その弐 初出逢危険体験談
俺の名前は久城 繭
東高等学校第一学年中央風紀委員会所属、一応無理やりな形で庶務係を勤めてる、きっと学年で一番女顔の男だなって自分で思えるくらい女みたいな顔がコンプレックスの塊の現在16歳の独身。ついでに血液型はO型。身長は最低あと二十センチは欲しいと思ってる。
こんな馬鹿みたいな生活がはじまるまでの俺の生活の糧といったらただ貪るように日々に噛じり付いていただけで何も無かった
そう空虚で空しさだけのようなそんな日常
常日頃世界は廻るっていうのに、俺の頭はちっとも働かないしおまけに身体も働かなかった
そう、随分となまけた死活を送っていたわけだ
でもそんな俺でも流石に高校にだけは行っておかなければと宣戦布告の如く両親から告げられたのは説教でも何でもなく普通に話された
が
意外と説教でもなんでもなくしんみりと頼み込まれるように話されたのが自分自身痛かったのかそこからは勉強一直線真面目に取り組んだわけである
まぁ友達もそこそこ、適度なつき合い方をしてきた俺としては両親の希望で高校生活を決める方が容易く、まぁまぁ安易かもしれないがそこそこの進学校にスレスレでも入学を果たす事が出来た
お察しの通りそこでの成績は下から数えた方が遥かに早いが、そんなことは気にしないで頂きたい
とまぁそんなこんなでこの高校にピカピカの一年生としてはいってきたのが今から2ヵ月前の春のこと
その時はまだ、この校舎にこんな部屋があったなんて気付きもしなかった
気が付いたのは今から一ヶ月前のお昼時
はじめてカツアゲとかいう趣味の悪い先輩の遊び相手に任命されてしまった
あの暖かいお日さまとは対照的なジメジメした廊下のすみっこだった
「あの、すいません言ってる意味が良くわから無いんですけど」
とかいいながら半ば必死で逃げたがっていた俺はついつい目線を離しまくって顔をそらしていた
「だーかーら、金。貸してくれればいいんだってば俺達に。いいだろ?別に」
よくない
まぁそんなこと行ってる余裕なんて無かったから周りを見渡してみるけど、やっぱり目の前には先輩2人しかいなくて、俺の横を同級生は素通り
そりゃそうだよな納得だ
いらない火の粉なんて浴びたく無いのは俺だって一緒だ。多分俺が逆の立場だったらそうしてるし、見ないふりで通り過ぎるんだろう
だからってひどいなんて言ったってそんなのこと後でいくらでも言い包められるだろうし
なんてこと考えてたらいよいよ胸ぐらを思いきり掴まれて揺さぶりをかけられた
「おい!きいてんのか?まさかここまできて無いですなんて言うんじゃ無いだろーな?」
ため息をつきたくなるのを我慢して俺は口を開いた
「だからさっきから・・・・」
何度も言ってるじゃないですか、意味が分かりませんって
と言おうとして開いた口は塞がらなかった
俺が口を開きかけた瞬間、目の前で俺の事を掴み掛かってきた先輩は真横に綺麗さっぱり吹っ飛んで、おまけに傍にいた先輩はしりもちをついて床に這いつくばっていた
何が起きたのか俺には理解が出来なかった
非力な俺が何か出来たわけじゃ無い、しかもこんな突風みたいな風どうやって起こせたっていうんだ?
ガタガタ震えていた先輩は我に帰ったのか、さっき飛ばされた先輩の方へ駆け寄って意識を確かめている
「おい!大丈夫か!?しっかりしろよ!」
頬を叩くぺちぺちとした生々しい音が微かに聞こえてハッとして気が付けば俺の目の前には小柄な俺と同じくらいの背丈の女の子(正確には胸に付いていた校章の色が藍色だったので先輩)が剣道で使う竹刀を持ったまま(何故?って思ったのは俺が冷静になってからだったけど)ぽつんとして立っていた
「何してるの」
そのこの小さい口からそんな言葉がもれたのはそれから少しして、というかさっき俺をカツアゲしようとしてた先輩方がこっちにいる女子の先輩に気が付いてからだった
でも先輩方は明らかに表情がおかしく、そしてガタガタと震えている
が、次の瞬間驚いた事にさっきとはうってかわった態度でこっち歩み寄ってきたのだ
「かっ神楽さん!お久しぶりです、授業にでも出られたんですか?」
いやお前あきらか声色違うだろうっていう声で話し掛けている先輩は俺には無気味に見えてしょうがなかった
あの子に気でもあるのだろうか?
でもそうだとしたらあんな表情で話し掛けるだろうか―――――――――?
そう思いかけた時、薄らと女の子――――――神楽さん?(って名前らしい)は細い指でさっとスカートの裾をはらった
「なんでそう思うの」
「ぇっ?」
よくわからない会話に俺はその場に呆然と立ち尽くして耳を傾ける
指摘を受けた先輩をフォローするかのように今度は別の先輩が口を開いた
「いや、いつもと制服が違いますから」
はははと力無く笑う2人にはやっぱりおかしい
でも俺にはそれが2人だけじゃ無いってことにようやく気が付いた
さっきまで目を伏せるようにして俺の事を素通りしていた同級生も先輩もあきらかにさっきまでとは違う速さで俺達の場所を通り過ぎると言うよりもむしろ逃げてると言った方がただしいのだろう、もはやいつもは混雑しているはずの渡り廊下が今は誰もいない
遠巻きに向こうの方で生徒たちがごった返しているのが見える
俺が向き直ったときには、もう神楽さんはその丸くて、でも切れ目でも大きな瞳で真っ直ぐに2人の事を見ていた
「だから、なんでそう思うのって聞いてるでしょ」
聞いてたのか?いや、だとしたらそこはもしもじゃなくても最後にクエスチョンマークをつけるのでは?
とかいう質問はこの際なしにしておこう、と思ったのは
神楽さんの目の色がさっきとは随分違うことに気が付いてからだった
「いや、かぐらさっ俺達べつにそんなつもりじゃ!な?」
「あぁ、そうなんです!ちょっと新入生をからかってやろうと思っただけで!」
途端慌て始め、あれこれと言い分けを並べ立てるお二方
なんかここまでくるとどうでもいいか、なぁんて思ってたのは俺だけみたいだった
次の瞬間有無を言わさず、神楽さんは竹刀を構える
叫び声が聞こえたのはそれから何秒も経ってない(つか構えた直後に聞こえた気がする)
いや、弁解の言葉が聞こえた直後のような気がしないでもないが、もうそれは俺も怖くなってたじろいでしまったくらいに
声も出なくなって、もう動けなくなった時に気が付いたのだけれど
神楽さんは暫くすると、竹刀を握り直してからボソッと呟いた
「謝れなんて言ってないよ」
って待て待て!じゃなかったらどうなの!?謝れって意味じゃなかったんですか!?っていうか謝る以外にその二人にどんな選択肢があったっていうの!!!ってゆーかあなた様はどちら様!?俺よりがたいの良い男2人をめった殴り(と書いて「滅多刺し」とよむ)にしたよこの人!!
ガタガタと震える身体をとめる事が出来ない俺に神楽さんはゆっくりとちかずいてきた
ってえー!?ちょっまっ待ってくださッぃ!!俺まだ心の準備が出来てません!!!つか親にもそんな竹刀なんかで殴られたことないから!!せめて拳だから!!それかこづかい減給とか!?っていうか何かそれ紅いものがしたした零れ落ちてますよ!?あきらか血がついてるからそれ!!!!!
声になら無い俺の叫びは、喉の奥に空気がつまって吐き出せない
神楽さんの竹刀が不意にふっと俺の視界から消える
どうか神様!
身体をちじこめると同時に両目を瞑って衝撃にたえる―――――――
だが、期待した (いやしてないけど)衝撃はない
「へ?」
恐る恐る瞳を開けると、そこには俺よりひとまわりも小さなてのひらが差し出されていた
「君、立てる」
ただただ呆然とする俺に、「何してるの」なんて声がもれる
俺はハッとして裏返りそうになる声を必死でこらえた
「え?あ、はいありがとうございますっ」
なんで今お礼この状況で言ってんだとかそんなことはあとでどうにでもなる、今はそんなことどうでもいい。とりあえず生きていたことに俺は素直に感謝した。もう泣きそうなんだか死にそうなんだかよく解らない。
俺は握りつぶさないような力か減でそっと神楽さんの手を借りて立ち上がった
小さい子みたいなふわふわした掌はさっきの刺し裁きとは想像もつかないほど柔らかかった
「僕の縄張りで変な事しないようにね、後片付けが面倒なんだ」
そっけなさすぎる言葉ではじまった初めての会話はこんなもんだった
そう、これが俺がはじめて神楽佑璃に会った最初の思い出