第1話
以前完結した『ようこそ、温泉戦争へ!』を原作とした物語になります。
一味も二味も加わった、甘酸っぱい青春恋愛劇を楽しんでいただければ幸いですm(__)m
桜舞い乱れる、春。
どこかで咲き始めた花々の香りを乗せた風が、橋の上を心地よく通り抜ける。
この風は白黒の髪色をしたボク、湯本架の横を通り過ぎ、前で歩いているワンピースの華やかな女の子の――スカートをひらりっとめくりあげた。
「えっ!?」
いやまあ、ちょっと待ってよ。いくらボクだってパンチラくらいで声を出してしまうことはないさ。こう見えても立派な十八歳なんだ……少年のような見た目は別としてね。
だけど、実際スカートの中身を見て小さな悲鳴のようなものを出してしまった。
だってさ、
「……あの子、パンツはいてなかった」
透き通る真っ白な肌のお尻を目にしたもので、ボクの動悸はおかしくなった。
当の本人であるワンピースを着た女の子は気にする様子もなくスタスタと歩いていく。
「……お、女の子ってそんなものなのかな? やっぱり、ボクにはわからないよ……」
悩みの一つ『女の子の気持ちが全くわからない』を改めて実感し、はぁっと思わずため息をついてしまった。
ボクの職場は温泉旅館。そこで仕事をしながら暮らしている。
同じ境遇の人たちも一緒に生活してるわけなんだけど……。
その中の一人、中学二年生の女の子、朝ちゃんが問題なのだ。
彼女のことは小学校一年生くらいのときから知っていて、妹のように可愛がってきたんだけど、ここ最近になって、ボクに対する態度が冷たくなってきている。
「思春期なんだから仕方がない」と自分に言い聞かせてはいるが、ボクのハートはズタズタに傷ついています。
「……はぁ。早く思春期が終わって、もとのアサちゃんに戻ってくれないもんかなぁ」
ため息をついた、その時。サッと重い気持ちをを消し去るように、爽やかな春の風がボクの横を通り過ぎた。
「まさか……ッ!」
脳裏によぎった光景、それはさきほどの尻・チ・ラ・っ☆
ボクは思わす顔をあげ、前方で歩いているワンピースの女の子に目を向けた。想像したことが現実になってしまう。
――ふわっと柔らかにスカートがめくりあがった。
「もう、いたずらな風ですこと」
ふふっと微笑してから、ワンピースの少女は先へと歩き去っていった。
もう一度スカートの中身を確認して、確信した。彼女は下着をはいていない、と。
実際にそんなことがあるんだなと変に感心しつつも、
「……ほんとうに、わからない……」
女の子って不思議だなぁっと改めて感じるのだった。
眠気が吹き飛んでしまうような出来事の後、本来何をしに来たのかを思い出し、目的地である商店街に足を運んだ。
ボクの朝は、早い。
こうして朝市で商店街に来ているのは、今日一日の食材を調達するためだ。旅館によっていろいろな方式があるんだけど、ボクの働く旅館では新鮮な食材をモットーとしている。
商店街に足を踏みいれ、はじめに八百屋を訪れた。
「おはようございま~す! あらカケルくん、おはよう!」
八百屋の看板娘、菜摘さんが元気よく挨拶してくれた。
ボクは毎朝この声を聞いて一日が始まったんだと、眠たい頭が覚醒する。
「おはようございます。ナツミさん、今日も早いですね!」
「これも仕事だからね! さあ、今日はなにがいるの?」
「えっと……」
菜摘さんに必要な野菜を取りそろえてもらい、次に魚屋のおっちゃんのところを目指した。
「よってらっしゃいみてらっしゃい! 粋がいいの入ってるよ! ……おお、カケルじゃねえか」
「おはようございます、リョウさん」
魚屋のおっちゃん、両さんが声をかけてきた。
おっちゃんはごつい身体に野太い声で、
「今日もナヨナヨしてやがるな、オマエは!」
「そ、そうですか……? これでも筋トレはしてるんですけど……」
「いいや、男たるもの服がはち切れんばかりの肉体じゃなとな! ピピ、貴様の戦闘力はたったの二か、ゴミめ」
「どこぞの戦闘民族だあんたは! それに戦闘力が二って農家のおっちゃんよりも低いじゃないですか!」
ボクってそんなに非力に見えるのかなっ!? いや、落ち着いて考えるんだ湯本架。農家のおっちゃんがプロレスラーかもしれない……そうだろう?
ボクとは違い、両さんの筋肉はすさまじいものだと毎度感心してしまう。腕の筋肉なんか、ゾンビゲームの主人公のようだ。
そういう意味で両さんのことを尊敬のまなざしで見上げていたのだが、何を思ったのか、
「なんだカケル。そんな目で見つめられても、オレはお前のことを受けいれるつもりはねえぜ? 確かにお前は見た目が女っぽいが……」
「何を勘違いしてるんですか! 微塵も違いますよ!」
ぞわっと、背中に鳥肌の山々がそびえたった。これほどまでの寒気を感じたのは久しぶりだぜ……。
しかし、両さんはまだ続けて、
「そんなに照れるなよ。そんなツンデレみたいな素振りを見せたって無駄だぜ? 無駄無駄無駄無駄ァ!」
「どっかの吸血鬼みたいに叫ぶな! もう黙っててください!」
とまあ、いつもの一連の茶番劇は終わったところで、ボクが注文した魚を持ち帰れるように準備し始めてくれた。トントンザクリ、トントンザクリと、魚をさばく音が聞こえる。
両さんの魚を調理する姿は、毎度見ていて恐ろしくなる。異様に楽しそうだ。
目を見開き、にやにやと笑いながらザクリザクリと魚の首を切っている。
こんなの、ホラー映画のワンシーンじゃないか! 毎朝こんなの見せられると、心が死んじゃうよ!
と、毎日心の中で叫んでいるのです。
「よっ、お待たせ! 持っていきな!」
「ヒッ……! あ、ありがとうござます……」
調理台から出てきた、顔のところどころに魚の血がついている両さんを見て、思わず小さな悲鳴をあげてしまう。
こんなの、見てられないよ!
朝から二回も声をあげてしまった自分に情けなさを感じつつも、これは仕方ないと心のどこかで許容するのだった。