その壱拾七 黒猫桃色心情拡大中
今回は神楽ゆーりちゃんな感じで。
惹かれていったのは、いつだったろう
惹かれていったのは いつから だったろう
おぼろげになる記憶をすくい取っては持ち上げて
遠くの方でかざしてみた
くぐもっていて、良く見えない
不満そうな声を押し殺して、もう一度すくい上げて
随分と前から、この動作の繰り返しばかりしている気がする
でもそれもきっと気のせいだ
僕がしていることはただの自己満足
本当なんてそんなモノ、何一つ理解ってない
僕は君のことを何一つ知らないのだから
想っていること、慕っている人 友人 家族
好きなテレビ番組 趣味 気に入っている色 嫌いな食べ物
何も知らない
知っているのは、その日君の身の回りに起こる いつもよりちょっとだけ、少しだけ飛び抜けた事だけ
それだけ
いつもなら誰も気にしないような、誰も気に止めないような囁かな君の笑顔を少し胸の奥に留めておくくらい
そのくらいだ
最近はめっきり僕の前でなんて笑うことはないんだけれど
それが少しだけ、というかとても気にかかる
どうして笑ってくれないの?話がつまらない?僕が怖い?気を使うから話し辛い?
ねぇ、僕のことが嫌い?
それが当然だと、そう言われればそれは当然なのかもしれないけれど
と、心の中でひとりごちた
元々、人に好かれるような性格の持ち主ではない。逆に僕は立場的に、というか周りが僕よりもうんと弱いから怖がられるし、妙に気を使われる事の方が多い
誰でも僕に向ける視線は、近寄りがたいって眼をしてる
今も昔もそれはちっとも変わらない
君もそうだよね、久城 繭。僕の事、面倒だって思うでしょ?
ごめんね、こんなのが先輩で。でも、だからせめて先輩って呼ばれたくなかったんだ。君には、そういう線引きをしてほしくなかったから
これも全部わがままだった
いつだって君は、僕に何も言わないから
小さい頃から曲がった奴が大嫌いだった
口で話すのが苦手な僕は、いつもすぐに手が出てしまう
友達は、その所為で全くいなかった
正しさだけがいつも僕に味方してくれていた
誰にも負けたくないから、勉強は人一倍した。そんな風にがむしゃらになってやっていた時もあった
それで将来が保証されるわけじゃない
約束されるわけでもないし、頭が良いからって幸せになれるとも限らない
ただ僕は、誰にも負けたくなかったんだ
それだけだった
委員会を任されて、適当に人を集めたのはそんな頃
僕が高校2年生になってすぐだった
正しくしたくて、正しさだけが欲しくて
それだけだった
だから僕にはわからなかった。僕の周りには誰一人、笑ってくれるような人がいなかったってことにも、あったかい 気を許せるようなモノがなかったことにも
独りだ って気が付くのに、随分遠回りした
本当は、それを知るのが怖くて 僕は自分から何か大切なものを見逃していたのかもしれないけれど
だけど突然、そんな僕の前に君は現れた
一年前の入学式の日
東塔までの道のりを僕は書類を抱えて歩いてた
新入生の中に誰か委員会に入れようと思って、全員の資料を持ってたんだ
手を貸してくれるような人は誰もいなかった、というか皆他の準備に追われていたから、頼めなかった。わざわざ呼んで来させて押し付けるのも面倒くさいから、僕はそれを一人で持っていくことにして、ゆっくり階段を降りた
その頃は丁度模試があって、式の前日とその日のギリギリまで勉強と入学式の準備で全く寝てなかった僕は、正直ふらふらだった。今直ぐ寝れそうなくらいに
階段がやけにだるく感じて、短く溜息をついた瞬間だった
足下にガクンとした違和感がして、不意に僕は足を踏み外してた
紙の束がいっせいにバラバラになって、僕の両手から思い切り飛び立った
視界が一気にスローになって、身体がガクンと前に揺らいだ
もう僕はそのとき頭が真っ白になってて、体勢を立て直すのも忘れてた
疲れてたのかな、身体が全然動かなくてね。参ったな、いつもならこんなこと、なんともないのにって一瞬思った
覚悟して眼を瞑った瞬間、僕の身体に衝撃がくることはなくて、その代わりにうめき声みたいな―――――そんな弱々しい声が聴こえた
僕が眼を開けると、まだ新しい制服で、胸の所に入学祝いの花を付けたままの君がいた
君は僕を抱えたまま、へらへら笑って、痛そうにその細い腕をさすってた
僕は何が何だかさっぱりだったけど、やっとのことで口に出した僕の声を君はちっとも聞かずに、へらへらした顔のまま、真っ直ぐに僕を見た
「あの、大丈夫ですか?」
自分の心配をするでもなく、突然落ちてきた僕を怒るでもなく、機嫌を悪くもしないで
君は僕にそういったんだ
その時、初めて思った
正しさだけを求めてきた僕は何て馬鹿なんだろうって
こうやって、人の事を叱るでもなく、怒るでもなく、ただ笑って
そうだねって、そのまま受け止めて
ただそのモノ自体の存在を認められる人も居るんだって、
そういうこともあるんだってことに、初めて気が付いた
僕は君に救われたんだ
好きだよ、
ただ君のことが
初めて逢った瞬間を、君が覚えていなくても
いつから?と聞かれても、それは思い出せそうにないけれど
惹かれていったんだと思う
ずっとずっと
君のことが好きなんだ
いつからか、君の事を眼で追うようになった
ただ、三年生の僕と君じゃあまりにも接点が無さ過ぎて、随分と会えなかったから始めの頃は寂しかったな
それはただ僕が一方的に思ってただけだったけど。
東塔の窓から君を見つけたとき、僕がどんなに嬉しかったか知らないだろ?
ずっと見てたから、君が変な奴等に絡まれた時許せなくて
そのまま走り出してたのを僕はよく覚えてる
東塔に運ぶはずだった資料を放り投げて、君まで走った
後で随分後悔した
君はきっと怖がったよね僕の事、
今もそう。僕が少し苛々する度に君は怒ったような、びくびく怯えるような顔をする
もしかしたら君はもう僕のこと嫌いになっちゃったかな、なんてあの時思った
だから、君が離れていかないようにすぐ声をかけた
良い台詞が思い付かなくて、資料を運べって言った気がする
怖かったのか、君はすんなり頷いた
ただ僕は、君に話し掛けられて、君が頷いてくれたことが馬鹿みたいに嬉しくて、そのまま委員会に入れた
もちろん、僕がおじいさまに頼んで
ずるいね、こんなの
僕は馬鹿だ
こんなことしてもなんの意味もなかった
どんどん苦しくなるだけだった
好きとも言えなくて、でも手放したくもなくて
お願い、僕のこと嫌いでもいいから、離れていかないで
心底嫌ってくれて構わない
むしろそうでいい
でも、だからお願い
他の所にいかれるなんて嫌だ
せめて、って何度も何度も心の中で祈ってた
でも君が、一度僕に嘘をついて 休んだ
すごく解らなくなって、今までで一番苦しくなって、
泣きたくなった
だから次の日、校門で見かけた時思い切り殴りつけてしまった
僕は、あぁしまったって思ったけど、君がそばにいただけで嬉しかった
馬鹿みたいに喜んだ
―――――でも、もう終わりにするね
きっとこんな風に僕だけが好きでも、君は困るから
苦しいって思うのは、いつか君が僕から離れちゃうからなんだ
だから、前から勧められてた留学も決めた
好きなら好きだと言えばいい
そう思ったのは、君の友達が僕に向かってそう言ったから
言わなければ伝わらない
そんなことは、何もかわらないことは知ってる
でも僕は、君が好きなような 思い描くような女の子じゃないでしょ?
可愛いわけでもないし、女の子らしいことを君の前でした覚えがない
すぐ手が出るし、無口で堅苦しい
笑うことも少なかった気がする
それに、君はきっと他に好きな子がいる
僕じゃないのなんて解るよ。そんな僕が思い描くような夢物語はありえない
僕はもうイギリスに行くんだ
もし恋人同士になれたとしても、きっとすぐに君の気持ちは変わるよね
それか僕のことが怖いってだけで返事をしたとか
ねぇ、だから言わせて
この言葉の意味は、無かったことになんてしないで
もう二度と、僕に笑ってくれなくていいから
『僕は君のそういうところが好きだよ』
もしかしたら明日から、君のお茶飲めないね
そう思ったら足が勝手に走り出してた
駆け出したら止まらなくて、息が切れるまで走った
君はいつまでそうしてくれるの?
いつまで君は僕に向かって笑ってくれる?
眼を合わせてくれる?
名前を呼んでくれる?
ねぇ、久城 繭。僕がここからいなくなるまでの間に
君はいつまでそうしてくれるの?
突然ですが、ユニーク4000アクセスありがとうございます
コメント下さった方も、毎回励みになってます(●´∀`●)
そんなわけで、ネット小説ランキング様に登録することになりました(どんなわけだとかいう突っ込みは、ガラスのはぁとが傷付くので控えめにしてくれるとありがたいです)←
この作品が気に入りましたら、下に設置したのとかその辺をクリックして投票して頂けるとありがたいです。
ありがたいどころが、海に向かって馬鹿野郎って叫んでしまうベタな展開にしたくなるくらいテンションやばくなります(必死(笑))。
つか、啓至が泣いて喜びます ので、 ←
なにとぞよろすくおねがいします(土下座)!!!!