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幼なじみと旅館ではたらく毎日が普通なわけないよね。  作者: 空超未来一
第2章 認める気持ちと拒絶する心。
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第9話

「……っ……て」

「……むにゃ?」


 バリバリ働きすぎて床につくや否や夢の世界へと旅立ってしまったボクは、誰かに呼ばれているような気がして目が覚めた。

 ……だ、だれ……ふわぁ。

 うーんっと眠たい目をこすると、視界がはっきりとしてきて……。


「……やっと起きたね、カケル……兄」


 ――ボクのお腹の上を、朝ちゃんが馬乗りしていた。ちょっぴりほおが赤く染まっている。


「ア、ア、ア、アサちゃんっ!?」


 ボクの焦りっぷりといったらもうありゃしないね。

 バッとエビのようにピョーンっと後ろに飛び跳ねてしまったので、朝ちゃんがベッドの上でドサッとこけてしまった。

 あわわっ!


「ご、ごめんアサちゃんッ! 大丈夫!?」

「……っ」


 うわあぁぁぁぁあッ! また朝ちゃんに嫌われるぅぅぅうッ!

 ……って思ってたのに。


「……ふふっ、カケル兄あせりすぎっ。わたしは大丈夫だから」

「……ほえっ? な、ならよかったけど……」


 なんともまぁ、かわいらしい笑顔をむけてくれたものだ。

 ……思わず心臓がドキっとしちゃったね。

 高鳴る鼓動をごまかすように、ボクはあいさつをした。


「と、とりあえず。おはよう、アサちゃん」

「うんっ、おはよう!」

「……っ」


 久しぶりに、朝ちゃんからちゃんとしたおはようを受け取ることができた。

 ささいなことなんだけど、すっごい嬉しかったよ。

 昔と変わらない素敵な明るい笑顔。……だけど、どこか違った気がした。


「……大人になってきたんだね」

「え?」

「……えっ!? いや、ごめんっ! なんでもないっ!!」

「……そう?」

「う、うんっ!」


 あっぶなぁッ!? ボクって思ったことをついつい口に出しちゃう癖があるな。気をつけないと!

 ……ところで、なんで朝ちゃんがボクの部屋なんかにいるんだろ?

 そうだよ、そうそう!


「アサちゃん。なんで寝ているボクに乗っかってたのさ?」

「そ、それはっ……」 


 嫌なことを思い出したのか、それとも触れられたくないところに触れられてしまったからか。

 苦虫をつぶしたような表情になる朝ちゃん。

 けれども彼女は、ゆっくりをと口を開いて、


「じ、実は……カケル兄に相談したいことがあったから」

「ボクに相談?」

「そう……」


 あの朝ちゃんがボクを頼ってきただって? やっべ、テンションあがってきた!

 ボクはドンっと胸をたたいて、


「よし、ボクに任せてよっ!」


 なんて大口をたたいてしまった。

 それを見た朝ちゃんは、


「うん。頼りにしてるよ、カケル兄」


 って言ってくれた。

 ボクの胸の奥底で冷え固まっていたなにかがグツグツと煮えだすのを感じたね。

 今のボクにならなんでもできる!


「んで、相談したいことってなに?」

「それはあとで言うね。……それと、」

「それと?」


 まだ何かあるのだろうか?


「わ、わたしがこの部屋にいたわけは……」


 あっ、そのことね! 相談だけならボクが起きているときにきたらいいわけだし。けっこう気になる。


「いた、のは……っ」

「いたのは?」


 ……。


「…………」

「…………」

「やっぱりなんでもなぁぁぁぁぁあいっ!(パァンッ!)」

「ぶへえっ!?」


 いったあぁぁぁぁぁぁあっ!? なんでしばかれたのっ!?


「ハッ!? ごめん、カケル兄ッ!」

「…………」


 理由はさっぱりわからないが。朝ちゃんやい、一言いってもいい?

 若干、気持ちよかったんです。

 ともあれ少し安静にしてから、ボクは朝ちゃんの悩みきくため、彼女の部屋に移ることにした。

 ……ボクが真性のドMだと自覚するのは、また先の話である。



「実は最近、わたしのまわりで変なことが起きてるの」


 朝ちゃんの部屋に来たボクが最初に聞かされた第一声がそれだった。

 彼女の相談とは、市ちゃんと同じ”幽霊”についてだった。


「それって例えば、露天風呂に入ろうとしたとき黒い影が動いたりとか?」

「そうっ! ……ってなんでカケル兄が知ってるの? ……もしかしてカケル兄、女湯を覗いたの?」


 なっ、なんていう誤解ッ!


「ち、違うよ! ボクがそんなことするわけないでしょ!?」

「そうだよね。カケル兄がそんなことするわけないよね。というか、そんな勇気もないかっ」

「むっ」


 それって、ボクに男気がないって言いたいの? ボ、ボクだって男らしさたっぷりなんだからな!


「そんなことないねっ! ボクだってつい最近、女風呂に入ったし?」

「――くわしく聞かせて?」


 ……しくじった、地雷だったのか。


「じょ、冗談だってば! そんなカエルをにらむヘビのような目をしないで」

「そ、そんな目、してないもんっ」


 光彩を失っていた瞳に、輝きが戻った。

 こ、こわかったぁッ。ママン、ボクちびりそうだったよ。

 話がだいぶそれてきたところで、朝ちゃんが本題へと軌道修正してくれた。


「でもね、ここ最近はわたしの部屋でもおかしなことが起こるようになってるの」

「この部屋で?」

「うん。わたしが本を読んでると、そこの窓から誰かに見られている気がするの」

「……ここから、ね」


 ボクは立ち上がり、朝ちゃんが指さす窓のあたりに寄った。

 ガラッと開くと、外は木々でいっぱいだ。もともとこの旅館は森に接して建っているので、朝ちゃんの部屋は森に面している。

 ……となると、不審者がここから朝ちゃんの部屋を覗いている可能性あり得るわけだ。

 そのことを考慮してボクは朝ちゃんに注意を促した。


「朝ちゃん。一応不審者の可能性があるから戸締りはしっかりするんだよ?」

「うん、わかった」

「それと」

「……なに?」

「危なくなったら、みんなを頼るんだよ?」

「……カケル兄にも、頼っていい?」

「もちろん! ボクたちは”家族”なんだから」


 ボクは朝ちゃんに安心してほしくてこう言ったのだが、


「……そうだね」


 彼女の顔は、なんとも言えない複雑で暗い表情だった。

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