あなたなのに


 きっと被害者ぶるのは、俺みたいな人間やつで、虚勢を張るのも俺みたいな人間で

 でも一番傷付くのはあなたでしょ?


 なんで泣かないの

 どうして怒らないの

 なんでいつもそういう人達が悪役なの?

 何も悪くないのに、いつもいつも重たいの背負わされて、ないがしろにされて、

 どうして俺達は、他人も同じように傷付くの解ってるのに、最後には泣いてしまうんだろう

 本当に泣きたいのは、もっと違うよ

 こんな悲しさじゃないよ


 俺達より傷付くはずの人は、本当は優しいから


 だから、稜真はあの時嫌な態度も取らずに笑顔だった

 神楽さんもそんな風に、あんな壊れそうに笑われたら、俺はどうしたらいいのかわかんないよ――――――


「おい、繭?聞いてんの?」

 飛びかけた意識の中に、稜真の声が割り込んできて、俺を引き戻した

「え?あぁ、うん。聞いてる聞いてる」

「っていうか、俺そろそろ行くかんな?」

「ぅ、うん……いってらっしゃい稜真」


 稜真の『行く』という言葉に、少しだけ戸惑ってしまった

 俺には何故かその顔は、もう決意を固めたということが解ってしまったから


「何言ってんだよ?いってらっしゃいとか、今時誰も言わねーって!」

 笑いながら手を振る稜真に手を振り替えして、俺も席を立った


 決めたんだ、ちゃんとさよならを言うって


 残り僅かな日に願いを託しながら、俺は東塔へと向かう廊下に足を踏み出した

 せめて、最後くらいは泣かないでいられますように

 強く強く願った


 この気持ちは、忘れるんだって何度も何度も  

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