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その壱拾伍 旋転卍華脈拍崩壊

 振り返って、稜真の背中が見えなくなった頃に気が付いた


 ドクンッドクンッ―――――――ドクンッドクンッ ドクンッ


 俺、久城 繭は多分今までの生涯の中でこれほどにまで心臓の音を自分で聞き取ったことがありません

 というか、はっきり言ってそんなドキドキな状況に今まで自分を投入したくなかったっていうのが、本音だ

 だってこのドアの先にいるじゃん!?

 確実にいるじゃん!!!


 なんで先に帰るんだよ稜真!


 俺はついさっき、横を笑顔で通過した親友を少しだけ恨んだ

 つか、なんだよ用事って。そもそも付き合えっていって俺をここまで引きずって歩いて来たのお前じゃないのかー!?

 俺の問いに本来なら答えてくれるはずの親友は、きっともう家路についているだろう

 悔しいけれど、ちょっとだけ感謝した


 高鳴る心音は、会えることが嬉しくて、寂しいからで、

 きっともう 恥ずかしいとか、そんな理由はどこにもない

 ドアに手をかける手が震えるのは、ただ緊張している所為だ

 言い聞かせることは容易くなくて 俺の体温はもっと高くなっていく

 

 と、とりあえず落ち着け俺。


 ・・・・心の叫びまでどもるとは なんて重傷なんだ

 高鳴る心音がどうしようもない耳鳴りになって、俺に襲いかかってきた

 ドクドクと流れ出る脈は、いつか心の中の小さな俺を押し潰してしまいそうな勢いだ

 どうやら冷静に自分の状況把握ができない限り、色んな意味で俺は落ち着きを取り戻すことはできないらしい

 ・・・・冷静に戻れる気が一ミクロンもしないのは、一体どういうことだろうか


 俺は今、神楽さんがいるであろう部屋のドアの前に突っ立っている


 頭の中でさっきすれ違ったはずの稜真の顔が滲みだした

 どうやって買い出しを済ませたのかも思い出せない

 というか、レジのおばちゃんは誰ですかぁあ!?

 ―――――――どうやら俺自身はプチパニックに陥っているようだ

 解決策が見つからないのでこのまま放置しますね!!!!という元気な感じが伺える

 えーと、できたらなんか励ましの言葉とかないのかな?

 ついでにいうと手汗がひでぇ

 何このベタベタ感は!?ってくらいひでぇ

 

 えぇぃ んなこたこの際どうでもいいんだよ

 気にしてるような場合じゃないだろ!


 さっさとこのビニール袋の中身を渡してしまえ!

 何つまらない私情挟んで神楽さんに迷惑かけてんだよ俺は!?

 もう自分にキレてんのか、この思い切りの悪さにキレてんのか全く読めないよ俺。どんまい俺。

 深く息を吐いて、ドアにかけた手に力をこめた

 

 ガタガタと震える手でドアを開ける


 渇いた音がして、それに続けて右足を捩じ込んだ

 もう左胸が思った以上に音を立てて動いている

 さっきの比じゃないほど、熱くなった気がするのは気のせいじゃないようだ

 息をするのがじれったいほど 今直ぐ駆け出してしまいたいような衝動が押し寄せる

 

 そんな俺を笑うように そっとドアが閉じた


 目の前には、書類で顔を隠したまま机に向かっている神楽さんが見える

 眼が合わなかったことに、ふと安堵の溜息が漏れた

 何故かそんな小さなことに安心してしまう

 もしも顔を見られたら、今の動揺し切った俺を見透かされてしまう気がしたんだ

  

「それで、君はいつまでドアの前に突っ立ってる気だったの」 


 書類で顔が隠れたままの神楽さんのくぐもった声が耳に届いた

 ドアの前でいつまでも自問自答していたことがバレていたのかと思った俺は、瞬時に顔が熱くなる

「えっ?あのっそれはっ」

 出した声が裏がえってしまった

 最悪最悪何この状態

 そんな俺の顔も見ずに、神楽さんは笑ったような声を出した

「―――――冗談、はやくそれ持って来て」

 君遅いんだよ来るのが。って言われたような、そんなゆっくりした音で話し掛けられた

 随分と二人切りになることが久しぶりで、俺は少しずつ忘れていたのかもしれない

 

 本当は、神楽さんはこーいうあったかい人だったってことに


 自分で線引きをしていたことが急に恥ずかしくなった

 神楽さんは俺のこと全然気にも止めてないのに、馬鹿みたいだ俺

 こんな、些細なことで舞い上がって、恥ずかしがって、いちいち悩んで


 情けない


 そんな事を考えるのは、神楽さんにビニール袋を手渡すのよりも早かった

「・・・・一応全部あるね。ご苦労様」

「あ、はい」

 返事を返してから、俺は何かの糸が切れたようにソファに腰を降ろしてしまった

 仕事が無いのは明白だったくせに、まだここにいたいと小さな子供のように我侭を言う自分を抑えられなかったのかもしれない

 それでも、俺の中に甘い時間が流れ出した

 静まり返った部屋の中は、神楽さんが書類のページをパラパラと捲る音しか聴こえない

 窓の外はだんだんと日が落ちて、薄らとオレンジ色の光が見える

 もうじきこの時間もなくなるのか、

 そんな事を考えていたとき、神楽さんの口が音もなく開いて

 細い声で軽く溜息をついた

 その顔はまだ書類で隠れたままだ

「君はいつまでそうしてるつもりなの、」

 ビクリ、と身体に電撃が走った

「え?あ、いや その・・・・」

 すぐに答えられない自分が焦れったくなって俯いた

 ――――――何か、何か言わなくちゃ

 それだけが先走りする

 口からは何の言葉も出てこない

 神楽さんは、そんな俺を気にも止めずに言う

 その眼は俺を見ていなかった



「あのさ、君はいつまでそうしてるつもりなの?」 



 俺の中の回線が完全にショートした

 即座に立ち上がって鞄を持ち直す

 もう考えることも忘れて、顔の前で両手をぶんぶんと振った

「いや、あの!仕事無いならもう帰りますんで!」

「・・・そういうことじゃなくて、」

「、?」

 言われた意味がわからずに、俺は立ち尽くす

 ただ、神楽さんの言葉の続きを待った 

 書類で覆っていたはずの顔を出して、神楽さんは俺を見ていた

 

 神楽さんは今までに見た事の無いような表情をしていた


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