その銃 俺専用無謀選択肢一覧
「繭、お前そんなんでどうするんだよ」
好きなんだろ?って言う稜真の眼は優しい
あぁ、感謝する、こんな誰に話しても笑われるような話をそんなあったかい眼で聞いてくれるなんてそうそう巡り会えるようなもんじゃない。きっと運命だ、うん、俺はそう信じる
でも『神楽さんに告白する』なんて選択肢がこの俺に存在してたなんて
わぉ、そんなドッキリ発言やめてよ稜真
心臓に悪いから、今脳内崩壊しそうなくらいに熱いから
やめてよ、今まだそんなこと考えてる余裕ないのに、
そんな選択肢
あ り え な い
まずあの人につり合わないよ、俺なんて・・・・
どうすんの。まずあの人より格段に戦闘レベル低いんだけど(ものすごく重要項目)
神楽さん理想高そうだし(重要項目そのに)
なんでも自分より上じゃないと嫌だとか考えてたら俺はどうすればいいんだ!?(重要項目そのさん)
基本的になにもかもが下なランクなんですけどっ!?(そのよん)
もしも竹刀が飛んできたら逃げられないんだけど(そのご)
そしてもう二度と神楽さんを直視できないじゃないか(その・・・以下略)
卒業したら何も繋がりが無くなって、
神楽さんが勉強してることろなんて見たことないけど、でもいっつも学年首席で、期待されてて 俺が何ヶ月一緒にいたって、格好悪い所なんて微塵も見せないし
気を許してくれてないのかもって思うけど、それくらい周りに気を使ってて
きっと神楽さんにとってどうでもいい人なんて一人だっていないから
いつも風紀正そうって頑張って、頑張り過ぎて座ったまま寝ちゃうくらい
見えない所で誰よりもきっと影で努力してる人だから
神楽さんは良い大学へ行くんだろうな、とか考えてまた溜息がでた
俺は三流大学に行けるかもわからないのに
この先、
もしかしたらもうこんな風に話すこととか無くなるのかな
もともと世界違うなって感じの人で、最初は取っ付きにくくて、でも笑った顔とかが見れたときは何かすごい嬉しくて、もう魅せられてた
あの東塔の隅の部屋に担任から行かされる前の、資料を運んだ時から
ずっと眼が話離せなかった。微笑んだ顔を見たときから
ずっと俺は 気付かないところで神楽さんのこと見てたんだ
でも もう
あの放課後の 時間が もう
戻ってこなくなる?
この先、神楽さんの声も
姿も言葉も一緒にられた時間も
全部 なにもかも
なかったことになって
なにもなくなって
神楽さんの世界の中から
目線の中から
思い出の中にも
いつか、神楽さんの中から
俺の存在はいつか――――――消えるんですか?
もしかしたら、の 仮定の話のくせに心臓がドクリ、と瞬いた
嫌に短い一瞬はすぐに俺を通過したけど、後味の悪い気分がまだ残ってる
もしかしたらもう俺は、形振りかまってられないのかもしれない
嫌な方へと、勝手に思考が前進していって止まらない
うなり声を上げていないと、もう何処かが壊れそうだった
机の上でうんうんと唸っていると、稜真の呆れたような でもそれでも優しい声がした
「あのさ、繭」
「・・・・な、に」
「・・・・」
「だから、何。稜真」
「そんな泣きそうな声されても困るんだけど」
痛い所を突かれた。俺の声はもうなんかぼろぼろになってきてる
今にも崩れそうな、高い塔のてっぺんにいる感じ。落ちたら最後 もう消えたいくらいに泣きわめいてしまいたい。でもそこで、俺の『男』であるプライドが涙腺を奮い立たせている
もうちょっと堪えて欲しい、とか 懇願するみたいに
とりあえず今人生で一番頑張って泣くの堪えてる高校生ってどうなわけ?とか、今は誰もつっこまないでくれって心の隅で叫んだ
「どうしろとか、こうしろとか、別にお前の人生決められるほど偉くないから言えないけどさ、」
稜真は俺の頭をぽんぽんと叩きながら言う
その顔には、いつもの笑顔があった
今はなんかもういっそ女だったら稜真のに本気で惚れそうだって言える気がする
稜真はそのまま立ち上がって、礼を済ませた
どうやらもう授業が終わるらしい。号令係の声かけがあったのか、俺以外のクラスメイトは全員立ち上がって礼をしていた。その次にはほんのりとチャイムの音が耳の中に届く
出遅れた俺は、稜真の言葉の続きを待って、そのまま椅子に座っていた
射抜かれたような、感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、でもその中で真っ直ぐに
稜真の声は俺に届いた
「一応お前の好きにして欲しいから、後悔だけしないようにな」
それしか言える事ないし、と言って、稜真は歩き出した
「購買行ってくんな、ついでにお前の好きなカツサンドも買ってきてやるから」
待ってろよ、泣き虫。と俺をおちょくって、そのまま稜真の背中は見えなくなった
後悔しないように
稜真の言葉が深く刺さって、心臓を貫いた
俺の『後悔しないように』をするための事はもうわかってる
でも左胸がそれを嫌がるように
ずっと五月蝿く音を立て続けてた
稜真が購買から戻ってくるまで、心音の主張はとまらずに続いた
後悔しないように
それだけを何度も何度も口でなぞった